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運命を掴み取ったトリシア 18歳 ~ 夢のおわり






『いい加減にして! なんでストーリーを全部終わらせちゃってるのよ!! もぉ、これってエンディングむかえちゃってるわよね? それに、誰とも結ばれてないノーマルエンドなんて、信じらんないっ!! こんなつまらない結末なんかじゃあ満足できないわ、神様責任取りなさいよぉぉぉ』






 これまで以上に取り乱した黒髪の少女は、わたしを目の前にしながらも、「トリシア」の半生を詰る言葉を喚き続ける。わたしの存在をまるごと否定する強い言霊に圧倒されて、意識が遠のきそうになる――。






 けれど寸でのところで、別の存在が、わたしの意識を呼び戻してくれた。リリアンネ様の手のぬくもりと、夢の中にまで響いてきた「トリ!」と連呼するサンディス様の声。


「自分を磨いて成果に繋げ、切り拓いた道の先で道の交わった心の通じる仲間や愛する人と共に迎える人生。これ以上の幸福なんて無いと思うわ。わたしはわたし自身を誇らしく思う! 口先だけの貴女に、努力の末に掴み取った、わたしの誇りと大切な人とを貶す権利なんてない!!」


 夢の中でも手の平に、心に伝わる温かなぬくもりに気持ちを奮い立たせ、嘆く黒髪の少女に毅然と言い放つ。






『エンディング後なんて興味ないわ。リセットよ』






 黒髪の少女がそう告げると、夢の世界は忽然と灯りが消えたみたいに真っ暗になった。それと入れ替わるかのように、瞼に光を感じたわたしは、そっと目を開ける。

 いつの間にか、18歳の誕生日の朝がやって来ていた。


 あの夢を見たのは、これで9回目だった。


 けれど、わたしが侵食されてゆく嫌悪感は、これで二度と味わうことはない。きっと。


 わたし――トリシアは、寝乱れた髪をざっと手櫛で整えると、染み付いた優美な身ごなしでフワリとベッドから降りた。降りた先には、安堵の笑みを浮かべた親友リリアンネ様。そして、寝間着姿のわたしに気を遣って距離を取りつつ、優しい笑みを浮かべたサンディス様。


「これからは、わたしだけの夢が見られそうです」


 優しい二人の視線に堪らず涙をこぼせば、リリアンネ様に背中を押されたサンディス様が一歩踏み出し、わたしの頬を伝う涙をおずおずと指で掬い取る。


「いいや、夢はこれから私と二人で紡いで行こう」


 夢の中で聞いた声が、至近距離からわたしの耳朶を震わせ、優しくもたどたどしいぬくもりが、わたしを包んだ。









男爵令嬢トリニティは黒髪少女の転生チートに惑わされない

《 完 》

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