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2/44:進行

「私の寿命の半分を対価にこの子を助けてくれ。」


「いいだろう……しかし、貴様の寿命の半分だけか……脳に障害は残るだろうな。」


「……残らない方法はないのか!?」


「あるにはある。この子の記憶も対価にすれば記憶はかけた状態でほぼ完全に戻る。」


春香はその条件を飲んで、契約を交わした。みるみるうちに優吾は治っていくが、障壁が発生する。春香の寿命が足りなくなったのだ。


「なんで……半分取れただろ?なんでだ!」


「……記憶が足りないみたいだな。」


「記憶?この子の今まで読んだ本の記憶を対価にしたはずだ………いや、わかった今日の記憶も対価にすればどうなる?」


「……魔力回路が作用しない体になるだろうな。」


「そんな……」


「いつかは、真実を話せ。我から言えるのはこれくらいだ。」


春香は、涙を呑んでそれに了承した。優吾が光に包まれると完治した。優吾はその日一度も目を覚まさずに終わった。アレイスターが消える間際、春香へこう言った。


「そのガキ。いつか石に選ばれるだろうな。」


「何を言って……」


黒い本はそのまま閉じて書斎は静まり返った。


───────────────────


「俺の魔力回路は俺自身が…そのせいで母さんが……」


アレイスターは優吾の肩へ手を乗せて無言で首を横に振る。


「それは違う。お前のせいではない。これは不慮の事故だ。誰のせいでもないんだ。だからそんなに落ち込むな。」


「アレイスター……」


優吾は立ち上がると持っている腕を燃やして鮮血も燃やす。


「記憶は戻ったけど……これって契約無効にならねぇか?」


アレイスターに向き直るとアレイスターは何ら問題ないと言って本を読み始める。そして、ロゼが話を戻そうと優吾に近づく。


「魔族化の進行の原因は分かったとして……これから進行を遅らせる方法をこちらで探ります。あなたも気づいたことがあればどんどん言ってください。」


優吾はロゼの言葉にうなずくと石の中から戻ることができた。時刻は早朝4時頃、隣を見ればジュンとチハヤとクロスケが眠っている。


「まぁ…どうにかするか……」


起き上がって朝ごはんの準備をする。しかしながら、魔族化のことを考えると準備している手元が狂って包丁で自分の指を切ってしまうが、すぐに再生する。それを見て少しうれしいような悲しいような顔になる。


「どうにかなるのかな……」


色々と考えながら朝ごはんを作り終えて優吾は二人と一匹を起こして朝食を摂った。双子は優吾のいつもと違う様子に少し疑問を持ちながらもそのまま朝食を摂って準備をして彩虹寺のお迎えを待つ。


「一応、機関の人たちに迷惑かけないようにな。」


「大丈夫だよ。」


「そうそう、それよりもお兄ちゃん。綾那お姉ちゃんに会うんだよ?そんな恰好でいいの?」


最近年相応になってきた双子はそんなマセたことを言い始めている。優吾はため息を吐きながら双子の頭を優しくなでる。


「そういうのいいから、ほら、お姉ちゃんが来たぞ。」


玄関に足音が聞こえてきて扉が開くと彩虹寺が入ってくる。双子と目が合うや否や頬が緩み気味になり頭を優しく頭をなでる。


「二人ともおはよう。今日から小学校卒業証を目指して頑張ろう。」


二人は元気に返事をすると靴に履き替えて玄関を飛び出した。優吾と彩虹寺もそのあとに続き本部へと歩き始める。


「……玲央から聞いた。君、身体能力が魔族みたいに上がったみたいだな。」


「もうバレたのかよ……まぁいいや。そうだよ。俺、今魔族になってるみたいなんだよ。」



重要なことをサラッと言った優吾に彩虹寺は少し引き気味の視線を送る。


「なんだよ。」


「いや、重要なことを濁さずに言ってくれたのはいいが、そこまでサラッと言われると少し引くぞ。」


「そうか?俺はお前だから言ってんだが……まぁいいや。とりあえず今はどうやったらこれを進行を遅らせることができるか考え中だ。」


彩虹寺はそれを聞いて少し考えるが、何も言い出せずに口を開いた。


「私も調べてみよう……それはそうと、君、何か忘れているだろ?」


「何か、忘れている?何を?」


「君、今学校でみんなが何を話しているかわかっているか?学園祭だぞ。」


「学園祭?まじで?俺何も聞いてないぜ?」


「はぁ、君というやつは……いや、仕方ないか……去年の体育祭はいなかったものな。今年は学園祭だ。まだ何も決まってないが、みんな最近の話題はそれで持ちきりだ。」


「学園祭……か……俺は、どのみち便利屋さんとして使われるんだろうな……」


ブツブツと何かをつぶやく優吾の肩に手を置いて彩虹寺は前を歩く。本部へ着くと双子を琉聖へ引き渡して雪白や、凪の後輩たちを待つ。


「二人とも、双子と歩いていると親子みたいだね。」


「何言ってんすか。」


「そうですよ。コイツが父親だと不良が育ちます。」


二人はお互い冗談っぽく鼻で笑って出されたティーカップに手を伸ばして紅茶を飲む。そして、後輩たちが来ると伸びをしてそのまま集団登校した。


2/44:進行

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