冷凍たこ焼きと唐揚げを手に入れ、上機嫌で店を出たその瞬間──
「……うわ、マジかよ」
フリーダム号がゾンビに囲まれていた。
十体、二十体じゃきかない。
うじゃうじゃ、ガチャガチャ、フリーダム号に集まってはドアを叩いたり、窓を舐めたりしている。
やめろ、不衛生だぞ!
「……いや、無理無理、あの数はさすがに笑えんて」
俺は一歩下がり、深呼吸した。
焦り? ない。
武器? ない。
でも──アイデアならある。
「さて、どうしたもんか……雑貨屋とかあったっけ?」
ドラッグストア内をぐるっと見渡し、目についたのは雑貨エリア。
割れて崩れたガラスの隙間から、懐中電灯で棚を照らす。
食品コーナーの隣、BGM機器・販促用品の棚──その片隅に、あった。
『呼び込みくん』
~あの店先で流れてる耳に残るメロディをあなたの手に~
「見っけた!」
小さなスピーカーに、陽気なループ音源。
電池式で、スイッチを入れるだけ。
「これは……ゾンビホイホイだな」
俺は4台の呼び込みくんを手に取り、単三電池と一緒にレジ袋に放り込んだ。
◆◆◆
10分後、俺は店の外、フリーダム号から50メートルほど離れた位置にいた。
柱の陰にしゃがみながら、呼び込みくん4台を等間隔に設置する。
スイッチを同時に──
ピロピロピロ〜 ピロリロリ〜♪
ピロピロピロ〜 ピロリロリ〜♪
軽快なリズムが、ドラッグストアの廃墟にこだまする。
「……来た来た来た!」
ゾンビたちの群れが、一斉に首をもたげる。
フリーダム号を忘れたかのように、足を引きずって音の方向へトボトボと歩き始めた。
「……マジで呼び込まれてるやん……」
呆れつつも作戦成功にガッツポーズ。
ゾンビたちが呼び込みくんに群がっている隙を見て、俺はフリーダム号にダッシュ!
ドアの前に立つ数体を避け、手のひらをパネルにタッチ。
認証完了──ようこそ、松本秀人様。
自動ドアが「シュン」と開いた。
「ただいま、フリーダム号!!」
飛び込んだ瞬間、ドアが自動で閉まり、隔絶された安全空間。
汗だくになった体をソファに沈めた俺は、天井を見上げてぽつりと呟いた。
「……やっぱ、あのメロディ最強だな」
呼び込みくんの効果は絶大だった。
ゾンビは単純。音に釣られる。
そして俺は、少しずつこの世界での“サバイバルのコツ”を掴みつつある──そんな気がした。