フリーダム号を駐めたのは、ドラッグストア跡地だった。
「よーし、物資探し第一弾、行ってみようか!」
そう言って、俺──松本秀人(まつもとしゅうと)は、意気揚々とドアを開けた。
外は静まり返っている。
ゴミと砂埃だけが、寂しげに風に舞っている。
「……おっかしいな。ゾンビ、出ないんだ?」
拍子抜けしつつ、店の中へ。
案の定、電気は通っていないが、昼間の光でそれなりに見える。壁にはひび割れ、床は雑草が割れ目から生えている。
食品エリアを見つけた俺は、サクサクと物資探索を始めた。棚に並ぶホコリだらけの缶詰、袋菓子、インスタント麺。宝の山じゃないか!
「うわー、これ、全部タダとか最高すぎる!」
リュックに手当たり次第詰め込む。が、問題は保存食だけじゃない。水、医療品……は真っ先に荒らされてる、それより何より……冷蔵食品!
「凍らせときゃ、ワンチャンいけるんじゃね?」
そんな淡い期待を抱きながら、店員しか入れない「従業員専用」エリアへ向かう。
暗い通路の奥。目指すは冷凍倉庫だ。
「冷凍ピザとか、アイスとか……あったら神だな」
ウキウキしながら重い扉を押し開け──その瞬間、背筋が凍った。
真っ白な霜に包まれた倉庫の奥。
そこに、立っていた。
全身霜まみれ。
顔面も指もガチガチに凍り、青黒くなったゾンビが、カチ……カチ……と、不器用に首を傾げてこちらを見ている。
──おいおい、冷凍保存ゾンビって聞いてないぞ。
一瞬たじろいだが、ゾンビの動きはスローモーションだ。
歩くというより、滑るようにヨロヨロと足を運んでくる。
「……遅っ!」
思わずツッコミを入れる。
「……ま、いっか」
余裕をぶちかましながら、冷凍食品の棚に近づく俺。
ゾンビがカクカクとこちらに近づく間に、冷凍チャーハンをゲット。
さらに一歩。冷凍餃子、ゲット。
さらに──「冷凍たこ焼き!勝ち申した!!」
ゾンビはようやく俺の数メートル手前まで来ていた。
指先を伸ばしてくるが、あまりにも鈍すぎて迫力ゼロだ。
「はいはい、そこでストップなー」
軽くスウェイで交わしつつ、戦利品をリュックに詰め込む。(※誰に言っているわけでもないが、ノリは大事だ)
それにしても、ここまで接近されてもビビらない自分に、俺はちょっと感心した。
「……これ、もしかして、俺、ゾンビ耐性バリ高?」
そう自画自賛しながら、最後に冷凍唐揚げをつかんだ。
「ありがとなー。君たちのおかげで冷凍食品補給できました!」
軽口を叩きつつ、悠々と冷凍倉庫を後にする俺だった。