霊石の中───
融合体ことフィジオは目を覚ます。辺りは真っ暗で人の気配は全くしない。
「石の中なのか?」
そのまま歩いていくと周りはだんだんと異様な空気になっていく。嫌悪あふれる空気を歩いていくと暗闇の中にポツンと銀色の光が見えた。フィジオはその銀色を目指し歩いていく。そして、だんだんと見えてきた銀色の正体に気づき警戒しながらゆっくりと近づいていく。銀色もフィジオに気が付いたようで軽く手を振ってきた。表情も嫌悪の魔力もだんだんと見えてきてそれが銀色の魔族ギンロ=シルヴァスだと理解した。銀路は声が聞こえる距離まで来ると枯れた声でフィジオへ話しかけてきた。
「やぁ、初めまして。ボクは銀色の使徒元教祖ギンロ=シルヴァスだ。」
「オレは……って言わなくても分かるか……」
「融合体フィジオだろ?知ってるも何もってやつだね。」
「お前はこんなところで何をしているんだ。」
「ボクは今、自分が何をしたかったのかを振り返ったり、君の記憶を覗いたり、晴山優吾の記憶を覗いたり暇を持て余してるよ。」
「くだらないな。というか、オレの記憶している以前のお前はそんなインドアみたいなことはしなかったはずだが……」
「……回復をする中で色々と考えてね。人間のことを晴山優吾を通して見ているんだよ。」
「何を企んでいる。」
「企む?違うね。ボクは見ていると言っただろう?晴山優吾を通してボクの記憶している人間と乖離があるから晴山優吾を通して改めて人間を見ているんだ。そしたらどうだ、ボクの記憶している人間は少数ときた。差別し、侮蔑し、魔族を動物以下の目で見る人間は晴山優吾の周りには少ないと気が付いたんだ。」
「それで?」
「で、もう少し観察してみることにした。」
嘘は言っていないギンロの言葉にフィジオは今の優吾を石越しに見せる。ギンロは相変わらずと言いたげな表情で頬杖を突いた。
「彼はまた、自分のやりたいようにやっているんだね。」
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雨脚が強くなってきた夜のはじめ。背中から落下したサソリは追ってきたユスリへ銀色の小瓶を渡しながら起き上がる。
「教祖代理?」
「私は一旦退散します。あなたも適当にずらかりなさい。」
サソリはそのまま雨の中ビルの谷を翔けて消えていった。ユスリの後ろにはサソリを追いかけてきた優吾が立っていた。ユスリが振り向くと優吾は一気に距離を詰めて拳をユスリへ向けて繰り出す。ユスリはその拳をガードで受け止めて小瓶を見ながら何か誰かいないか探してふと木の上を見る雛鳥がヒヨヒヨと鳴いて親鳥を呼んでいるのを聞く。ユスリは腕の注射器のような器官へ小瓶の中身を吸い出して雛鳥たちへ注入していった。5羽いた雛鳥のうち4匹が死に、残った一匹が銀色の魔族へと姿を変貌させ優吾の前に立ちはだかった。
「新手か!?」
雛鳥は狼のような牙を見せつけ爪を地面で研ぎ構える。ユスリはそれを見届けるとそのまま踵を返し雨の中へ消えていった。優吾はその背中を追いかけようと足を踏み出したが銀色の魔族が立ちはだかり足止めされた。
「アイツら……!」
人間のみならず動物にもこのような仕打ちをしたユスリに優吾はひどく怒りを覚え目の前の存在をどうするか思案する。しかし、魔族は優吾に考える暇を与えず連続で攻撃を仕掛けてくる。
「こいつ…!」
防戦一方の優吾はふとガードしている腕に痛みを覚え痛む個所を見る。鎧がはがれて人肌がむき出しの状態となっており肌色が見えないほど出血している。そのまま気になりだした痛みを我慢しつつ魔族の攻撃を防御する。雨もひどくなってきており視界も不良になってくる。
「くそ、なんつー力だ…」
魔族はそんな優吾を待つこともなく素早い動きでほんろうしてくる。優吾はその動きを見極めようとするが目が追いつかない。雨が降っていることもあって優吾は周辺の水を見渡して水の鎧へ交換することを考えて中心の石に魔力を溜める。
「
水のベールを引きながら飛んできた魔族の蹴りを受け流し水の鎧をまとった優吾は魔族へ向かって指先を向けて構える。
「
かろうじて攻撃を受けるがしかし、カウンターを繰り出す隙が全く無い。数分攻撃を受けていると魔族はわざと隙を作り優吾を誘った。優吾はそのブラフにまんまと引っ掛かりカウンターをしようとボディが完全にがら空きなってしまう。魔族はその隙を逃さず優吾のボディへ思い切り蹴りを入れ優吾を蹴り上げた。宙へ浮いた優吾は慌てて体勢を立て直そうとするが、魔族はそんなことはお構いなしに連続で蹴りを当てて優吾と一緒に宙へ飛ぶ。地上2階から3,4,5と高度が上がってく…
『反撃の隙も、受け流す隙もない……どうしたら……』
雷も腹を立てる中、とうとう地上10階地点に到達した優吾と魔族はそのまま高度を上げていく。戦闘を見ていた落雷は戦闘の行く末をそのまま見守る。攻撃を受け続ける優吾はとうとうガードもできずに数十メートル地点に到達してしまった。落雷のいるホテル全体が見え始め、落下すれば命はないと確信している。魔族はとどめの一撃を入れようと右足だけで優吾を蹴り始めて左足で魔力を溜めている。
『こいつ……俺をここで殺す気だ……どうする……いや、無理だ。これは……』
絶望した優吾の頭上で雷が狙いを定める音をしている。魔族はそんなことはお構いなしで左足の魔力充填に集中している。そして、充填し終わった左足を優吾へ向けた瞬間、その場の誰でもなく、自然が二人を襲った。周囲が白と黒に見えるほどの光が大きな音とともに二人を撃ち抜いた。黒焦げになった二人はそのまま頭から落下していって魔族は落下途中で気が付き戦闘から離脱した。
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体中が熱に侵されたような感覚になる。かと思えば、筋肉が硬直して俺は地面に向けて真っ逆さまに落ち始める。
「ま、負けた……」
正直、さっきの落雷がなかったら俺は確実に死んでいた。いや、これから死ぬのかもしれんが、それでも数秒しか生きられなかっただろう。今どのみち、結局落下で死ぬわけだが。
『そんなあっけなく死ねると思うかい?』
生意気な声が聞こえてくる。前聞いた時よりは枯れた声は治っているが、それでも風の引き終わりのような声に俺は上空で意識を取り戻す。
「ギンロ=シルヴァスか?」
『いかにも。ギンロ=シルヴァスだよ。それで?このまま死ねると思ってる?』
「できれば死にたくない……というか、ここからでも入れる保険があるってマジ?」
『保険?違うよ。君、今の落雷で新しい魔法属性を手に入れたよ。』
新しい属性?こいつは何を言っているんだ?胸の中心に違和感を覚えて見下ろしてみると黄色い何か妖精のようなものがニコリと微笑むと石の中へ入っていった。すでに魔力を使いつくして白い鎧になっていた俺は新しく取得した魔力属性を使おうと霊石にどうすればいいか聞くが石の中の大魔導師たちは何も反応しなかった。
「この人ら嘘だろ……!」
次第に地面が迫ってくる中、俺は拳で地面を殴り総裁しようと腕を伸ばした。
2/25:霹靂