「フリーダム号、出るぞ」
空気は、ひんやりとしていて澄んでいた。
だが今日は、白州も干物もない。目的は武器。
今度こそ、ゾンビでも人間でも自分の身を守る力を。
「目指すは東富士演習場──そしてキャンプ富士だ」
◆◆◆
富士五湖を抜け、荒れた道を南へ進む。
道中にゾンビの姿はまばら。
だがそれが逆に不安を煽る。この辺は何かがあった。
やがて、森の中に巨大な敷地が姿を現した。
陸上自衛隊 東富士演習場。
その規模は桁違い。
フリーダム号の窓の外には、焼け焦げた戦車、土嚢、見張り台のような構造物が並ぶ。
「こりゃ……まじで、戦場だったんだな」
バリケードの隙間から中へとフリーダム号を進める。
敷地内は静まり返っている。
誰もいない。だが、何かが残ってる気配はある。
演習場の奥へと進むと、見えてきたのは──
キャンプ富士。
米海兵隊の訓練施設。
その規模、東京ドーム26個分。
金網のフェンスは崩れかけていたが、中の施設群はほぼ無傷だった。
「……本物だ。映画の中みたいな、異国のミリタリーベース……」
入口に立つ英語の看板:
【RESTRICTED AREA – KEEP OUT】
【AUTHORIZED PERSONNEL ONLY】
「すまん、無許可で入ります」
フェンスの扉を開けると、滑走路が見えた。
軽滑走路。今は誰も離陸も着陸もしない。
その端には──迷彩柄の輸送車両が止まったまま。
無人。だが、荷台の扉が開いている。
中には……ガンケース。
「……あるじゃねぇか」
ハンドガン、数種。M9、グロック、そしてライフル。
M4A1カービン。マガジンは3本。
「おいおい……これ、マジで撃てんのか?」
試しにスライドを引くと、油は切れているが、動きは問題なし。
マガジンを差し込み、ゆっくりと構える。
「うぉ……重い。でも……カッコいいな」
さらに奥に進むと、冷蔵庫のあった食料倉庫。
中には非常食、乾パン、ジャーキー、インスタントラーメン。
冷蔵品は全滅していたが、缶詰はほぼ無傷だった。
「……完璧じゃねぇか、ここ」
ふと周囲を見回す。
兵舎跡。訓練場跡。
張られたままのテント。
そして、壁に貼られたホワイトボードには殴り書き。
「訓練中に通信不能。感染者確認。撤退命令出ず──自力で帰還中」
「……マジか。合同演習中に、パンデミック……?」
夕方。装備を積み込み、フリーダム号は再び動き出す。
荷台には、M4A1・9mmハンドガン・弾薬・ミリ飯。
俺は今、確実に“武装”された。
「これで……刑務所にも行ける。カルトにも負けない。多分……」