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異界送り
異界送り
MKT
ホラー都市伝説
2025年05月01日
公開日
2.2万字
完結済
「異界に送る者を5人選びなさい」 突然始まる異界送り。送られた先は裏世界の廃校。 異形の物が徘徊する校舎を逃げ回れ。 捕まれば殺される。生き残れば生還。 そして毎日繰り返される。人がいなくなるまで……。

第1話 異界送り初夜

「ねえ、異界送りって知ってる?」


 放課後の教室、夕暮れに染まる窓際で、真白(ましろ)が何気なく口にした一言に、私は思わずノートを閉じた。


「え、なにそれ?」


「最近、SNSでちょっとバズってる都市伝説。夜中に突然、教室に“召喚”されて、誰かを“異界”に送らないといけないってやつ」


「またその手のやつ? くだらない――」


「うちの学校でも、似たようなことがあったんだって」


 そう言って、真白はスマホを差し出した。そこには見覚えのある教室の写真。そして、投稿の下には短いコメントが並んでいた。


「夜中に気づいたら教室にいた」

「変な担任に“投票しろ”って言われた」

「あの5人、今も学校に来てない」


 冗談とは思えない寒気が背筋を這った。


 その夜――。


 私は、ふと目を覚ました。


 窓の外は深い闇に沈み、時計は午前2時13分を指していた。喉の渇きを覚え、ベッドから降りる……つもりだった。


 気がつくと、私は教室に立っていた。


 全員がいた。制服姿のクラスメイトたちがざわざわと不安げに呟き、騒ぎ出している。教室の明かりは暗く、蛍光灯がチカチカと不安定に明滅していた。


「……夢?」


 そう思った時、教室の扉がゆっくりと開いた。


 ギィィィィ――


 そこに現れたのは、私たちの担任、佐久間だった……だが、どこか違う。表情は見えない。いや、仮面をつけていた。


 無機質な白い仮面、口元だけが笑っているように湾曲し、目の穴からは何も見えなかった。


「――五人。選びなさい」


 その声は担任のものに似ていたが、感情が欠けていた。


 教室が凍りつく。


「な、なに言ってんの?」


「これ、夢だろ? なあ、誰かドッキリって言ってくれよ!」


「……投票、しなければ全員が“送られる”」


 黒板にはいつの間にか、タブレットが置かれていた。各自の名前が並び、タッチで選べる仕様になっている。


「……マジで、やるの?」


 誰かが震える声で呟いた。


 そして、始まった。無言で、しかし確実に操作されていく画面。


 名前が、次々と選ばれていく。


 不登校気味の子。運動が苦手な子。大人しくて目立たない子。カーストの底辺、常に笑われていたあの子……。


 その時、私は悟った。“これは夢じゃない”。


 名前を呼ばれた5人は、足元から黒い霧に包まれ、叫びも飲み込まれながら消えていった。


 ……その先に、何が待っているのか。


 翌朝。


 目が覚めた私は、自宅のベッドの上にいた。


 夢、だったのだろうか?


 ふらふらと学校へ向かった教室には、確かに“あの5人”の席が空いていた。担任に尋ねても「今日は欠席だ」と繰り返すだけ。


 ざわめく心を抱えたまま、私はスマホを開く。


 タイムラインには、昨夜と同じ投稿が再び浮上していた。


「また召喚された」

「逃げたけど、間に合わなかった」

「あいつらのせいで……!」


 その夜、再び私は目を覚ます。


 暗い教室、恐怖に震えるクラスメイトたち、そして――仮面の教師が言った。


「――五人。選びなさい」

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