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第2話 裏校舎の迷宮

 気づけば、私はそこに立っていた。


 廊下に差し込むはずの朝日も、窓の外に見えるはずの街灯もない。


 あるのは、廃墟となった校舎と、じっとりと湿った空気。そして、腐った木材のような匂い。


「ここ……どこ……?」


「嘘……さっきまで教室にいたのに……!」


「これ……ほんとに異界送り……!?」


 選ばれた5人の中で、私は一番後ろを歩いていた。誰もが混乱し、恐怖に支配されていた。


 目の前の旧校舎は、確かにかつて存在していたらしい。 SNSで見た、数十年前に廃校になった学校。その中に――私たちはいた。


「逃げろ……!」


 突然、叫び声が響いた。


 振り返った瞬間、闇の中から“それ”は現れた。


 背丈は人より少し高く、肘から先が異様に長い。肌のようで肌ではない何かに覆われていて、顔には穴が空いているだけ。いや、それすら「顔」という形を持たない」


「う、うわああああああ!!」


 一人が叫び、駆け出した。私たちも反射的に続いた。校舎内を、ただ逃げる。


 突き当りの教室。だが、ドアは開かない。


「どいて!開けて!」


「開かないっ!」


 振り返れば、“それ”は廊下を這うように追ってくる。人ではない。何かを真似て創られた“モノ”。


 私たちは分かれて逃げた。私は、誰かと階段を降り、地下へと向かっていた。薄暗く、足元も見えにくい。蛍光灯はちらつき、どこかで水が滴る音がする。


「こっち……理科準備室……!」


「鍵、閉まってる! 鍵が……!」


「誰か……助けてよ……!」


 足音が近づいてくる。ゆっくり、じりじりと、獲物を追うように。


 その時――。


「ここに、入って!」


 声がして、横の掃除用具入れの扉が開いた。誰かが私の手を掴み、引きずり込む。直後、“それ”が廊下を通り過ぎた。


 呼吸を殺す。鼓動がうるさくて、自分の体が敵に居場所を教えている気がした。


 やがて、足音が遠ざかる。


「……ありがとう。あなた……誰?」


 狭い空間の中、そこにいたのは、先に異界送りされたはずの美月(みづき)だった。確か、初日の“犠牲者”の一人。


「まだ、生きてる……の?」


「……生き残った。でも、戻れなかった。朝まで“逃げ切れなかった”から」


 彼女の頬には切り傷。制服も汚れ、靴も片方しか履いていない。


「じゃあ、どうやって……」


「この校舎は、ループしてるの。同じような教室、同じような廊下。でも、少しずつ歪んでる。“それ”を避けて動けば、時間を稼げる。でも……終わらない」


「終わらない?」


「だって……呪いを解く方法を誰も知らないから。みんな、ただ逃げるしかなくて、運が良ければ帰れる。でも、それだけ」


 私は震えた。異界送りに「ルール」はある。でも「救済」はない。


 この場所は、誰かが生きて戻れるように設計された試練ではない。ただ、絶望の中を彷徨う“儀式”だった。


「今夜も誰かが死ぬ。生き残るには、隠れるしかない。でも、逃げ切るには、もっと何かが必要なんだと思う」


 その時、警報のような音が鳴り響いた。非常ベルかと思ったが、音は人工的ではなく、どこか生き物の咆哮にも似ていた。


 “それ”が、再び近づいてくる。


「行こう、まだ終わってない。この“裏校舎の迷宮”から、抜け出すために」


 私たちは再び闇の中へと走り出した。

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