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【月光】虎視眈々

芽吹市から離れた簡素な住宅街。そこにあるボロボロの家に一台のバイクが入っていく。ヘルメットを外した月下琥珀は一狼に咬まれた箇所を見る。


「やはり治りにくいな……」


セル=ディウスを体に取り込んだ人間は外傷と病気の状態になると体内のセルが体の修復を始める。しかし、ディウス同士の攻撃ではたまにセルの特性が発動しない場合がある。止まらない血をそのままに月下は自宅へ入る。肩から腕を伝い指から滴り落ちる。血が足りなくなってきた為、月下はだんだんと意識がもうろうとしている。フラフラとしながらも廊下を歩き浴室へと向かう。蛇口を捻るのが最後の光景でそのあとは意識が途切れる。


────────────


詩々原 ヒトミ 20歳。大学生だが大学には行ってない。品さえあればひたすらネットに潜り、ゲームや動画を見て私の意に反する者がいればそいつらにアンチコメントを吐いたりゲームの妨害をする。最近はoutubeやそのほかの動画サイトもアカウントが作れなくなった状態。ネットやスマホのゲームもほとんどアカウントが作れずに暇を持てに持て余しついにダークウェブまで降りてきた。ネットの最下層と言うだけあってディープな情報や危ないモノの販売サイトとかが溢れている。そこで見つけたのが「一攫千金ウェブ」だった。掲示板式のサイトで高校生の頃たまにコメントしていた「3ちゃんねる」に似ている。そして、都合よくゲームが開催されていた。どうやらバケモノの高校生を殺すというゲームのようだ。賞金は何と一億円。どうせ嘘だろと掲示板に添付された動画を見る。炎の中から出てきた高校生の少年。こんな平凡そうな私よりも年下の子供を前に焼死した大人がいると知って驚愕したが、そしてそれと同時にここが私の目指していた場所だと理解した。参加するため私は自分の情報を添付されていた>>270さんのメールアドレスへ送る。すぐに返事が来ると、一時間後には例の最初で最後の支援物資が到着していた。


「これが、最初で最後の支援物資……」


小包を受け取ると防護服の人物は私へ最後の警告をする。


「ヒトミ様は一般人で初の参加者となります。そこで、注意事項です。あなたの情報はすでに我々が全て把握してます。もし、あなたがゲームを途中で降りたと我々の主が判断した場合、我々はあなたを含めた親族を直ちに始末しに行きます……最終確認です。ゲームに参加しますか?今ならまだ小包の返品と情報の破棄が可能です。」


無機質なようなその防護服の人物はどこか私を心配するような口ぶりで私は小包を握り息を短く吸う。


「構いません。参加します。ちなみに、私がゲームで敗北した場合は家族に危害は……」


「それでしたら問題はありません。あなたが死ぬ分には我々がどうにでもできますので……逃亡は皆殺し、あなたの敗北は我々がどうにかする。一応、成人式へ足を運んでいるのでしたら、大人の責任は相応に取ってください……では、我々はこれにて……」


防護服の人物は例をするとそのまま私の住むアパートの階段を降りていった。私は見送ったあとにドアを閉めて小包を開ける。小包の中には黒いプラスチックケースが手稲に困憊されておりそれも綺麗にはがす。プラスチックケースを開けると説明書と共に三本の注射器があった。


セル=ディウスの取り扱い説明


番号の書かれた順に一滴も残さず注入してください。注入後、副作用症状が出ますが仕様ですのでお気になさらず。どうしても耐えられない場合は一緒に同封されている錠剤を服用してください。


【初期】頭痛、吐き気、腹痛。


【第一中期】異常な空腹、食欲の急上昇。


【第二中期】人知を超えた怪力、五感の全能感


【末期】完全ディウス


説明書に怯えながらも私は【1】の表示の注射器を説明書の通りにやる。注射器の煮沸消毒、手の洗浄、同封された手袋の着用、マスク、メガネ、そして手順を踏み私は注射器の針を腕に刺し中の液体を注入した。


【初期】頭痛、吐き気、腹痛


空の注射器が私の手から落ちる。激しい頭痛に襲われている私は、割れた注射器が散乱するのも気にせずキッチンから離れてベッドに向かう。だが、次に来た吐き気に我慢できず踵を返しお風呂場へと駆け込む。


頭が割れる。


頭の中で何かに混ざっているようだ。


頭痛のせいで視界がぼやける。次第に熱も出てきたようで体が痙攣し始める。叫ぼうと口を開くが、何も叫ぶことができない。自分では声が出ているつもりだが、”お風呂場の反響”と”私が息が出てきていない”という事実に私は声は全く出てないと理解する。


痛い


気持ち悪い


痛い


死ぬ


痛い


風邪やインフルエンザの時の頭痛、関節痛、吐き気を100倍にした痛みは約一時間後には和らぎ、ようやく私はお風呂場から起き上がることができた。体温が戻るのが分かるほど全身に血が巡る。その後、キッチンへ戻り、【2】を打ち、もだえて部屋や冷蔵庫にあった食料品を料理しては食べを繰り返す。次第に料理も億劫になり、カップめん類はお湯を入れずそのまま食べて着られていない生野菜はそのままスナック感覚で食べる。そのころには異様にうるさい扇風機の音と水道の雫が落ちる音に煩わしさを感じ蛇口をしっかり閉めようとして蛇口をねじ切り、扇風機を止めようとボタンを押すと扇風機のボタンを含む土台部分がへこんだ。説明書通りの症状が起き、最後【3】へ手を伸ばし、それをポケットへ入れて私は手紙を一枚残して部屋を後にした。


お母さんへ


今までありがとう。20年間育ててくれたことに感謝します。成人式で振り袖姿を見せられなくてごめんね。ふすまの上の段に試しに撮った振り袖の写真があるからそれを大事にしてほしい。


────────────


ヒトミがマンションを出る様子をとらえた影戸のドローンはその跡を追う。帽子をかぶり多少見栄えの良い姿に「一攫千金ウェブ」の視聴者たちはコメントを多く送信する。


270:では、中継スタートでございます。


133:一般人って初やろ。


777:いいね、金欲しさに自分の命でギャンブルをする。


555:一般人には期待していない。どのみち瞬殺だろ。


111:同感だ。こいつはターゲットの元にも行けずに死ぬだろう。


282:まぁ、それが妥当な考えだね。


290:いいじゃん!いいじゃん!元軍人が殺せなかったターゲットが一般人に殺される。そんなシナリオもいいよね。エモいよね。


282:>>290.出た狂人の290。


133:>>290.まあ、そんなシナリオになったら素直に褒め称えたいよね。


290:>>111.でしょ?エモいでしょ?


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勢いよく水の流れる音と共に月下は目を覚ます。血の匂いではっきりとした意識になり立ち上がる。時計を見ると短針が9を指しており外は暗くなっていた。


「寝ていたのか……血は……止まっている……いや、回復もしている。」


月下は血を拭き水を止める。もう一枚タオルを持ってくると肩の血を拭き取りそのまま服を脱ぎシャワーを浴びる。先髪、洗体を済ませてお風呂をでる。血まみれのタオルをビニール袋に入れて完全密封した状態でゴミ箱へ捨てる。服を着てカラスマからもらった情報を見る。


「芽吹市に近いのは……ここがいいか…」


「大自然の恵 水製造・販売 会長 水沢 リュウ」


顔写真には若々しい顔の整った男性が見える。カラスマの情報によれば、いずれ新しい飲料水「デイウォーター」と言うものを販売するらしい。その水の中には大量のセルが含まれており飲んだものを副作用なくディウスに変える可能性がある。と書かれている。胡散臭いが恐らく本当なのだろう。月下はその情報を覚えるとさっそく準備を始める。

ここから月下は数日「大自然の恵」に潜入し何とか情報を掴んだが、名の大企業なので綿密な作戦を練る必要があったため一旦自宅へ戻ろうとしていた帰路、ディウス特有の匂いを月下の鼻がとらえる。


「まだ、ディウスになったばかりの匂いだ。濃ゆい。」


その濃ゆい匂いをたどると芽吹市へと着いた。


「誰かOWLの薬を買ったのか?」


月下は再び芽吹市へ入り匂いの元をたどった。


続く。

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