「おっ、道の駅常総だ!」
フリーダム号のフロントガラス越しに見えてきたのは、大きな長方形の建物。
広い駐車場には、車がズラリと並んでいる。まるで休日の午後みたいだ。
「人、いる……のか?」
慎重に周囲を確認する。
が、動く影はない。車も全部止まったまま。
エンジン音もラジオも聞こえない。
「ま、でも今まで通りか。無人っぽいなら、ちょっと寄ってみっか」
どうせ無人なら、何か物資があるかもしれない。
それに、あの“道の駅のソフトクリーム看板”──なんかちょっと心が踊る。
……問題があるとすれば、フリーダム号をちょっと遠くに停めたことだけだった。
「さてとー。じゃ、中入って──」
自動ドアがこちらを感知して「ウィン……」と開こうとした、その時。
ドアの向こう、ガラスの向こう側に──
ゾンビ。びっしり。
「……うわあああああっ!?」
一面のゾンビ顔、顔、顔!!
ガラスに押しつけられた顔面がギシギシと歪み、唾液を飛ばしている。
「ちょ、ちょっと待って、何その団体さん!? バスツアー!?」
慌てて後退する。
──バリィィィンッ!!!
自動ドアがもげた。
ゾンビが、雪崩のように流れ出てきた。
「うおおおおお!!?」
全力で踵を返す。
「やばいやばいやばい!なんでこんな遠くに停めたかなああああ!!」
今さら後悔しても遅い!
秀人は駐車場に並んだ車の間をジグザグに駆け抜ける。
ゾンビの群れは、まるで水のように広がりながら追ってくる。
「てか車、多すぎっ!進めねえ!!」
走る、よける、飛ぶ──
リアルパルクール状態。
そんな中、ふと目に入った。
助手席にぽつんと置かれたポータブルゲーム機。
「え、あれ……めっちゃレアな限定モデルじゃね?」
足が、止まりかけた。
「いや、ゾンビに追われてなければ拾ってた……てか今それ言う!?俺!?」
後ろから「ガァァァ!」という唸り声。
すぐに現実へ引き戻され、再び猛ダッシュ!
「フリーダム号!フリーダム号!開けろぉぉぉぉ!!」
パネルに手をかざす。
──ようこそ、“しゅう”様。
ドアが開く瞬間、足元にゾンビの手が届きかける。
「やめろ!その手は限定ゲームじゃねえ!!」
飛び込むように車内へ。
ドアが閉まる。ゾンビの手がガラスにぶつかるが、例によってびくともしない。
「……っっぶねぇぇぇぇ……!」
ソファに倒れ込みながら、ぜえぜえと息を吐く。
窓越しに、車に囲まれたゾンビたちの姿が映る。
「せっかく……久しぶりに文明っぽいとこ来たのに……ゲーム機……」
しょんぼりしながら缶コーヒーを一口。
「ゾンビに追いかけられてさえなければ……っ」
フリーダム号の中、安心と後悔が入り混じる午後。
秀人はまた、ひとつこの世界の“罠”を学んだのだった。