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第29話 演習場に遺されたもの

「フリーダム号、出るぞ」


 空気は、ひんやりとしていて澄んでいた。

 だが今日は、白州も干物もない。目的は武器。

 今度こそ、ゾンビでも人間でも自分の身を守る力を。


「目指すは東富士演習場──そしてキャンプ富士だ」


 ◆◆◆


 富士五湖を抜け、荒れた道を南へ進む。

 道中にゾンビの姿はまばら。

 だがそれが逆に不安を煽る。この辺は何かがあった。


 やがて、森の中に巨大な敷地が姿を現した。


 陸上自衛隊 東富士演習場。


 その規模は桁違い。

 フリーダム号の窓の外には、焼け焦げた戦車、土嚢、見張り台のような構造物が並ぶ。


「こりゃ……まじで、戦場だったんだな」


 バリケードの隙間から中へとフリーダム号を進める。

 敷地内は静まり返っている。

 誰もいない。だが、何かが残ってる気配はある。


 演習場の奥へと進むと、見えてきたのは──


 キャンプ富士。


 米海兵隊の訓練施設。

 その規模、東京ドーム26個分。

 金網のフェンスは崩れかけていたが、中の施設群はほぼ無傷だった。


「……本物だ。映画の中みたいな、異国のミリタリーベース……」


 入口に立つ英語の看板:


【RESTRICTED AREA – KEEP OUT】

【AUTHORIZED PERSONNEL ONLY】


「すまん、無許可で入ります」


 フェンスの扉を開けると、滑走路が見えた。

 軽滑走路。今は誰も離陸も着陸もしない。


 その端には──迷彩柄の輸送車両が止まったまま。

 無人。だが、荷台の扉が開いている。


 中には……ガンケース。


「……あるじゃねぇか」


 ハンドガン、数種。M9、グロック、そしてライフル。

 M4A1カービン。マガジンは3本。


「おいおい……これ、マジで撃てんのか?」


 試しにスライドを引くと、油は切れているが、動きは問題なし。

 マガジンを差し込み、ゆっくりと構える。


「うぉ……重い。でも……カッコいいな」


 さらに奥に進むと、冷蔵庫のあった食料倉庫。

 中には非常食、乾パン、ジャーキー、インスタントラーメン。

 冷蔵品は全滅していたが、缶詰はほぼ無傷だった。


「……完璧じゃねぇか、ここ」


 ふと周囲を見回す。


 兵舎跡。訓練場跡。

 張られたままのテント。

 そして、壁に貼られたホワイトボードには殴り書き。


「訓練中に通信不能。感染者確認。撤退命令出ず──自力で帰還中」


「……マジか。合同演習中に、パンデミック……?」


 夕方。装備を積み込み、フリーダム号は再び動き出す。


 荷台には、M4A1・9mmハンドガン・弾薬・ミリ飯。

 俺は今、確実に“武装”された。


「これで……刑務所にも行ける。カルトにも負けない。多分……」

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