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伍之巻:地の努力

夜月 朧と九頭竜 誠、二度r目の対峙。誠は朧の殺気を体中に受けながらも、引かず、顧みず、その殺気を一身に受け止める。一方、自分の放つ殺気を受け切れる人間を目の前に朧は嬉々として先ほどよりも強力な殺気を放っており、周りのクラスメイトや担任までもその迫力に圧倒されている。


「九頭竜…いや、誠!行くよ。」


昼休みの決闘とは違い、今度は朧ぼ足を踏み込む。九頭竜はそんな朧を前にしても気合と根性でその場にとどまる。時計の長針が動くと同時に朧は一気に九頭竜へ距離を詰める。九頭竜は朧の速度を目で追うことができなかったが、その一撃をもらう前に自らのギアで受け止める。ギアのランクに差が生じてかはたまた、九頭竜の受け止めかたが良かったのか、九頭竜のギアは壊れることなく朧の一撃を受け止めることに成功した。


「やっぱり、強いね。誠。」


「う、るせぁ……呼び、捨てに……すんな!!」


九頭竜は下半身の力をうまく使い、朧のことを吹き飛ばすことに成功した。朧はそのまま体勢を立て直そうと一度地に足をつけてバックステップしながら、九頭竜の出方を見る。九頭竜は朧が初めて見せた完全な隙を見逃さず切り込んでいく。


一撃、朧の刀は火花を放ち


一撃、朧はバランスを崩しそうになる。


一撃、九頭竜は第二の隙を見逃さず素早く追撃を与える。


緊張と、恐怖と、昔の自分と、目の前の天才と、すべてがごちゃ混ぜになった九頭竜は昼休みとは大違いの動きをする。九頭竜自身もその動きにひどく驚いている。だが、そんなことに驚いている場合ではない。


『……勝てる!』


確信や、根拠はない。可能性の段階のその九頭竜の希望はさらに九頭竜の動きを隙のないものにしていく。朧は崩れそうな体勢を支えつつ九頭竜の一撃を紙一重で受け流しながら九頭竜へ一撃を与える。九頭竜はその一撃をよけて、さらなる追撃を朧へ与えようと踏み込んだが、ふと頭の中に違和感が生じてバックステップを踏み距離をとった。あと少しのところまで来ていたのになぜ距離をとったのかクラスメイトは全員理解できていなかった。思ったよりも体力を使った九頭竜は肩で息をしながら朧を睨み、つぶやく。


「”わざと”だな?」


「……何のことだ?」


しらばっくれる朧へ九頭竜は刀を地面に向けて答える。


「お前の動き、昼休みのものとは全く違う。殺気もわざと抑え込んで俺を間合いに入れやすくしている。体勢を崩すブラフまで仕込んで何をしようとしてる。」


朧は、目を一瞬見開き、そして口角をあげた。そして、いたずらっぽく嗤う。


「ばれたか。」


「カウンター込みの何かを俺で試そうってか?甘いな。昼休みのお前はそんなもんじゃなかった。もっと、皮膚がヒリヒリ熱くなって、全身が内側から震えるような殺気だった。小細工なしの全力で来いよ。俺も覚悟を決めたからよ。」


再び口角を上げた朧は昼休みのような突き刺す殺気を放ち、クラスメイト全員を震え上がらせた。


「やっぱり、その観察眼も含めて、九頭竜 誠、君は恐ろしい。だから、次を最後の一撃にすることにするよ。」


「いいぜ、俺も次の一撃にかける。」


お互いに、構えをとる。朧は抜刀の構え。九頭竜は我流の剣術の構え。


夜月流やづきりゅう抜刀術ばっとうじゅつ……一刃いちじん:…」


「行くぞ、虎徹こてつ……幻導力げんどうりょく充填、一撃いちげき必勝ひっしょう……」


九頭竜はそのまま駆け出し朧へ間合いに入った朧へ刃を振り下ろす。


焔龍断えんりゅうだん!!」


その真向斬りに朧はついに抜刀した。


一閃いっせん!!」


朧と九頭竜の刃が交わり、九頭竜は朧の背中へ通り過ぎ、朧は勢いよく振り上げた刀を天へ伸ばしたまま両者は制止する。



静寂



その静寂はクラスメイトの息の音を誰一人として許すことなく体育館全体を包みこむ。誰もが息をのみ、緊張する。そして、その静寂は朧が納刀してやっと時が動き出すように解かれる。納刀の音とともに振り切った九頭竜のギアは再び真っ二つに切られて刃がフィールドに音を立てて落ちた。


「また、負けた。」


九頭竜は膝から崩れ落ちてその場でうずくまった。そんな激戦にクラスメイトはスタンディングオベーションで拍手を送った。その時ちょうど授業終了のチャイムが鳴り響く。茂木は「今日はこのままここでホームルームをする。」と言って皆をフィールドの真ん中に集合させた。九頭竜はスタンディングオベーションで恥ずかしくなったのか集合せずにそのまま体育館を出て行ってしまった。クラスメイトの一人が呼び戻しに行こうとしたが、茂木はそれを制止してそのままホームルームを開始した。こうして茂木のクラスは今日の学校を終わった。


─────────────


六華高校生徒会室。


ここでは日々生徒の快適な日常を考える生徒会が話し合っている。会計の小野宮おのみや 彼方かなたは会長がいないことをいいことに愚痴をこぼす。


「はぁ~あ。毎月毎月こんな会議やって何の意味があるんかいねぇ~僕チンどうも会議の空気が気に入らないんだよ~」


そんな彼方の愚痴を聞いている書記の才原さいはら 秀才しゅうさいは口を開く。


「そんな愚痴をこぼしていると副会長と会長が来た時にシバかれるぞお前。」


「HAHA☆そなんことなるわきゃないじゃんねぇ☆僕チンは会長と副会長の前では真面目を売りにしちょるんだからさ☆」


そんなおとぼけたの彼方の後ろに張り詰めた冷たい空気が現れる。秀才はその空気を察知し、すぐに口をつぐんだ。彼方はそんな秀才を見て「どうした?怖くなったかい?」などときゃいきゃいと秀才を煽っていた。そして、そんな彼方の背中へ冷たい声が刺さる。


「私は、君が真面目だと思ったことは一度もない。」


すでに凍っていた空気が彼方がぎくりとしたことでさらに凍っていった。恐る恐る後ろを振り向いた彼方はぎこちなく口角を上げて生徒会長神楽かぐら 美紀みきへと挨拶をした。身長170㎝の長身に黒く長い髪が似合う美人。六華の中で鬼灯に並ぶ実力者である。


「こ、これわこれわ…生徒会長……ご機嫌麗しゅう……」


「これ”は”です。間違えないでください。会計の小野宮彼方さん。」


背後にいた副会長涼音すずね 沙織さおりは無言で彼方をにらみつける。彼方は副会長にも媚びるように会釈しきちんと席に座りなおす。美紀はため息を吐きながら窓側の席へ座り書記と会計を見つめる。副会長が秀才の隣に座るのを確認するときちんと座り直して月に一回の会議を始めた


「では、これより生徒会会議を始める。今回の議題は入学生が来る前から上がっている『授業以外でのギアの制限』だ。」


残りの生徒会のメンバーは無言でうなずき真剣な面持ちになった。


この学校で問題になっていることの一つにギアを授業以外で起動して「決闘」だの、「喧嘩」だのに使用している生徒など多数いる。ほかの五つの高校には規則にはないが、ギアを授業以外で使用するのはマナーが悪いとして起動をしないのが当たり前であった。美紀は先ほども校内に倒れている生徒が二人いたと先生から報告を受けて事情を聴いたところ入学生にいきなりギアで襲われたと供述がありこの問題に今日中に終止符を打とうと月一の会議を早めに開いたのだ。


「そいで…美紀ちゃ……かいちょー的にはどうなん?僕チ……僕はどちらでもいいよ~てか、たかが喧嘩に武器って、海外じゃあるまいし……」


「そのあるまいしが経った今起こったわけだけど、仮にもし、あなたが襲われた生徒だとしてどっでもいいといえる?」


彼方は黙り込み、他のメンバーに白い眼を向けられる。


「そ、そりゃ、どっちでもなんて言えないさ。そんなこといわれちゃ……」


「でしょう?もっと真剣に考えてください。」


「はい……」


そして、秀才が手を挙げて意見する。


「俺は賛成だな。これはマナーの問題だったんだ。マナーがなってないならルールで縛るしかない。ペナルティも貸したほうがより一層効果的だと思う。」


隣にいた沙織もうなずき、賛成の意見を述べる。


「私も正直言ってギアの授業以外の使用は制限すべきだと思うの。襲われた生徒もいるわけですし……」


会長はうなずき、口を開いた。


「それでは、この会議の結果は賛成過半数として一度先生たちへ伝えます……いいですね?小野宮さん。」


「……僕チンは反対派にされてる?」


「いえ、あなたの意見はどちらかといえば中立よりだったので、賛成9、中立1の割合と私は考えてます。」


「そーなんだー。ま、確かに中立っちゃ中立だわな。どっちがいいとか僕チン嫌いだし。」


「では、会議の結果を伝えてまた後日先生たちからの意見を報告します。では、各々仕事を終わらせて解散。」


生徒会室の4人は一斉に立ち上がりそれぞれの仕事をするためにそれぞれの場所へ向かった。


伍之巻:地の努力

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