朝になった。
ゾンビの群れは、夜の間に徐々にバラけてくれたようで、駐車場には隙間ができていた。
「よっしゃ、出るぞ! フリーダム号、発進!!」
無事に道の駅常総を脱出。
朝の光の中、荒れた道路を南へと進み出す。
と、その時だった。
「そういや、昨日たこ焼き食ったとき、めっちゃ思ったんだよな……」
運転席で一人ごちる。
「ビール、欲しい」
その一言は、フリーダム号の次なる目的地を決定づけた。
「守谷って、たしか……アサヒのビール工場あったよな?」
TV番組で見た。見学もできるミュージアムが併設されてたやつだ。
「道的にも、このまま進めば守谷に行けるし……これはもう、ビール獲得ミッション、発動でしょ!」
テンションを上げながら、荒れた常総の道を南へと突っ走る。
◆◆◆
しばらくして。
守谷のビール工場が見えてきた。
遠目に見ても、建物はデカい。
でも、その分──動く影も多い。
「……うわぁ、ゾンビ、多っ」
敷地内の駐車場、出入口、構内通路。
あらゆるところにゾンビがうろついている。
中には制服を着たままの個体もいて、従業員だった名残を感じさせる。
「工場の中には……絶対入らん。あれ死ぬやつ」
慎重な判断。
だが、秀人の目は別の方向に向いていた。
敷地の端、配送用のトラックが数台停まっているエリア。
「あそこだ……狙いは、あのトラック!」
雑草と瓦礫の間を縫って、そーっとトラック群へ近づく。
「ここから先はフリーダム号の出番なし。俺、行く!」
忍び足で移動開始。
近くにゾンビはいない。
大通り側に引き寄せられているのか、裏手のトラックエリアは比較的安全そうだ。
一台目──空っぽ。
二台目──ビンの割れた音がするが、中身はない。
三台目──冷却庫つきの車両。その扉を開けると──
あった。
ダンボール箱に詰められた缶ビールが、いくつも。
「神か……?」
恐る恐る一本手に取り、賞味期限を確認。
【製造年月】203X年4月
【賞味期限】切れてるけど、1年ちょっと前だし……たぶん大丈夫?
「いける。これはいけるやつ!」
慎重に5〜6本をリュックに詰め込み、すぐさまその場を離れる。
ゾンビたちはトラック群に気づいていない。
再びフリーダム号に戻り、滑り込むようにドアを閉める。
「……成功!!」
車内に戻った瞬間、小さくガッツポーズ。
床に座り込み、一本の缶ビールを手に取り、プシュッと開ける。
「じゃ、終末世界に乾杯……っと」
ぐい、とひと口。
「……っ、うまっ!」
世界が色づいたような錯覚すら覚える。
ぬるいし、微妙に炭酸も弱くなってるけど──それでも、
「うまい。間違いなく、生きてる味だ……!」
ビール工場には足を踏み入れなかった。
だが、狙いを“トラック”に絞った判断は正しかった。
「フリーダム号……マジで最高の相棒だな」
道の駅とビール工場を経て、また一つ、秀人はこの終末世界での“生き方”を知ったのだった。