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第4話 荒野の群狼

「……何か、音、した?」


 呼び込みくんゾンビホイホイ作戦後、フリーダム号はドラッグストアから遠ざかるように移動していた。


 が、舗装の剥がれた道路を走っていると、どこからか低く唸るような声が聞こえた。


「まさかゾンビじゃ……ないよな?」


 秀人がハンドルを握りながらバックミラーを確認する。


 ──カサッ。

 ──ザザッ。


 道の両脇、枯れた雑木林の影から、何かがついてきている。

 そして、見えた。


 灰色の毛並みに鋭い牙、鋼のような筋肉をまとった野生の狼。

 しかも一頭じゃない。


「おいおい、群れかよ!」


 右から、左から、木立の間を縫うように現れる狼たち。

 音もなく、だが確実に、フリーダム号の動きに合わせて付いてくる。


「フリーダム号、出力上げるぞ!」


 アクセルを踏み込み、未舗装の道路を突っ切る!

 ズシン、ズシンとタイヤが跳ね、車体が揺れるたびに中の冷凍たこ焼きが踊る。


「どんなとこでも走るって書いてあったけど、これ砂利というか、ほぼ崖道だよ!? 行ける!? 行くよな!? フリーダム号だもんな!!」


 そんな自問自答してる間にも、狼の群れは食いつくように迫ってくる。


 ガツンッ!


 一頭が側面に飛びかかる。

 だが──


「おっと、無敵装甲舐めんなよ!」


 フリーダム号のボディはびくともしない。

 跳ね返された狼は転がって立ち上がり、また後を追う。


「これ……ゾンビよりやばくね?」


 ゾンビはゆっくり、音と匂いに釣られるだけだった。

 だが、狼は違う。


 動きが早く、頭も良く、何より生きてる人間の匂いに敏感だ。


「俺のたこ焼きより、こっちが本命ってことかよ……」


 半笑いで呟きつつも、秀人はハンドルを右へ切る。

 坂を下ると、広がるのは小さな湿地帯。

 泥と草に足を取られる狼たちが、次々に足を止めていく。


「……止まった?」


 やがて、追ってくる狼の姿は途切れた。


 静寂。

 遠くで鳥の声が聞こえる。


「……はー、勘弁してくれよマジで」


 ハンドルに額をつけて、しばらく息を整える。


「……ゾンビより生き物の方がよっぽど怖ぇじゃん……」


 だが──秀人は気付いていた。


 あいつら、まだ終わってない。


 完全に諦めたわけじゃない。

 どこかでこちらの動きを見て、追うべきかどうか、判断してる。

 ただの動物じゃない。

 ここで生き抜いている“野生”のプロだ。


「……フリーダム号、もっと遠くへ行こう。狼のテリトリー、抜けるまでな」


 誰に聞かせるでもない独り言。

 だがその声に、エンジンの音が答えるように響いた。

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