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第11話 渋谷を目指して

「さーて、渋谷行こうぜ、フリーダム号!」


 ビール片手に目覚めた秀人は、テンション高めにエンジンをかけた。(注・飲酒運転はいけません)

 道の駅、ビール工場、そしてゾンビ渋滞を経て──

 いよいよ、第一の目的地。渋谷のスクランブル交差点へ。


「守谷からなら、何もなけりゃ2時間ってとこだろ?」


 地図アプリは使えないが、記憶と標識、そしてフリーダム号の進行方向コンソールだけで十分だ。


 高速道路の入り口を見つけ、合流に成功。

 しばらくは順調だった。


 だが──


「うわっ、ちょっと待て」


 首都高速へ入った途端、景色が変わる。


 道路の端が落ち、アスファルトが裂けている。

 鉄骨が剥き出し、橋脚ごと崩れている箇所すらある。


「……こりゃ無理だわ」


 Uターンできる場所まで慎重にバックし、速度を落として戻る。


「いや〜、こういうとこちゃんと崩れてるあたり、リアルだなあ……って感心してる場合じゃねえ!」


 出口を探してようやく辿り着いたのは──三郷。


「おっ、ここ出られるじゃん!」


 高速を降り、しばらく進むと見えてきたのは──巨大な倉庫のような建物。


「……コストコだな、アレ」


 一瞬、物資調達の期待が胸をよぎる。

 だが、すぐに打ち消す。


「……人が集まる場所=ゾンビも集まってるってことだろ。やめとこ」


 経験が、冷静な判断をさせる。


 一度、目の前で道の駅ゾンビシャワーを浴びた身としては、もう大型施設には簡単に近づけない。


「じゃあ、地道に行くか」


 目の前に伸びる、昔は国道6号だったであろう道路。

舗装は剥がれ、標識は風に揺れているが、方向は合っている。


「……この道を真っ直ぐ行けば、荒川を渡って東京入りか」


 遠くに、東京スカイツリーの影が霞んで見える。


「ついに……東京か」


 思わず、フリーダム号の窓を開ける。


 崩れた住宅街、廃墟のビル、雑草に覆われたガードレール、それでも、どこか懐かしさを感じる“かつての首都”。


 荒川の橋を慎重に渡りきった瞬間、

 秀人は静かに呟いた。


「……ただいま、東京」


 かつて夢見た街は、今や沈黙の都市となっていた。


 だが、それでも。

 見るべきものはまだある。

 秀人はハンドルを握りしめた。


「行こう、渋谷へ。スクランブル交差点は……今、どうなってるんだろうな」

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