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第11話 帰宅

 牧原がモンスターの死体を食べるモンスター作りを始めてから二時間ほど経過した。

 直径七センチメートルの球体に目と口だけのモンスターが、あたり一面に転がっている。

 いまや、球体のモンスターの牧場のようであり、モンスターの死体は殆ど残っていない。

 そこに様子を見に霧島が戻って来る。

「スゲェ。殆どモンスターの死体残っていない。これら全部牧原さんが作ったの?」

 球体のモンスターを見て、霧島が聞いた。

 牧原は肯く。

「依頼した僕が言うのもなんですけど、治療は受けたとはいえ、ケガ人なんですから無茶しないでくださいね」

「痛みが大分引いているよ。痛くないと言ったらウソになるけど。でも、がんばったかいあって、モンスターの死体殆ど無くなったよ。持ち込まれたばかりの物が残っているけどね」

 その死体も目と口だけのモンスターたちが食べている。


「これをいくつか頂いたけど、問題ないかな?」

 牧原は、懐からティシュを取出し、元人間のモンスターの死体から取った魔法石の残骸を四つ見せる。

「別に問題ないけど、こんなもの集めてどうするの?」

「何かの役に立つかもしれないと思って。微かだけど、魔力を感じる」

「そうなんだ。僕は元人間の額の石に魔力なんて感じないけどね」

「正確には、黒髪の魔法少女でいるときだけ感じる。だから今は感じないけどね」

 牧原は、モンスターの魔法少女の姿でいた。ケガが治るまで黒髪の魔法少女や元の姿に戻るのも白谷に禁止されていた。元に戻ると傷が広がるからだ。

「もう一つ報告があるよ。能力付与2のサブスキルが使えるようになったみたい」

 牧原はそう言うと、鳥型モンスターを作ると、鳥型モンスターは飛んだ。

「飛行のスキルと人間に危害を与えない制約を付与したモンスターだよ」

 霧島は、こんな短期間でサブスキルを習得出来たことに驚く。

「大沢さんの課題をこなしたお陰かな」と言うと、牧原はニッコリ笑う。

「偶然だって」と、霧島はツッコむ。


 霧島に案内されて牧原は、モンスターの死体置場から移動していた。

「牧原さんにはお礼をしないとな」

「モンスターに襲われている所を助けてもらったし、大沢さんや白谷さんにはお世話になったし、お礼なんて良いよ」

「そう言ってもらえると助かります」

「その代わりと言うか、家まで送ってもらえますか?」

 江波と一緒でもモンスターから逃げ回る羽目になったのだ。負傷して一人での帰宅は困難である。

 霧島は、牧原と一緒にいた江波も霧島と仲間たちが一緒に送ったのだ。

「それは、初めからそのつもりですよ」

「今日ほど、自宅から豊島第十高校が遠いと思った事ないよ」


 牧原は、霧島を含めた豊島第十高校の魔法少女たち五人に送ってもらった。

「僕の家はここです」

 牧原は、自宅を指差す。

「本当に近かったんだ。戦闘が無ければ三分だね」と、霧島が言った。

 牧原は礼をいう。

 校門から牧原の家に到着するまで、三回も戦闘になっていた。しかも毎回、モンスターは五体~八体もいた。当然、牧原一人では帰れる状況ではない。

「本日は一人で外出しないでくださいね」

「頼まれてもしないよ」

「用事があったら通話アプリで連絡ください」

 そう言うと、霧島たちは高校へ帰って行く。

「そうさせてもらうよ」

 牧原は、手を振って見送る。


 牧原が、自宅に帰ってリビングに戻ると、三時ちょっと過ぎだった。

 お昼ご飯を食べていなかったので、カップラーメンを作る準備でお湯を沸かし始める。

 待っている時間が勿体ないので、テレビを点ける。

 モンスターの被害がどのぐらい出ているのか、調べようとチャンネルを変える。これだけモンスターが増えているのだ。被害が増えていないはずはないのに、どの番組もニュース報道していない。

 どうしてテレビで報道していないのだろうと思いながらも、ネットで調べ始めたが、お湯が沸いたので、食事にすることにして、調べるのは後にした。


 それに考え始めるとおかしなことが多過ぎた。

 あんなにモンスターが発生しているのに、建物への被害がほとんどないこと。いまだに電気は使えるし、水道にも異常がないこと。

 塀の内側にいるとモンスターが襲ってこないことと関係があるのかもしれないが、現時点では断定できない。そもそもなんで、塀の内側にいるとモンスターは攻撃して来ないのも謎である。




 八月の二週目月曜日の朝。

 天気は良く、この日も日差しが強く、暑い朝だった。

 牧原は、リビングにやって来て、灯りを点け、エアコンをつける。

 昨日、牧原は寝巻を脱ぐとモンスターに付けられた傷を確認すると、傷跡も残らず回復していた。

「白谷さんの薬凄いな」

 牧原は、安堵し、モンスターの魔法少女を解除する。


 朝食の準備をしていると、家の外から、物音がする。

 牧原が、リビングのシャッターを開けると、部屋に光が差し込む。

 目が慣れ、リビングから外を見る。

「何だよこれ……、ありえないだろ」

 牧原は驚愕する。

 道路いっぱいにモンスターがいて、すべてのモンスターが左から右の方向へ歩いていた。所狭しと、モンスターのいない場所がないぐらいの大群が、バラバラと同じスピードで歩いて行く。


「この町は、どうしてこんなことになってしまったんだ」

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