目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第21話 空をゆくもの

「――轟雷覇王撃!!」


 優雅に泳ぐクジラの頭上に、暗雲が垂れ込める。

 雲の合間に稲妻がほとばしり、凄まじい雷撃が白いモンスターに降り注いだ。


「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン」


 地の底から響くような唸り声。数百、数千の雷光が、白いクジラに容赦なく襲い掛かる。

 雅也がさらに力を込めると、稲妻は空を走り、巨大なクジラに突き刺さった。

 クジラは唸り声を上げながら、徐々に落ちてきた。もう少し! 雅也は奥歯を噛み締め、両手を握り締める。

 一等、強力な雷光がクジラの頭に直撃する。

 クジラもこれにはたまらず、低い悲鳴を上げ、高度をさらに落とした。このままなら田んぼの上に落ちる。

 雅也は小高い丘を駆け下り、田んぼに向かう。

 クジラは苦しんでいるが、まだ死んではいない。あの雷撃でも倒せないとなると、噂通り、相当強いモンスターのようだ。

 田んぼの上に落下したクジラだが、地面にぶつかることなく、まだ浮いている。 雅也は両手を突き出し、てのひらを〝空をゆくもの〟に向けた。


「バーニング・メガ・ブラスト!!」


 手の前で膨れ上がった火球が、恐ろしい速度で飛んでいく。これが当たれば無事では済むまい。そう思った刹那――水の障壁が突如出現する。


「なっ!? なんだ、あれ?」


 巨大津波のような水の壁。クジラが魔法を使ったのか? モンスターも魔法が使えるのは知っていたが……。

 火球は水の壁にぶつかり、大爆発を起こした。

 周囲の田んぼが吹き飛び、火と煙が飛散する。舞い上がった粉塵が落ちてくると、クジラの姿が見えてきた。

 ややすすけているものの、ほとんどダメージを受けていない。

 水の魔法だから、火に強いのか? なんにしても、このモンスターは一筋縄ではいかない。雅也は走る速度を上げた。

 クジラは浮上し始めた。空に逃げる気か!

 雅也は走りながら手を前にかざす。


「暗黒樹、召喚!!」


 田んぼの至るところから、木の根が次々と飛び出す。黒く長い根っこはクジラの体に巻きつき、再び地上に引きずり下ろす。

 田んぼに激突すると地響きが鳴り、土煙が舞う。先のとがった根っこが何本か体に突き刺さったが、クジラが巨大過ぎてほとんど効いていない。

 暗黒樹だけでは倒せないか、と歯噛みした時、いくつもの水柱が立ち昇る。

 水柱は生き物のようにウネウネと動き、真っ逆さまに下降してきた。そのまま暗黒樹に襲い掛かり、木の根を断ち切ってしまう。

 水はまるで空を泳ぐ龍のようだ。龍は強力なあぎとで木の根を切断していく。

 このままではクジラは自由になり、空に逃げられてしまう。走っていた雅也は立ち止まり、両手を前にかざした。


「――ガイア、召喚!!」


 光が弾け、30メートルはあろう黒い巨人が降臨する。とてつもない大きさだが、間近で見るクジラはさらに大きく、100メートル以上はあるだろう。

 これで倒せなければじり貧だ。雅也はガイアに全てを賭けた。

 黒い巨人はまっすぐに右手を伸ばし、動きを止める。なんだ? と雅也がいぶかしんでいると――巨人の手に光が集まり、巨大な斧となった。


 ――あれは老人のモンスターを倒した時に使った斧! 神気解放を掛けなくても使える武器だったのか。


 ガイアは地面を揺らしながらクジラに歩み寄ると、斧を高々と振り上げる。

 飛べずにもだえているクジラの頭に狙いを定め、思い切り振り下ろした。衝撃音と共に、大きな斧が頭蓋に食い込む。

 クジラは甲高い悲鳴を上げ、頭を振った。

 傷口からは鮮血が噴き出すも、クジラは周囲の『水』を操り、黒い巨人に対抗しようとする。

 龍のような形になったいくつもの水柱が、ガイアに向かい一斉に襲い掛かった。 

 水龍による度重たびかさなる攻撃。だが、鋼鉄の体を持つガイアには、まったくといっていいほど効かなかった。

 ガイアはたじろぐことなく、もう一撃を叩き込む。

 クジラの顔は真っ赤に染まり、激しく暴れ回る。暗黒樹を引きちぎろうとするが、がっつりと巻きついた根っこはかなり頑丈だ。

 クジラはガバリと口を開け、その中に巨大な水球を作り出す。

 特大の水魔法を放つつもりか! あれが撃ち出されれば、ガイアでも吹っ飛ぶかもしれない。

 雅也は〝神気解放〟のスキルを使おうと手をかざした。

 しかし、スキルを使う前にガイアが斧を振り上げた。両手でを掴み、全力で振り下ろす。

 クジラの頭に直撃すると、大きく空いていた口は強制的に閉じられた。

 衝撃で地面に叩きつけられ、ボォォォンと弱々しい声を上げる。

 クジラはそのまま動かなくなり、静かになった。雅也は息を飲む。力なく地面に沈む巨大なモンスター。

 誰も倒せなかった怪物を倒してしまった。高鳴る鼓動を押さえつつ、雅也はなんともいえない気持ちになる。


 ――凄い! 自分のスキルがS級モンスターにも通用するなんて。


 防空壕の向こうにいた七体のモンスターは、かなり強い部類なのだろう。

 よくよく考えれば、あそこにできたダンジョンはS級。途轍とてつもなく危険だとテレビで散々やってたじゃないか。

 だとしたら、自分が倒したモンスターも強力だったはずだ。だからこそ、スキルを得られる『クリスタル』が連続して出現したんだ。

 スキルの強さに雅也が満足していると、目の前に光の柱が立った。

 中には七色に輝く六角柱のクリスタルがある。


「これは……防空壕でモンスターを倒していた時と同じ状況だ。〝空をゆくもの〟がクリスタルをドロップしたのか!?」


 恐る恐る手を差し出し、光の中へと入れる。

 指先で触れた瞬間――クリスタルは七色の光となって弾けた。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?