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惨之巻:決闘

六華高等学校は、|機導器(ギア)の項目がある六校の中で最弱と言われている高校だ。そんな六華に来る生徒たちは「それでも、ここで|機導器(ギア)のことが学びたい。」「ここで学んで将来は警備部隊へ入る」という生徒たちが多い。実力が伴ってない生徒、学力が伴ってない生徒、いろいろな生徒がいる。そんな六華に入学した名家出身の夜月 朧は、入学生歓迎セレモニーのデモンストレーションに参加しトップレベルの生徒鬼灯 来人に敗北した。体育館から戻った朧が教室に入るとまだ名前も知らないクラスメイトたちに囲まれてもみくちゃにされた。


「ねぇ、夜月って名家だよね?なんでこんな最弱校に入学したの?」


「やっぱり、強い人ってどんなランクのギアを使っても強いんだね!どんなトレーニング

をしているんだい?」


「メインのギアって何を使ってるの?やっぱり刀のギアなの?」


皆、口々に質問をして行くが、朧ははにかみながらうつむき自分の席についてただただもみくちゃにされている。そんな騒がしい教室の扉が開くとクラスメイトたちは一瞬で静まり返った。視線を向けるとそこにはスーツに身を包み、髪の毛を雑にかきあげた真面目そうな男性が入ってくる。目つきが鋭く生徒たちはそんな男性の殺気?雰囲気?に気圧されて一斉に自分の席に戻った。男性は、教室内にいる生徒たちが全員席に座ったことを確認すると無言でうなずき合図した。


「起立!」


その強く低いうなり声のような声に生徒たちは背筋が伸びたまま一斉に揃って席を立つ。


「気を付け!」


その声でクラス内の誰もが今まで以上に背筋を伸ばして次の声を待つ。


「礼!」


まるで軍隊のような男性の礼に続けてクラス内の生徒は礼をして声を待つ。


「着席!」


掛け声とともに一斉に生徒たちは座り背筋を伸ばしたまま男性が口を開くのを待った。


「……よし。次回からは学級委員長がやるように。では、自己紹介させてもらう。」


男性はポケットから手袋を出して白チョークを手に持ち名前を書いていく。丁寧に、綺麗に、名前を書き終えると手袋を外してスーツに落ちたチョークの粉を払い声を出す。


「クラスの担任の茂木もてぎ ただしだ。元自衛官で今は体育の教科担当をしている。これから体育の実技と保健体育の授業は俺が担当させてもらう。宜しく頼む。」


固い挨拶にクラス内の雰囲気がどこか微妙な感じになる。茂木はクラスの雰囲気を見て不思議そうな顔をするが、そんな疑問を口には出さずに台本を読むように口を開いた。


「コホン……では、クラス内での自己紹介をしてくれ……」


生徒たちは茂木の合図で挨拶を始めた。入口から順番に自己紹介していく。そして、いよいよ朧の番になると皆が朧に注目した。朧は少し恥ずかしがりながらも胸を張って自己紹介を始める。


東堂寺とうどうじ中学校出身、夜月やづき おぼろです。この学校で、一番を目指し、この学校を一番にするために来ました。よろしく─────」


朧が挨拶を終えようとしたその時、教室に笑い声が響く。その声に皆は一斉に視線を向けると、朧が教室に入ってきた時から机の上に足を乗せて制服を着崩した金髪の生徒が大笑いしていた。朧はそんな金髪を少しにらみつけ気味に見つめる。


「なぜ、笑うんだい?」


「なぜ?そりゃw無理だからだ。ま、お前の実力なら六華では一番になれるかもなwでも、物好きだよな~ボンボンはボンボンらしく、一閃や双斬に行きゃいいのに……それとも何か?俺ら底辺を馬鹿にしに来たってか!」


金髪は朧とにらみ合い、周りの引いた視線に気づいて分が悪そうにしながら立ち上がり教室を出て行った。皆、茂木に視線を送る。


「大丈夫だ。彼は後で俺が連れてくる。ちなみに、彼の名前は九頭竜くずりゅう まこと……朧くんに続き二番目でこの学校に入学してきた生徒だ。」


その言葉に誰もがそれ以上先ほどの生徒九頭竜に関しては質問しなかった。朧は挨拶をしなおして改めて生徒同士での自己紹介を再開した。一時限目が終わるころには茂木も含め皆は和気あいあいとした雰囲気になっていた。そして、二時限目、三時限目と教科担任からのオリエンテーションを受けて昼休みに入った時、教室の扉が勢いよく開けられる。視線の先には自己紹介を放棄した九頭竜が朧をにらみつけて立っていた。にらみをきかせながら九頭竜は朧へ近づき顔を近づける。


「なんだ?」


「体育館に来い。決闘しろ。」


そういうと九頭竜はまた教室から出て行った。そんな朧にクラスメイト達は集まってくる。


「何言われたんだ?」


「先生に言う?」


朧は心配する皆をいさめて教室を出ようとした。


「朧君まさか、行くの?」


「やめたほうがいいよ~」


「いや、行くよ。だって彼は……」


朧は体育館へと向かった。フィールドに立っている九頭竜を見ると朧は手を振って合図をする。九頭竜はにらみながら眼をそらす。朧はフィールドに降りて九頭竜と向き合う。


「やぁ、来たよ。」


「けっ、気に入らねぇな。その態度。」


「そうかい。でも、これがオレだからさ……それで、決闘のルールはどうする?」


「んなもん、お互い倒れるまでだろ。」


「いや、それじゃ時間がない。そうだな……デモンストレーションのルールで5分追加で10分間ってのはどうだ?」


九頭竜はギアを起動して構える。


「いいな、それ、それで行こう。」


「よし、それじゃ…時間10分、どちらかが倒れる、ギアの全損、時間切れで試合は終了とする……では、行くぞ……」


朧は、刀ギアを起動して構える。


「俺には試合の時みたいにグレネードとか使わねぇのか?」


「君には使う必要がない。」


「イラつくぜ……!」


名刀玄道めいとうげんどうE」


「チッ!……銘刀 虎徹めいとう こてつA」


九頭竜は一歩を踏み出そうと足に力を込める。だが、前に進めない。進もうとすると体が拒否するように止まる。九頭竜は体の異変に気づき必死に前に出ようと足に力を入れる。


『何が起こっている……俺は、今攻撃をしようとしているはずだ……なのに……』


目の前にいるのは本当に爽やかで皆から一気に人気をかっさらっていったあの優男なのかと九頭竜は朧を見る。朧は刀を構えたまま切っ先をこちらに向けていた。


「どうしたんだ?来い。」


その声とともに九頭竜は震源地を背中に感じ、じわりじわりと違和感が全身を覆っていった。違和感を振り払うように首を振り九頭竜は足を踏み込み刀を朧へ振り下ろすが、朧は切っ先を向けたまま九頭竜の攻撃を躱して切っ先を九頭竜の目と鼻の先に向ける。九頭竜はそれを気にせずに攻め続ける。


『……なんだ、この違和感……いや、これは……』


九頭竜は刀を振るたびに違和感が全身に響き続けているのが分かっていた。だが、どうしても手を止められない。この手を止めると、確実に……そこまで考え、九頭竜は”ソレ”を切るように刀を振る。朧を切るのではなく、”ソレ”を切るように……


「なんだ、これ、気持ちわりぃ……」


「いい動きだね。君の努力と研磨がうかがえる。でも、何を焦っているんだ?らしくない。」


「う、うるせぇ!俺には俺のタイミングがあるんだよ!」


九頭竜はさらに早く刀を振る。だが、その攻撃は朧には当たらない。絶対に当たらない。


「なんだ……これ……気持ち悪りぃ……」


まだそこまで激しく動いていないはずだが、九頭竜の前身は50m走を何度も走ったように汗をかいている。やがて5分が経つ頃、九頭竜はやっと手を止めることができた。肩で息をしてそれでも朧に向き合う。


「その姿勢は嫌いじゃない。やはり君は強い……!」


朧は口角を上げて刀を構えなおす。九頭竜はその迫力に気圧されてまた先ほどのように見境なく攻撃を開始する。


「……こんな攻撃では、オレには届かない……何を焦っているんだ?」


「だまれ黙れ、黙れ……」


九頭竜は今の言葉で”ソレ”の核心に迫り、答えを導き出した。


導き出した答えは─────────────”死線”である。


朧は目の前にいるのにも関わらず、いつか後ろに回られてあっけなく刺されて負けるのではと想像する。いや、この場の試合の話ではなく、まさに戦場、死合の話である。いつ、朧がギアの性能関係なく殺しに来るか九頭竜は内心、否本能で怯えているのだ。


幾度目の切っ先を見たか、九頭竜の恐怖は最高潮に達している。それでも倒れず、泣きわめかない九頭竜に朧は関心と尊敬の念を感じる。この朧、いや、夜月家特有の殺気を感じると並みの人間は真っ先にまいったを選ぶのだ。


残り3分、九頭竜は精神を統一し再度刀を構えて朧と目を合わせる。


「次が最後の一撃といったところか?」


「あぁ、そうだ。こんなのは試合でもデモンストレーションでもない。こんなのはただの殺死合いだ。だから、次の一撃でお前を殺す。」


「そうか、なら、オレも本気でらないと……」


朧はその殺気を一気に開放し刀を横平行に構える。


夜月流やづきりゅう刀剣術とうけんじゅつ四刃しじん一刀倒絶いっとうとうぜつ……!」


「うぉぉぉぉらあああああ!」


九頭竜が精一杯の踏み込みをし、朧へ切りかかるが、一歩を踏み込むたびに”死”へのイメージが色濃く繊細に鮮明に創造的に見えてきた。それでも九頭竜は挑んだ戦いに背を向けるわけにもいかず本能が警鐘を鳴らす中、気合で朧へ切りかかった。


「見事!」


朧は九頭竜へ賞賛を送ると同時に九頭竜よりもランクの低いギアを壊さずに九頭竜のギアを一刀両断した。


惨之巻:決闘

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