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第8話 道の駅と後悔とゲーム機

「おっ、道の駅常総だ!」


 フリーダム号のフロントガラス越しに見えてきたのは、大きな長方形の建物。

 広い駐車場には、車がズラリと並んでいる。まるで休日の午後みたいだ。


「人、いる……のか?」


 慎重に周囲を確認する。

 が、動く影はない。車も全部止まったまま。

 エンジン音もラジオも聞こえない。


「ま、でも今まで通りか。無人っぽいなら、ちょっと寄ってみっか」


 どうせ無人なら、何か物資があるかもしれない。

 それに、あの“道の駅のソフトクリーム看板”──なんかちょっと心が踊る。


 ……問題があるとすれば、フリーダム号をちょっと遠くに停めたことだけだった。


「さてとー。じゃ、中入って──」


 自動ドアがこちらを感知して「ウィン……」と開こうとした、その時。


 ドアの向こう、ガラスの向こう側に──


 ゾンビ。びっしり。


「……うわあああああっ!?」


 一面のゾンビ顔、顔、顔!!

 ガラスに押しつけられた顔面がギシギシと歪み、唾液を飛ばしている。


「ちょ、ちょっと待って、何その団体さん!? バスツアー!?」


 慌てて後退する。


 ──バリィィィンッ!!!


 自動ドアがもげた。

 ゾンビが、雪崩のように流れ出てきた。


「うおおおおお!!?」


 全力で踵を返す。


「やばいやばいやばい!なんでこんな遠くに停めたかなああああ!!」


 今さら後悔しても遅い!

 秀人は駐車場に並んだ車の間をジグザグに駆け抜ける。


 ゾンビの群れは、まるで水のように広がりながら追ってくる。


「てか車、多すぎっ!進めねえ!!」


 走る、よける、飛ぶ──

 リアルパルクール状態。


 そんな中、ふと目に入った。


 助手席にぽつんと置かれたポータブルゲーム機。


「え、あれ……めっちゃレアな限定モデルじゃね?」


 足が、止まりかけた。


「いや、ゾンビに追われてなければ拾ってた……てか今それ言う!?俺!?」


 後ろから「ガァァァ!」という唸り声。

 すぐに現実へ引き戻され、再び猛ダッシュ!


「フリーダム号!フリーダム号!開けろぉぉぉぉ!!」


 パネルに手をかざす。


 ──ようこそ、“しゅう”様。


 ドアが開く瞬間、足元にゾンビの手が届きかける。


「やめろ!その手は限定ゲームじゃねえ!!」


 飛び込むように車内へ。

 ドアが閉まる。ゾンビの手がガラスにぶつかるが、例によってびくともしない。


「……っっぶねぇぇぇぇ……!」


 ソファに倒れ込みながら、ぜえぜえと息を吐く。


 窓越しに、車に囲まれたゾンビたちの姿が映る。


「せっかく……久しぶりに文明っぽいとこ来たのに……ゲーム機……」


 しょんぼりしながら缶コーヒーを一口。


「ゾンビに追いかけられてさえなければ……っ」


 フリーダム号の中、安心と後悔が入り混じる午後。

 秀人はまた、ひとつこの世界の“罠”を学んだのだった。


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