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重/参之巻:それぞれの悩み、それゆえの悩み

後日、ギア研究会の三人は先生たちにこっぴどく叱られて一か月停学の処分が下った。怪我人とギアの大量破損があってこれはとても甘く、軽い処分である。ギア研究会も続けてもよいそうだ。怪我、ギアの大量破損のため、今回の実技試験は期末試験の後の校内全体実技試験とまとめて行うと決められた。ちなみに、中間テストの成績は出なかったため全校生徒の成績は出ていない。


「結局、オレたちは試験に参加できなかったな……」


「俺は大けがしたしな。」


「でも、今回の件でオレの弱点もわかった。次の試験までに修行するだけだ。」


「そーだな。」


先ほどからそっけない九頭竜に朧はいぶかしげに見つめる。九頭竜は目が合うとにらみ返してくる。


「……んだよ。」


「元気がないなと思って。」


九頭竜は「べっつに~」と言ってそっぽを向いた。朧はそんな九頭竜を不審に思いながらも九頭竜のそばを離れずに二人は昼下がりの屋上で昼食をとった。九頭竜は昨日の朧の幻導力エナジーの放出量を気がかりに思っていた。なぜ、皆と、格上であるはずの生徒会長とも試合をするときすらもあの量を放出しなかったのか…九頭竜はなんとなく理由が分かっていた。だが、それを考えてもしかたがない。


「俺と試合した時も手加減してたんだな……」


ボソッとつぶやき、朧に聞かれたかと横目で見たが、朧は昼寝をしており今の愚痴は耳に入ってないようで安心した九頭竜は菓子パンを詰め込みいちごミルクで流し込んだ。そして、勝手に気まずくなった九頭竜はしばらく屋上からの景色を見ていた。


─────────────


放課後。朧は九頭竜をさそって一緒に修行をしようと提案したが、「わりぃ俺は一人でやる」と言って帰ってしまった。


「やはり、本気を出すべきではなかった…」


朧は九頭竜の態度に既視感があった。小学校から中学校までに感じた既視感……どこか特別扱いしているような、だが、いい気分の特別扱いではない、そんな特別扱い。実力を見て幻導力エナジーを見てほとんどの人は逃げて次の比からは避け始める。そして、最終的に一人になる。


「……やはり、本気でやるべきでは、なかった。」


朧は悔しさを飲み込むように教室を出ようと扉に手をかけると先に向こうから誰かが扉をスライドした。朧は驚いて固まっているとそこには諸星 聖華がいた。諸星も朧がいたことに驚き固まっていた。


「……すまん。」


「……いや、私のほうこそごめんね。カバンを取りに戻ってきたの。」


お互いすれ違い朧は教室を出て、諸星は教室へ入った。カバンを取る途中、諸星は昨日の一件を噂で聞いたことを朧へ話す。朧は半歩出ていた足を教室へ戻して諸星へ向き直る。


「そうだ。オレと誠と生徒会のみんなで解決した。」


「本当だったのね……正直、驚いたわ。あなたの幻導力エナジーとても小さくて弱弱しいから……」


そのタイムリーな言葉に朧は少し顔をしかめる。


「あら、気にしていたかしら?でも気にしないでいいと思うわ。平均よりもほんの少しだけだから。」


言葉の節々から朧は諸星の実力を見たいと興味が沸く。


「……何かしら?」


「諸星は幻導力エナジーの揺らぎを見れるのか?」


「えぇ、修行のおかげで。」


朧は、諸星へ距離を詰めて試しに殺気を放つ。諸星は表情を少しこわばらせるが、気にしていない様子だ。


「いきなりなに。」


「オレと一戦交えてみないか?」


「いいけど、私こう見えてギアの扱いには自信があるの。」


そういうと諸星は殺気を放ち返してきた。二人は体育館が開いてないことを残念に思いながら近くの河川敷へ向かった。その二人の後ろに戻ってきていた九頭竜もついていく。


「なんで、あの二人?」


そのまま河川敷へ着くと、朧はブレザーをたたんでカバンをベンチへ置く。諸星は制服が汚れないようにジャージに着替えて朧と向き合った。



「それじゃ、始めようか……」


「えぇ…」


お互いギアを起動し、構えた。朧はいつものごく刀のギア、そして、諸星のギアは珍しい形のギアだった。赤い刀身が先についた長い薙刀のようにも見えるが、その間には節があり、ヌンチャクのように鎖でつながっている。


「三節棍だったかな?」


「まぁ、そう思ってもらっても構わないわ。ギア名は破死喰はしばみ鉄血てっけつAっていうわ。」


「オレのギアは名刀玄道めいとうげんどうE」


「Eランクギア……ね」


互いにギアを構えて数分、朧は殺気を放ち威嚇する。諸星はそんな殺気を跳ね返すように殺気を放ち返す。にらみ合った二人は同時に一歩踏み込んだ。


「はぁぁ……!」


「……ッ!」


諸星は三節棍を振り下ろし、朧はそれを受け流す。そして互いに悟る。


『こいつは、ただのギア使いではない。』


そして、また互いににらみ合う。まるで武人が互いの隙を伺うかのように。朧は隙を作るためわざと諸星へ話しかける。


「動きが素人やギア使いのそれじゃないな。」


「……白状するわ。私、武術をたしなんでるの。中国武術と日本の武術を複合した武術を。」


「そうか、君もオレと似たような境遇なんだね。」


諸星は朧の言葉にひっかかりを覚え質問した。


「君”も”?あなたも何か武術を?」


「夜月流だ。刀剣、抜刀、古武、弓、槍、長刀とかもあったな…まぁ、色々と派生が多い流派さ。」


「いいわね。私は拳とちょっとした武器しか習ってない。」



朧はそうかとつぶやくとそのまま諸星の隙をつこうと大きく一歩を踏み出すが、諸星のブラフに引っ掛かり朧は三節棍の先についている刃に首を切られそうになる。それを躱してさらに一撃を与えようとするが、諸星は攻撃をよけて、ブラフを作り朧をさそいこんで攻撃を繰り返す。


「カマキリみたいな戦い方だ。」


「まぁ、あながち間違ってないかもね。それじゃ、決めさせてもらうわ。」


「オレだって負けない。」


互いに殺気をぶつけ合い、ギア使いではなく武人として最後の一撃を決めにいった。互いの一撃が同時に首元へそして、張り詰めていた空気が完全に制止し、時間すらも止まったかのような感覚になる。数分見つめあう二人はギアを解除し、無言で握手をして丁寧に礼をする。


「なかなかやるな。今度、道場とかに行ってもいいか?」


「えぇもちろん、私もいつか道場に行くわ……さて…それで、なんで私と一戦交えたかったの?」


朧は、この境遇を話すかどうか迷った。自分の並外れた幻導力エナジー量のことを。だが、諸星は話す前にジャージを脱ぎ汗を拭いながら、質問を途中で変えた。


「いや、やっぱり質問を変えよう……いつまで制限しているの?」


朧は目を見開き驚く。諸星は逃がすまいと朧を見つめる。朧は幻導力エナジー制限を解除してその量を諸星に見せる。


「弱弱しい幻導力エナジーの持ち主があんなにギアを上手に使えるなんてありえないと思ったら……それも修行の一環なの?」


「違う。これは、癖だ。」


「ふぅん……まるで自分より弱い人間に配慮してますって感じの癖ね。」


トゲのある言い方に朧は少し悲しくなるが、図星だった。そう、避けられて避けられたその結果がこの配慮のように見せかけた癖だ。朧は何から話そうかと口をもごもごさせているとベンチの後ろの林から九頭竜が出てきた。朧は突然現れた九頭竜に驚く。


「誠?」


「いや、なんつーかたまたま通りかかったから……」


「嘘ね。最初から私たちをつけてた。教室から。」


「ちょ、ば、おま、気づいてたんなら言えや!」


「でも、なんで……」


「いや、なんツーかな……昨日の戦いで俺はまだまだなんだなぁって考えてたらちょっとイライラしちまって……いや、まぁその、なんだろう……な」


「煮え切らないわね。はっきりごめんでいいじゃない。」


「うっせー!つうか、お前も夜月と互角にやりあがって、お前も幻導力エナジー量に制限かけてんのかよ!?」


諸星はそうね…とつぶやき朧と同じく幻導力エナジーの制限を解除する。朧までとはいかないが、一般の幻導力エナジー量よりは確実に多い幻導力エナジーの量だった。


「まじかよ。」


「えぇ、マジよ……それで、夜月 朧くん。どうかしら?」


「君もオレと同じような生活を?」


「そうね、小学校も中学校も全部避けられて生活してきたわ。まぁ騒がしいやつらが近寄ってこなくて便利だったけど。」


九頭竜は引きつった顔であきれた。


「はぁあそうかいそうかい。俺に飽きたら彼女作って遊ぶのか~」


「人聞きも耳心地もよくない言葉だ。それに避けたのはそっちだろ?」


「悪かったって……。」


「……何があったか未だに憶測しかできないけど、解決したのなら私はお役御免と言ったところね。」


「いや、諸星もそんなこと言わないでくれ。」


夕日が沈んでいく中、三人は汗を拭いながらそんな会話を繰り広げた。


重/参之巻:それぞれの悩み、それゆえの悩み

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