「さーて、渋谷行こうぜ、フリーダム号!」
ビール片手に目覚めた秀人は、テンション高めにエンジンをかけた。(注・飲酒運転はいけません)
道の駅、ビール工場、そしてゾンビ渋滞を経て──
いよいよ、第一の目的地。渋谷のスクランブル交差点へ。
「守谷からなら、何もなけりゃ2時間ってとこだろ?」
地図アプリは使えないが、記憶と標識、そしてフリーダム号の進行方向コンソールだけで十分だ。
高速道路の入り口を見つけ、合流に成功。
しばらくは順調だった。
だが──
「うわっ、ちょっと待て」
首都高速へ入った途端、景色が変わる。
道路の端が落ち、アスファルトが裂けている。
鉄骨が剥き出し、橋脚ごと崩れている箇所すらある。
「……こりゃ無理だわ」
Uターンできる場所まで慎重にバックし、速度を落として戻る。
「いや〜、こういうとこちゃんと崩れてるあたり、リアルだなあ……って感心してる場合じゃねえ!」
出口を探してようやく辿り着いたのは──三郷。
「おっ、ここ出られるじゃん!」
高速を降り、しばらく進むと見えてきたのは──巨大な倉庫のような建物。
「……コストコだな、アレ」
一瞬、物資調達の期待が胸をよぎる。
だが、すぐに打ち消す。
「……人が集まる場所=ゾンビも集まってるってことだろ。やめとこ」
経験が、冷静な判断をさせる。
一度、目の前で道の駅ゾンビシャワーを浴びた身としては、もう大型施設には簡単に近づけない。
「じゃあ、地道に行くか」
目の前に伸びる、昔は国道6号だったであろう道路。
舗装は剥がれ、標識は風に揺れているが、方向は合っている。
「……この道を真っ直ぐ行けば、荒川を渡って東京入りか」
遠くに、東京スカイツリーの影が霞んで見える。
「ついに……東京か」
思わず、フリーダム号の窓を開ける。
崩れた住宅街、廃墟のビル、雑草に覆われたガードレール、それでも、どこか懐かしさを感じる“かつての首都”。
荒川の橋を慎重に渡りきった瞬間、
秀人は静かに呟いた。
「……ただいま、東京」
かつて夢見た街は、今や沈黙の都市となっていた。
だが、それでも。
見るべきものはまだある。
秀人はハンドルを握りしめた。
「行こう、渋谷へ。スクランブル交差点は……今、どうなってるんだろうな」