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MO部 俺もう目立ちたくないんです
MO部 俺もう目立ちたくないんです
灰色鋼
現実世界ラブコメ
2025年05月03日
公開日
1.3万字
連載中
成績優秀、品行方正で誰からも一目置かれるスーパー中学生……だった俺はもう疲れた。普通のモブ生活を夢みて《逆》高校デビューしたつもりだったのに……おかしな女子たちに囲まれて……。モブになりたい男子高校生の泥沼の日々に光が見える日は来るのか。

第1話

 地球温暖化で桜の花はとっくに散ってしまった四月、俺は知り合いが誰もいない隣県の高校に進学した。全日制普通科のみで偏差値58、大学進学率は90%、駅から徒歩十五分で校舎は築四十五年、狭くも広くもない校庭があって男女比率はほぼ同数。運動部も文化部も県大会で注目される部活は特にない。絵にかいたようなフツーの高校だ。


「ああ、空気が清々しい」


 校門を入り、俺は鼻をほじくった。


「はは、誰も気にしないよな」


 今度はズボンに手を入れて股間をかいてみた。周りには大勢の新入生がいるが、当然のことながら無反応だ。そもそも俺の容姿自体、どこにでもいるような特徴のないモブ男子なのだから、当たり前と言えば当たり前だが。


 入学式前のオリエンテーションまでにはまだ時間がある。校庭では運動部、文化部入り乱れ、新人勧誘の声を張り上げている。部活を宣伝するプラカードもみんな一生懸命工夫している。


「蹴球部は現在週休二日!」「白球を追う青春はもう丸刈りにしなくていいんだ」「スイキュー!!」「二歩以上歩かず籠に球を入れるだけの仕事です」「書く読むなろう文芸部」「いい加減にしろ撮り鉄!」「書の道はヘビー」「ブラバンバンバンボン!」


 なんか妙な主張もあるけれど、それにしても部活か。まあ、入らないのが無難だよな。そう思って歩いていると、異様な雰囲気の一角に目が留まった。

 暗そうな女の子が下を向いてプラカードを持って立っている。黒髪が前に垂れ、マスクをしているため顔が見えない。キャッチフレーズの文字も小さくて薄くてよく読めない。なんの部活なんだ……。

俺は近寄ってプラカードの文字を見た。


「MO部」


ん? どういう意味かな……ってモブ!?

「あの……」

 俺は恐る恐る声をかけた。

「……」

 プラカードを持った女の子は顔を起こして上目遣いに俺を一瞥したが、また視線を落としてしまった。はあ? なんなんだ。部活の勧誘じゃないの?


「……う……」

 女の子が何か言った。

「誰?」

 いや誰って言われても……なんか怖い。


「俺、新入生ですけど。あの、なんの部活なんでしょう?」


「あ!」

 と言い、女の子は傍らにあったチラシを俺に突き出した。

「あ、はい」

 受け取ったチラシにはこう書かれていた。


「MO部はモブのモブによるモブのための部活。部是と真実はただひとーつ。絶対に目立たず モブに徹する。そのために命かけています。モブは何もしない、何も足さない、何も引かない。理想はヘリウム。無味無臭無色無毒、化合しないけどそこに存在する。サウイフモノニ ワタシハナリタイ 」


 なんだこりゃ。でも、モブに徹する……俺の理想じゃないか。

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