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男爵令嬢トリシアは黒髪少女の転生チートに惑わされない
男爵令嬢トリシアは黒髪少女の転生チートに惑わされない
弥生 知枝
異世界恋愛恋愛ゲーム
2025年05月03日
公開日
5,811字
完結済
【7話完結】 男爵令嬢トリシアは、幼い頃から2年毎に訪れる恐ろしい夢に悩まされていた。 夢の中に現れる黒髪の少女が声高に訴えるのだ。「逆ハー」「推し」「モブ」……と、訳の分からない言葉と考えに自分を侵食されてゆく。 その声の主に嫌悪感を募らせたトリシアは、逆襲を決意する。 これは転生したかもしれない少女に抗い、幸せを掴み取るまでの物語。

プロローグ ~ 男爵令嬢トリシア 6歳


 あの夢を見たのは、これで9回目だった。


 けれど、わたしが侵食されてゆく嫌悪感は、これで二度と味わうことはない。きっと。


 わたし――トリシアは、寝乱れた髪をざっと手櫛で整えると、染み付いた優美な身ごなしでフワリとベッドから降りた。




 ◇◇◇




 乳母の話によれば、わたしが2歳、4歳の同日同時刻に、火が付いたように泣いて、泣いて泣いて……翌朝に高熱を出すことがあったらしい。

 それは決まって、わたしの誕生日への日を跨ぐ瞬間だったから、乳母も家族もハッキリと覚えていた。




 夢の中。

 黒髪の少女が、大きな瞳をキラキラと輝かせて、歌うように言葉を紡ぐ。






『あなたのお母様は、もうすぐ亡くなるわ。そしたら、お父様はとぉっても甘くなるのよ! 面白みのない男爵家令嬢の立場や、堅苦しいマナーに縛られず、自由に伸び伸びと生きられるようになるわ』






 6歳からは、わたしの自我もしっかりして、その大泣きの正体を記憶に留めるようになった。今となっては夢の詳細までは覚えていないけれど、熱の下がったわたしは執拗に母親に纏わり付いた。


「おかあたま、いなくなるの、やっ! おびょうき、げんきないない、やっ!」


 舌足らずのたどたどしい言葉で、やたらと母親の健康不安を煽ったらしい。

 これは何かあるのかもしれないと、母と一人娘への溺愛の過ぎる父が、すぐさま医師を呼んで診察させた。すると、何の自覚症状も無かった母の身体に異常が見つかり、早期治療の甲斐あって根治することができた。

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