晴山 優吾、彩虹寺 綾那の通っている高校では年に一度学園祭がある。魔法や魔術を使った様々な催し物を見ることができる。普段の学業以外の成果も見せるための祭りにもなっている。そんなクラスごとでの出し物だが、優吾のクラスはどうやらまだ決定していないらしい。
「というわけで…今日で出し物を決定したいと思います。今、案が出ているものとして、メイド喫茶、お化け屋敷、焼きそば、焼きとうもろこし……どれもこれもほかのクラスに取られたものです……誰か、何かありませんか~?」
数分の沈黙のあと、だんだんとクラスメイト達が挙手をして案を言っていく、バンド、演劇、果ては魔法でのショーなんかも出たが、どれも意見が半分に別れてしまう。演劇では、男子が拒否し、魔法でのショーは女子が反対する。優吾も悩んで黒板を見つめているが、しかし、何も思い浮かばない。この頃は長い戦闘が立て続けて起こっていたので、思考がそこまで進まない。
『あぁ……早く終わらねぇかなぁ……』
『何やら面白いことで悩んでいるようだな。』
暑苦しい声に優吾は思わず机に突っ伏して石に向かって話しかける。声の主は炎の大魔導師スカーレッド=アルフレアだ。その後ろでは他の大魔導師が早く変われと騒いでいる。
『お前ら、ちょっと静かにしろよ……というか、そんなにしゃべるならなんか案があるんだろうな?』
優吾の声にアルフレアが元気に答える。
『それは、オレ主催の魔力トレーニング講座だ。オレが少年の体を使って魔力コントロールの講座をするのだ。』
『そりゃダメだろ。俺のクラスでの立場ってのは今少し浮き気味なんだよ。それはなしだ。』
アルフレアはその言葉を聞くと後ろで控えていた酔流が前に出る。
『では、君を先頭に
『そんな器用なこともできるのかよ……いや、じゃなくて!女子は女子だけではやりたがらないだろうよ。だって、魔法でのショーも断ったんだぜ?』
『……!たしかに……!それなら私は引き下がろう。』
酔流が後ろへ下がるとテンペスト・ガゼルフォードが出てくる。
『歌はみんなを幸せにする……みんなで
『却下。』
『り、理由もなしかい……?』
そのまま後ろへ下がるとジークフリート兄弟が前に出て二人で一緒に叫ぶ。
『『ドラゴン肉焼き一択だ!』』
『ドラゴンの肉は誰が用意すんだよ。それにドラゴンって食っても問題ないのか?』
『『……』』
『次。』
ジークフリート兄弟は雷の妖精に押しのけられるとロゼを通して優吾へ提案する。
『「コロシアム!」と言ってます。どうやら、校内のドーム体育館を使ってトーナメント形式で魔法合戦をするみたいです。』
その言葉を聞いたフィジオとギンロが前に出てくる。
『それ、オレも考えてた。』
『君の力を改めて学校中に知らしめれば、浮くこともなくなるだろう?』
優吾はその言葉に一瞬考える。魔法合戦をして優勝まで行かなくても自分が魔法を使えることを知ってもらえれば自分自身も居心地が悪くならないだろうし、何より校内での実力者が誰なのかも知りたい。
『と言ってもよぉ?校内ってさすがに規模が大きいし、多分それ来年の体育祭でやると思うぞ?』
『んじゃ、出してみればいい。案を出さないことには何も始まらない。先生がダメと言ったらそれまで良いと言えばそれでいいだろ?』
フィジオがそういうと、ロゼが前に出てくる。
『そうですよ。選ばれしもの。口に出さないことにはどうにもならないですよ。ね?クロウリー?』
『我は興味ない。だが、しかしそうだな。言葉に出さなければ伝わらないこともある。まずは手を挙げるところから始めるといい。』
机に突っ伏していた優吾は静かに頭を上げて恐る恐る挙手をすると委員長は優吾を指名する。クラスメイトたちは一気に静まり返り、優吾へ視線が集中する。優吾は緊張で唇が風る得手歯が軽くカチカチと当たる。
「どうしたんですか?何もないなら……」
「いや、ある。あります?ある!その…校内でトーナメント形式で魔法合戦を……なんて……」
優吾は静かに手を下げると沈黙が数秒続き、そして、委員長が教壇をポンとたたくと優吾に指をさす。
「それ、いいかもしれません!」
その言葉にほかの男子生徒が手を挙げて反論をする。
「でもさ。それって、来年の体育祭あたりでやりそうじゃね?」
委員長はその言葉に一瞬考えて担任を見つめる。担任も数分黙って長考する。そして、優吾へ改めて聞く。
「校内っていうのは、全校生徒対象か?それともクラス内で魔力上位とか……あとは、体育祭でやるのは、一般魔法や一般魔術を駆使してやるものだが、そこら辺はどうだ?」
優吾は、視線の集中に耐えられずに机に突っ伏しそうになるが、石の中から魔導師たちが言葉をささやいていく。
「ま、魔法や、魔術に制限はなし……えっと、大きな怪我がない程度の威力で、えっと、格闘技で言う無差別的な……あとは、男女の壁もクラスも年の壁もなし……とか……」
担任はそれを聞いてさらに長考する。その時、授業終了のチャイムが鳴ってしまった。担任は一旦授業を閉めて確認しに行きたいと言って挨拶もなしに授業が終わる。去り際にホームルームで決めてるように聞いてくるから掃除が終わったら帰らずに待っててと言いそのまま廊下を小走りで去っていった。
「まじか……」
優吾はあわただしくなった様子に少しうれしいような恥ずかしいような気持になる。その様子を見て彩虹寺は頬を少し緩ませながら優吾の席へ行き肩に手を置く。みんなは掃除を始めるために机を動かし始めていた。
「誰の意見だったんだ?」
「いや、最近入った雷の妖精がそう言ったらしい……あとはギンロもフィジオも賛成らしい。」
「おそらく、君の今の力を一般の生徒などで試してどこまでのレベルになっているか知ってほしいんだろうな。」
「そう、なのか……?そうなんだぁ…」
彩虹寺は肩をポンポンとたたいて自分の机を後ろへ下げて自分の持ち場へ向かっていった。優吾も自分の持ち場へ行き掃除を始める。後ろからメガネ男子が声をかけてくると優吾はそこへ体を向ける。
「な、なんだ?」
「い、いや、その、面白い案を出したね…先生があそこまで焦っているのボク始めてみちゃった。」
「そ、そうか……それはよかったな……」
そこから優吾へ女子や男子が分け隔てずに群がってくる。優吾はその群がりに少し戸惑いながらも久しぶりだなと思いながら相槌をうったり会話をしていった。
ここから学園祭まで一気に時間が飛ぶ。
2/45:代替案