気がついたら、目の前がゾンビだった。
「……へ?」
間抜けな声を漏らした俺の前で、腐りかけた顔の集団が、ゆっくりと、しかし確実に距離を詰めてくる。
「いやいやいやいや、無理無理無理無理!!」
叫んで背中を向けた俺は、無我夢中で走った。
どこだここ!夢か!?寝起きドッキリか!?
いや、ドッキリにしちゃ規模がでかすぎるし、ゾンビの肌の質感がリアルすぎる!
走りながら周囲を見回していると、廃墟みたいなビル群の間に、ぽつんと一台だけ、ピカピカの車が停まっているのが見えた。
「た、助かったぁぁぁっっ!!」
滑り込むようにドアに手をかける。
カチャッ──あっさり開いた。
中に飛び込んだ途端、ドアが自動で「ガシャン!」と閉まった。
「……セーフ?」
息を切らしながら外を見ると、ゾンビたちが車体に群がっている。
ドンドン!バンバン!ガンガン!と叩きまくっているが、車体はびくともしない。
まるで岩のような安定感。ガラス一枚すら割れそうにない。
「え、なにこれ、めっちゃ安心する……」
腰を抜かし、へたり込んだまま見上げた車内は、想像していたよりも広かった。
小型のキッチン、ベッド、ソファ、冷蔵庫まである。まるで動くワンルームマンションだ。
「は?……え? これ、キャンピングカー?」
混乱する頭を必死で整理しながら、もう一度外を見た。
廃墟。ゾンビ。ぐちゃぐちゃの道路標識。
そして、見慣れた日本語の看板。
「……ってことは、ここ、未来の日本?」
ようやく飲み込めた。
俺は異世界に転移した──いや、未来の地球に転移してしまったらしい。
「何それ聞いてないんだけど!!」
誰に向かって怒鳴っているのかわからない。
だが今はとりあえず、生き残れたことに感謝すべきだろう。
冷蔵庫を開けると、冷えたコーラが一本入っていた。
俺は無言で取り出し、プシュッと開けて一気に飲み干す。
「──生き返るわ」
ドタバタの未来ゾンビライフ、開幕である。