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拾/伍之巻:夏休みの山で修行

いつかの頃の夢。皆から避けられて、無視されて……ひどい夢だ。だが、そんな中で唯一オレに話しかけてくれて仲良くしてくれた子がいた。読書が好きで、運動が苦手な眼鏡の女の子。名前は、確か…………そこで目が覚める。夏のにおいが鼻孔をくすぐる時間。起き上がりいつも通りにトレーニングの準備をしていると夏の合宿のことを思い出すが、時間には余裕があるのでいつも通りにトレーニングの準備をして玄関へ降りる。それにしても今朝の夢、なんでオレはあんな幼いころの夢を……まぁ、いいか。とにかくトレーニングだ。いつも通りにルーチンをこなして合宿の準備をしてオオノキさんへ挨拶をして学校へ向かった。


「いってらっしゃいませ。」


「うん。帰ってくるのは30日の午後だから、忘れないでね。」


「えぇ、わかっていますよ。」


オレは玄関を出て学校へ向かった。通学路には六華の生徒だけが歩いており、皆、修学旅行前の学生の顔をしている。別に残念だとか、嘆かわしいとかは思わないが、あくまで修行ということを忘れてしまっては緊張感がなくなる。人それぞれだから何も言わないが、オレの班のメンバーは最初から皆、修行だ、地獄だと気を引き締めて浮足立つ気持ちを抑えていた。校内へ入り教室へ入るとすでに何人か集まっており、どんな修行なのかとか、山と言ったらBBQはあるのかとか楽しみにしていた。その中で机に突っ伏した九頭竜 誠を見つける。オレは誠へ近づき話しかける。


「誠、おはよう。」


「お、おう、おはよう。」


顔色が悪く、目の下にクマを作っている誠はやつれた顔で暗く微笑む。


「何があったんだ?顔色が悪いぞ」


「あ?あぁ、そうだな。宿題を今日までに終わらせたんだ。だがよ、そのせいで昼夜逆転しちまってよ、ねみぃんだ。」


なるほど、そんな理由が…真面目な誠のことだ。 計画を立てたはいいが、実践してみると修正が効かない程の無茶な計画だと気づき今に至るといったところだろう。大丈夫だろうか。


「勉強もほどほどにだな。」


「そういうお前は、宿題どうなんだよ。」


「オレは一週間で終わらせた。」


余裕だ。早起きは得意だからな。


「そうだった…こいつ毎朝のルーチンがあるんだった……俺も同じことしようかな。」


「あぁ、おすすめだ。」


早起きの習慣は小学生から始めて病気の時以外は完璧にこなしている。いつか、誠や諸星のために時間表とかまとめてみるか。そんなことを考えて席に戻ると隣に諸星 聖華が読書をしていた。


「おはよう。」


「おはよう。九頭竜くんの顔色が悪いようだけど、大丈夫だったかしら?」


「あぁ、宿題を無理な計画で進めて昼夜逆転してしまったそうだ。」


「そう、皆やっぱり早めに終わらせるタイプなのね……」


「諸星は?」


「私は、まだ途中よ。慌ててやったって頭には入らないもの。一日全課題の二ページから三ページを進めているわ。」


「計画的なんだな。」


「理解のためよ。」


なるほど、夏休み専用のルーチンみたいなものか。確かにちゃんと理解できていなかったら意味ないな。オレも帰ったら一度見返してみるか。二人の夏休み事情を聞きながら、修行のことも頭の中で考える。そうこうしていると茂木先生が教室へ入ってきていつも通りにホームルームをして、早速バスへと移動した。大型のバスにクラスごとに乗り込み大型バスの列が学校から出ていく。二年生は海側へ、三年生は空港側へ、そして、オレら一年生は山側へ向かっていった。


「ついに始まったか。」


「そうだな……やべ、酔ってきた……ついたら起こしてくれ……」


「だらしないわね。」


「せ、聖華ちゃん、私もついたら起こしてくれないかな?」


そういうと誠と武田は眠ってしまった。オレも体力温存のために寝ていようか…いや、逆につかれそうだな。このまま景色を楽しもう。高速道路を走り、町から離れて海が見えたかと思えばだんだんと緑が多くなってきた。バスはそのまま大きな山のふもとまで来るとここが終着点と言わんばかりに止まる。生徒たちはざわざわとしながらも先生の説明を待った。茂木先生は立ち上がると生徒たちが聞きたくない言葉を言い放つ。


「ここで到着だ。我々が目指すのは、この山の中腹にある旅館だ。」


生徒たちは口々に小さく文句を言う.、茂木はそんな言葉が聞こえないと言わんばかりにバスを降りて生徒たちに降りるように指示する。次々に降りる生徒たちはやっとこれが旅行ではなく、修行だということを理解した。オレは眠っていた誠を起こして目の前の山を登ることを伝えると顔を引きつらせて死にそうな顔になっていた。


「嘘だろ……」


「中腹に宿があるようだ。」


「標高は1500mあるようね。でもルートがあるからより体力が削られるみたい。」


「ひっひぃぃぃ……」


武田が青ざめた顔をして悲鳴を上げる。挨拶を躱した時から気になっていたんだが、この子は大丈夫なのだろうか。気が弱そうだし、何より体力があるようには見えない。茂木先生が手を挙げて進み始めた。


「では、登るぞ。ついてこれないものはゆっくりでいい。この登山の目的は筋肉痛を起こして筋肉を強化することだ。水分補給はしっかりすること。では進むぞ。」


茂木先生は我々生徒たちを率いて山を登り始めた。最初はみんな文句を口々にこぼしながらそれでも和気あいあいと登っていたが、数十分すると班もバラバラになり誰も仲間を気にする様子はなく無言で登り始めた。だから、最初に旅行だと認識するなと……言ってないか……まぁ、これくらいの山ならそこまで体力は使わないだろう。オレ、諸星、誠、武田は息切れはしているもののそこまでバラバラにならず最初のペースを保ちながら山を登っていった。日が傾き始めるころには中腹の宿へたどり着く。周りを見渡すと茂木先生とある程度体力がある生徒だけだった。


「ふぅ……腕と足の筋肉が痙攣している。」


「意外ときつかったわ。」


「お、おま、お前らもきついっていうんだな。」


「……あ、し、お、あ」


武田は何を言っているかわからないほど息切れをしている。まさかとは思うが、この子は体力はそこまでないが、置いて行かれたくないという考えだけでついてきたのか?すごいな。

クラスメイトが集合する前に茂木先生は次の説明を始める。


「さて、荷物を部屋に置いて一度ここに集合だ。」


クラスメイトたちはそのままトボトボと宿へ入っていく。宿は大きく中も綺麗で部屋も全部清潔にされている。硫黄のにおいもかすかにすることから温泉もあるのだろう。クラスメイトたちははしゃぎたい思いを抑え込み先ほどの場所へ集合した。


「集まったな。では、これよりい一日目 体のエナジーの扱い方、集中力を上げる修行を始める。」


体に流れているエナジーの使い方。体全体に血液と同じ配置で流れるエナジーは常に体中を循環している。それを感じ取ることでエナジーを自由自在に操ることができる。オレもそこまでエナジーの修行はしたことがなかったためどのように扱うか気になった。茂木先生は全身に力を込める。すると茂木先生の周りにモヤが現れる。


「これはあくまで可視化して説明しやすいようにやっているだけで、必ずしもここまでやるわけではない。これが、皆の体にも流れているエナジーだ。我々はこれとギアを駆使して戦う。これを極めるとこんなこともできる。」


茂木先生はそう言いながら息を整えて歩き始める。すると数秒もしないうちに茂木先生はその場から消えて後ろから現れた。


「これが、皆が目指す段階だ。これを自在に操りギアも自在に操り、ありとあらゆる者を制圧できる者こそ極幻導士ファンタズマだ。君たちには卒業までにこのレベルに達してほしい。一年目は初期称号の幻導士ゴーストを目指してもらう。」


説明を受けてクラスメイトの一人が挙手で質問する。


「先生~先輩たちはそんなことしてませんでしたよ~?」


「あぁ、先輩たちにもできる者とできない者がいる。だが、ギアを扱うにあたって目指すのは極幻導士ファンタズマだ。もちろんそれ以外の称号にも挑戦してもらってかまわない。とにかく、一日目は君たちに幻導士ゴーストの適性があるかの修行だ。ちなみに、適性がなくてもできなくてもペナルティ等はない。とにかく頑張ってみてくれ。」


クラスメイトたちは返事をして早速体中のエナジーを感じ取りそれぞれが頑張ってエナジーを絞り出そうとするが、先生のようなモヤは出てこない。


「やはり、適正は少ないようだな…みんなイメージしてみるんだ。自分の手から炎が出るイメージだ。」


皆はその声を聴くと手のひらをかざしたり上に向けたりする。オレもトライしてみる。炎のイメージ。手のひらを見つめているとその手のひらの小さな空間に小さな炎が燃え上がった。集中力を切らすとすぐにその炎は消えてしまった。クラスメイトたちもまばらに炎は出るが消えたりしている。誠、諸星、武田も同じように炎が消えたりした。


「……意外といたな。炎が出た者は適性があったようだな。」


その後、茂木先生は遅れてきた生徒たちにも同じ説明をしてオレたちはそのまま集中力を上げるための修行のため、別の場所で待機を指示された。言われた場所に向かうと仁王立ちで待ち構えている屈強な先生がいた。


「よぉし、お前らは集中力を上げるための修行にきた生徒だな!?私のメニューをクリアできた者は今日の修行は終了とする!心して聞けぃ!」


その先生の声にオレ以外の生徒は顔を引きつらせて残念そうな声で返事をした。


拾/伍之巻:夏休みの山で修行

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