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第20話

「おらああああああああああ!!!」

「それはほんとになんでなんだよおおおお!!!」


 俺はサボリニキを殴った。

 理由は特にない。強いて言えば、なんか俺らしくない雰囲気になっちゃったから。


 俺の身体はコメディ100%でできてんだ。シリアス要素は『アイスに醤油』くらい合わんからな。


「あんな過去聞いちゃったからには、やり返しづらいじゃん……」

「えマジ? じゃあこれから変な空気なったら、とりあえず殴るわ」

「そんなことしたら右腕切断するから」

「待って代償が思ったよりデカい。あと真顔で言わないで。本気に見えちゃうから」


 サボリニキがニコッと笑う。怖すぎるんだが……


 それはそうと、空気が少し緩和したところで、次はサボリニキの話だ。


 世界をかけた話、それを聞こうじゃないか。



──────

────

──



 昨日。

 東京都内某所にて、『日本ダンジョン総括会議』が催された。


 全国の各県庁に設置してあるダンジョン科から2名ずつ──ほとんどがダンジョン科長と副長である──と、ダンジョン庁の役人が数名。

 計100人を超えるダンジョンのエキスパートが、数カ月に1回の頻度で一堂に集まる。


 僕、サボリニキこと氷室ひむろ玲央れおも、埼玉県のダンジョン科副長としてこの会議に参加した。


 もう間もなく会議が始まろうとする頃。

 しかし。


「……人、やっぱり少ないですね」


 僕の隣に座る埼玉県ダンジョン科長──九条くじょう綾人あやとに、会議室を見渡しながら言う。


 数えた訳では無いが、それでも分かるほど少ない。

 これ、50人もいないんじゃ…………


「ふむ……まぁ、仕方なくはあるな。昨日の夜に招集をかけられたばかりだからな」


 メガネの位置を中指でくいっと上げながら、いつも通りの厳かな顔で九条さんは言う。


 そう。

 今回の『日本ダンジョン総括会議』は、今まで一度もなかっただったのだ。


 そのため、遠方の地の方々やスケジュールが詰まっている方々が参加していないのだろう。


 そんなことダンジョン庁あちらも予想出来ただろうに、それでも開催した理由。

 覚悟を持って会議に参加するとしようか。


『──定刻になりました。これより『日本ダンジョン総括会議』を始めます。緊急招集にも関わらず、お集まりしてくださった皆様、ありがとうございます』


 今回司会を務める女性が告げると、ダンジョン庁の役人が座っている席から2人の男が立ち上がり、前に向かって歩く。


 ダンジョン大臣と副大臣の1人だ。


 へぇ、珍しい。

 忙しい彼らが会議に参加すること、最近じゃほとんど無かったのに。


 たまたま暇だったのか、それとも────。


『あー、あー。聞こえているだろうか』

『ちょっ……大臣! ここは正式な場なので!』

『あ? どこだろうと俺は俺だ。それより話を進ませろ』


 ……うん、いつも通りだ。

 さすがに副大臣に同情するよ。


『っと、早速本題だ。お前ら、これは知ってるよな?』


 大臣がそう言うと、副大臣は『お前らじゃなくて皆様ですよ……』とぼやきながら1つの大きな水晶を全員に見せるようち持つ。


 ……知っているも何も、2年前に使ったばかりの魔道具だった。


『よし全員知ってるな』

『いや……2年もあれば交代とか異動とかあるでしょ……』

『あ?』

『次、行きましょう』


 シリアスなのかコントなのか、どっちかにしてよ……。


 ってか、なんで僕は気づいたらツッコミの立場になってんの?

 どうせ明日はスレ主にもツッコミしないといけないし……スレ主、実は常識人であることを願うからね。


『お前ら知っての通り、各県に1つずつ設置されている『現実世界の魔力量に反応する』魔道具だ』


 スタンピードの際は、地上に魔力が溢れてくる。


 9年前の最悪の災害から、「2度と同じ被害を出さない」という魔道具師の強い意志から生み出された魔道具だ。


 スタンピードは発生の数日前から魔力が漏れ出す。

 そのため、この魔道具のおかげで事前避難が可能になったのだ。


 2年前、埼玉で起こったスタンピードもこれのおかげで被害者をほぼ出さずに鎮圧できた。


『こいつに、


 突如として、ざわざわと騒ぎ出す会議室。

 それもそのはず。大臣の言葉は『スタンピードがもうすぐ発生する』と同義なのだから。


 しかし…………


「なぜ、それを知らせるために『日本ダンジョン総括会議』を開いたんですかね……」

「それも大臣が説明してくれるだろう。無論、ただのスタンピードでないことが確定してしまったがな」


 冗談っぽく言い放つ九条さんの顔は、いつになく真剣なものだった。


『今お前らは『なぜこれを?』と思ったと思う。その理由は────この水晶の反応が、47からだ』


「──な……ッ!?」


 先ほどのざわざわとした声が──いや、どよめきがさらに大きくなる。


 ──全国同時スタンピードだと!? 一カ所で発生した時、全国から冒険者を寄せ集めて食い止めるスタンピードが、最低47カ所同時発生!? 無理だ。止められない。人手不足だ。日本が滅びる可能性が……! 発生はいつなんだ? 世界中から冒険者を集めたら食い止められるのか? もしや……また『荒野のスターリヴォア』でスタンピードが発生してしまうのか!?


 僕が焦っていると──



 タンッッッ!!!!



 大臣が床を力強く踏みつける音が会議室に響き渡り、静寂が訪れる。


『焦るな。焦っても事態は進展しない』


 大臣の言葉に続けて。


「氷室、深呼吸だ。冷静になれ」

「……すみません。取り乱しました」

「いい。お前がするのは謝罪じゃない。大臣の話を聞いて、対策を練ることだ」

「……!! ッはい!」


 深く空気を吸い、細く長く落ち着かせるように吐く。

 九条さん、ありがとうございます!!


 ──よし。


『今回のスタンピードはかなり特殊なもので猶予が長く、発生予想日は今から1ヶ月後の12月24日。このクリスマスイブに、日本の命運が決まる。いや、地上に魔物の国ができることを考えると、世界が滅ぶ可能性がある』


 魔物は、魔法か専用の剣でないと殺すことは出来ない。

 それが例え核爆弾だとしても、奴らは無傷で生き残る。


『既に各国に連絡はしている。お前らは俺からの続報を待ちつつ、備えろ』


 備えろって……はは、最後まで大臣らしいな。


『そしてこれは、まだ世に出すな。無駄な混乱は避けたい』


その後いくつかの注意事項が伝えられ、今回の会議は幕を閉じた。



──

────

──────



「なるほどなぁ…………」


 話の内容はよく分かった。

 ってか、俺がダンジョンメイキングで遊んでる間にそんなことあったのかよ……。


 はっず。


「んで、俺に話したってことは、この【迷宮管理者】を利用するってことか?」

「話が早いね」

「あ、ごめん。ラノベであったこういうの言いたかっただけで、ほんとに当たるとは思わなかったわ」

「こんな状況なのに僕で遊ばないでくれるかな?」


 できそうならする。無理そうならしない。

 俺のモットーなんでね。


「正直話すつもりはなかったんだ。ただ、このダンジョンの広さを目の当たりにしてね……」


 広さ? そこが重要なのか?


「いや、とりあえず結論から言おうか。スレ主」

「お、おう……」




「ここに、人を集めることはできるかな。一億とは言わないけど、数千万人の規模だ」




 世界の命運ってのは、そういうことか。


 混乱は避けなければならない。備えに支障が出るからだ。

 そのため、国外避難の開始が遅れてしまう。つまり、避難できない人が大量に出てきてしまう。


 俺のダンジョンはめちゃくちゃ広い。そして、まだ1階層までしか開放されていない。

 まだまだ広くなる。


 サボリニキの表情からも、本意じゃないことが分かる。

 当然だ。笑い合うだけの友人を利用しようとしているのだから。それと、サボリニキはめちゃくちゃ優しいからな。


 ふむ…………。



「つまり、お互い利用し合うってわけだな。いいじゃん。そういう関係好きやで」



「……え」


 うんうん、最初っから仲間ってのもいいけど、利用し合うために仲間になるってラノベも好きなんよね。


「えっと……スレ主?」

「え、察し悪くない? つまりってこと」

「──っ!」


 サボリニキが抱きついてくる。

 「ありがとう……!」というか細い声も聞こえてくる。


 はっはっは、可愛いやつめ。



 さて、俺の目標『めちゃくちゃに発展させる』と『琴葉を救う』に加えてもう一つ。

 これからは、『世界を救う』も目標だな。

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