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第10話 ビールを求めて三千メートル

 朝になった。

 ゾンビの群れは、夜の間に徐々にバラけてくれたようで、駐車場には隙間ができていた。


「よっしゃ、出るぞ! フリーダム号、発進!!」


 無事に道の駅常総を脱出。

 朝の光の中、荒れた道路を南へと進み出す。


 と、その時だった。


「そういや、昨日たこ焼き食ったとき、めっちゃ思ったんだよな……」


 運転席で一人ごちる。


「ビール、欲しい」


 その一言は、フリーダム号の次なる目的地を決定づけた。


「守谷って、たしか……アサヒのビール工場あったよな?」


 TV番組で見た。見学もできるミュージアムが併設されてたやつだ。


「道的にも、このまま進めば守谷に行けるし……これはもう、ビール獲得ミッション、発動でしょ!」


 テンションを上げながら、荒れた常総の道を南へと突っ走る。


 ◆◆◆


 しばらくして。


 守谷のビール工場が見えてきた。


 遠目に見ても、建物はデカい。

 でも、その分──動く影も多い。


「……うわぁ、ゾンビ、多っ」


 敷地内の駐車場、出入口、構内通路。

 あらゆるところにゾンビがうろついている。

 中には制服を着たままの個体もいて、従業員だった名残を感じさせる。


「工場の中には……絶対入らん。あれ死ぬやつ」


 慎重な判断。


 だが、秀人の目は別の方向に向いていた。


 敷地の端、配送用のトラックが数台停まっているエリア。


「あそこだ……狙いは、あのトラック!」


 雑草と瓦礫の間を縫って、そーっとトラック群へ近づく。


「ここから先はフリーダム号の出番なし。俺、行く!」


 忍び足で移動開始。

 近くにゾンビはいない。

 大通り側に引き寄せられているのか、裏手のトラックエリアは比較的安全そうだ。


 一台目──空っぽ。

 二台目──ビンの割れた音がするが、中身はない。

 三台目──冷却庫つきの車両。その扉を開けると──


 あった。


 ダンボール箱に詰められた缶ビールが、いくつも。


「神か……?」


 恐る恐る一本手に取り、賞味期限を確認。


【製造年月】203X年4月

【賞味期限】切れてるけど、1年ちょっと前だし……たぶん大丈夫?


「いける。これはいけるやつ!」


 慎重に5〜6本をリュックに詰め込み、すぐさまその場を離れる。

 ゾンビたちはトラック群に気づいていない。


 再びフリーダム号に戻り、滑り込むようにドアを閉める。


「……成功!!」


 車内に戻った瞬間、小さくガッツポーズ。

 床に座り込み、一本の缶ビールを手に取り、プシュッと開ける。


「じゃ、終末世界に乾杯……っと」


 ぐい、とひと口。


「……っ、うまっ!」


 世界が色づいたような錯覚すら覚える。

 ぬるいし、微妙に炭酸も弱くなってるけど──それでも、


「うまい。間違いなく、生きてる味だ……!」


 ビール工場には足を踏み入れなかった。

 だが、狙いを“トラック”に絞った判断は正しかった。


「フリーダム号……マジで最高の相棒だな」


 道の駅とビール工場を経て、また一つ、秀人はこの終末世界での“生き方”を知ったのだった。

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