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第17話 白雪姫の姉ですが母が凸ってくるようです

 黒のドレスをまとった王妃サニーは、鏡の間でカツカツと靴音を立てながら、落ち着きのない表情で歩き回っていた。


 その手には、木のステッキ。そして目の前には、壁に埋め込まれた魔法の鏡。


「鏡よ鏡……革命軍とか名乗る山賊どもが、農村で暴れ回っているとか。既に七つの村と、七つの砦が落とされた。詳しく教えよ」


「はい、王妃陛下。偵察に向かった使い魔カラスから、報告が届いております」


 鏡は、カラスの脳内記憶を読み出し、スノーホワイトのこれまでの動きをダイジェスト映像で映し出した。


 字幕、「生ける屍、魔の森へ脱走」

 ハンターに手を引かれて走るスノーホワイトが鏡に映る。


 字幕、「親不孝者、サムライの里へ到着」

 七人のサムライに囲まれるスノーホワイト。


 字幕、「山賊集団、国軍を襲う」

 軍の荷馬車に氷魔法を放つスノーホワイト。


 字幕、「王位を狙う女、農村で人気取り」

 物資と財宝の山に群がる民衆。


 字幕、「革命軍、快進撃続く」

 鏡の中に、絶叫するスノーホワイトの姿が映る。

「革命軍、軍報ーっ! またまた大勝利です!」

 歓呼する民衆。

「うぉぉぉおおお! 姫様!」


 字幕、「注目のスノーホワイト王女、本命のお相手は……?」

 ジョンと再会するスノーホワイト。彼女の背後にはハンター。


「何なのよォォォォォ、これは!」


 サニーは、ステッキを膝でバキッとへし折った。


「わたしが何度も何度も!  可愛がって!  蘇らせて!  あの子を最高のお人形にしたのにィィ!」


「まぁまぁ王妃陛下、冷静に……」


「お黙り、鏡!」


「ていうか、王妃陛下。あなた、母親失格ですよね」


「はぁ⁉」


「スノーホワイトが脱走するのは当たり前ですが、実の娘のアップルにも背かれて……どんだけ、虐待してたのよ」


「虐待なんかしてないわよ!  ちゃんと玉の輿に乗せてやったし」


「スノーホワイトとの婚約を破棄させたお詫びの品に、差し出しただけでしょう」


「あと、アップルに公爵を監視させて、反乱起こしそうなら、止めてもらおうかなと……」


「長年放置しておいて、なんで反乱止めてもらえると思ったんですか? 図々しい」


「だって……私も、被害者なのよ? あの子が生まれるまでは、本当に期待してたの。竜族の男との子供。この世の中をぶっ壊す、魔王みたいな子に育てようって」


「若気の至りで魔王産もうとしてたのかよ」


「でも産まれたのは、魔力ゼロの出来そこないだった。だから少しくらい、出来そこないを有効活用したって、いいじゃない!」


「人の親として、出来そこないはあなたでは?」


「うるさいうるさいうるさーい!」


 ドシュン!


 サニーは、指先から光弾を放った。鏡は、光弾を反射して弾き返す。室内をバウンドしながら飛び回った光弾は、やがて窓から屋外へと消えていった。窓の外から、「ぐあッ!」という兵士の叫び声が聞こえた。


「……いいんですか? 私のアドバイスなしでも。スノーホワイトと、もうすぐ戦争でしょ?」


「王都に立てこもれば、大丈夫じゃない?」


「これだから素人は……。さっきのカラスの報告映像を見たでしょ? 向こうは、だんだん人気が上がってきてるんです。放っておけば、農民反乱が広がって、王都は食糧不足で孤立する。今のうちに、叩き潰さないと」


「こっちから打って出て、野戦で一気に勝負を決めろと?」


「向こうは数こそ多いですが、大部分は農民の寄せ集め。正規の軍隊は、モンストラン公爵の兵、約一万人だけです。公爵軍の動きにさえ気をつければ、あとは戦力差で押すだけで、必ず勝てます」


 その言葉を聞いて、サニーは野戦に乗り気となった。 


「よし、軍を出すわよ! 鏡よ鏡、遠征計画を出して」


 鏡は王国の地図を映し出し、各部隊の移動経路と詳細な補給計画図を示した。


「総兵力十万人のうち、王都の守りに二万人を残して、八万人を革命軍討伐に向かわせます」


「そんなに大軍が必要なの……? 遠征費用が、国家予算の三倍超えちゃうけど」


「払えなかったら、王妃陛下の服と宝石のコレクションを売ります」


「それは困るぅ!」


 鏡の助言に従って、王妃は軍に出撃を命じた。動員命令が発せられ、遠征の準備が迅速に進められていく。


「スノーホワイト、私のかわいいお人形。必ず、あなたを取り戻してみせる……」


 王妃は、狂気に満ちた笑みを浮かべる。


「革命軍なんて、全滅させてやる! 全滅させてから、スノーホワイトちゃんだけ生き返らせれば、それでいいよね?」


 王妃の独り言に勝手に反応して、鏡が答える。


「アップルが死んでも、生き返らせるつもりはない、と? 実の娘でしょうに。もう少しきちんと、アップルに向き合ったらどうです? そうしないと、ご自分の命取りになりますよ……」


 しかし王妃の耳に、もはや鏡の言葉は届いてはいなかった。

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