「……無理だな、こりゃ」
道の駅の駐車場には、ゾンビの群れがまだうごめいていた。
車とゾンビでごった返す光景は、まるで渋滞の再現VTR──ただし死者限定。
「こんだけ混んでちゃ、フリーダム号でも脱出は無理だわ」
道も塞がれ、逃げ場もない。
だが、焦りはなかった。
なにせここには、フリーダム号がある。
ガンガン車体を叩かれてはいるが、全く揺るがない。
それどころか、わずかな揺れが心地よいリズムになっている。
「……これ、もしかして“ゾンビ式ゆりかご”ってやつ?」
ソファに身を沈め、しばしのまどろみ。
……が、腹の虫がそんなムードをぶち壊した。
「ぐー……うるせぇ……腹減った……」
そういえば今日は朝からまともに食ってなかった。
「よし、たこ焼きだ」
冷蔵庫から取り出した冷凍たこ焼きは、霜が白くぶ厚く張っていた。
いつ製造されたのか不明な一品。
だが電子レンジがある。フリーダム号には当然のように完備されているのだ。
「頼むぜ、未来の家電。冷凍食の命綱」
タイマーを少し長めに設定し、チーン。
……開けると、湯気がもわっと広がる。
見た目は……ちょっとふにゃってるけど、柔らかいとポジティブに捉えよう。
付属のソースをたっぷりかけて──
「はふっ、はふっ……うまっ!!」
ひと口で、世界が明るくなる。
「これ……ビール欲しいなぁ……」
思わず缶を探すが、出てくるのはコーラと水と非常用栄養ドリンクばかり。
「どっかでビール補充できないかな……道の駅だし、地ビールあったんじゃね……」
外を見る。
ゾンビの波。
……無理。
「……あきらめて、カップヌードル行くか」
今度は湯沸かしポットを起動。
このキャンピングカー、湯沸かしすらストレスゼロ。
選ばれし第二のメニューは──
「カップヌードル・醤油味」
お湯を注ぎ、3分。
「うん……劣化してねぇ!」
蓋をめくって、ズズッと一口。
「これは……文明の味!」
ゾンビがどうとか、未来がどうとか、もうどうでもよくなる味。
フリーダム号の中は、今日も安定の無敵空間だった。
窓の外では、まだうろつくゾンビたち。
だが群れは少しずつバラけはじめている。
「……朝には、隙間できてるといいな」
腹を満たし、背中をベッドに預ける。
ふかふかのマットレスが体を包み、遠くでゾンビのうめき声が子守唄になる。
「フリーダム号……最高だな……」
ゆっくりと目を閉じる。
終末の夜に、ひとりだけ平和な夢を見る。