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第10話 モンスターの死体置き場

 牧原は、気を失ってから一時間程して目を覚ます。起き上がろうとするが、眩暈でもう一度横になる。横になって冷静になると、見覚えのない場所で寝ていたことに気付く。

「ここは何処だ?」

 牧原の独り言で白谷は、牧原が目覚めた事に気付き、牧原の元へ行く。

「豊島第十高校の保健室だ。私が与えた薬を飲んで、君は倒れたんだ」

 牧原は、江波と一緒に薬を飲んだことを思い出す。

「あの薬は何だったんです? 江波さんは大丈夫だったの?」

 白谷は、江波は無事で家に帰ったことと、薬は江波にしたのと同じ説明をした。

「目が覚めたのなら、傷を治す軟膏を塗りたいのだが、起きれるか?」

 牧原は、ゆっくり起き上がる。そして、ベッドの端を捕まりながら、立ち上がる。

 白谷は背中にも傷があることを確認すると、椅子に座るように促す。

「この軟膏を塗る。この薬は直接傷を治す効果がある。塗るので服を脱ぎなさい」

「この薬は、魔法少女でなくても効果あるんですか?」

 牧原は上着を脱ぎながら聞いた。

「もちろん。だが、魔法少女の方が治りが早いな」

 傷を庇いながら何とか服を脱ぎ終える。

 すると、白谷は牧原の胸をジッと見る。胸の大きさ、牧原>江波>白谷と言うヒエラルキーに打ちのめされ、悔しがる。

「なんなんだ。このオッパイヒエラルキーは! 不条理だ」

 牧原も、江波も変身前は男である。それがさらに不条理に感じた。

「オッパイヒエラルキー?」

 牧原は、意味が分からず戸惑う。

「あの~。早く薬塗ってもらえませんでしょうか?」


 牧原は、薬を塗ってもらう。しばらくすると大分痛みが引き、魔力酔いも治まり動けるようになる。

 すると、白谷に霧島に会うように言われる。別室にいる霧島に会うと、ついて来て欲しいと言われた。案内され、とんでもないところへ連れて来られた。悪臭が酷く、思わず顔が歪む。

 夏の暑さで腐敗しかけた大量のモンスターの死体は、大量の蠅を呼び寄せる。

 ここはモンスターの死体置き場だった。

「なんで、こんなにモンスターの死体があるの?」

 牧原は聞いた。

「町中で退治したモンスターをここに回収しているからですよ」

「なんで、そんなことをしているの?」

「都知事に言われたかららしい。なんでも、モンスターを多く回収した高校の生徒から先に避難させてくれるらしいですよ。本当かどうか判りませんけどね」

「道路のモンスターの死体が少ないのは、このせいか」

 牧原は、道路に転がっているはずのモンスターの死体が時折無くなっていることを思い出す。

「モンスターだけじゃなくて、人間の死体も、ここではない場所に運んでいるよ。もちろん、人間の死体は、可能で有れば遺族に返し、ダメなら警察だね」

「遺族に返すこともあるんだ」

「殆ど警察経由だけどね」

「そうなんだ」

『中村のおばちゃんも警察から、遺族に返されたのかなぁ』と牧原は思った。

「そこで、お願いがあるんですよ」

 思いに耽っている所に、霧島が急に切り出す。

「なんですか? 僕にできることならやらせてもらうけど」

「モンスターの死体を食べるモンスターを作ってもらいたいんだ」

「江波に聞いたんですね。実はさっきも試しに作ったんですよ。でも、モンスターの死体しか食べなくなるだけで、僕の支配から外れたら、人を襲わない訳じゃないですよ」

「だから、死体を食べる能力と、人に危害を加えない二つの能力を付与して欲しい」

 牧原は、霧島の言った事に驚く。

「能力付与って二つ同時に与えることができるの?」

「大沢はできると言っていたよ」

 霧島と牧原は、モンスターの死体を避けながら歩く。真夏の暑さもあり、腐敗による不潔感と悪臭の酷さは、最悪だった。

「とりあえず、やってみましょう」


 牧原は、モンスターの死体を食べるモンスターをいろいろ試行錯誤しながら作る。

「コイツ。僕の支配が外れたら生きて行けるのかな?」

「心配するんだ」

「心配と言うより、コイツも死ねば、小さいけど、モンスターの死体が増える訳だし。少なくとも自分の体積以上の死体を食べてもらわないと」

「確かに一理ありますね」

「モンスターを作りながら、能力付与も同時にできるぞ」

 モンスターの魔法少女、大沢が現れて言った。

 牧原と霧島は、大沢に注目する。

「我が弟子、牧原が来ていると聞いてな、指導に来た」

 大沢は、なぜか偉そうに言った。

「モンスターの死体を食わせるだけのモンスター、目と口だけを与えるとはなかなか良いセンスだ」

 牧原は、笑いながら礼を言う。

「課題を与えよう。初めから能力を付与した状態のモンスターを作る練習をしたまえ」

 そう言うと、大きなペリカンのくちばしだけのようなモンスターを作る。

 くちばしモンスター、モンスターの死体をガブリと口いっぱいに頬張ると動かなくなる。

「手本だ」

 大沢は、そう言うと、立ち去ろうとする。

「来たんならお前も手伝えよ」と霧島が言ったが、大沢は無視して行ってしまう。

 くちばしモンスターの下あごのぶよぶよ部分がウネウネ動いている。

 牧原は、「うーん」と唸りながら、感心する。

「それじゃあ、人に危害を加えないモンスターの死体を食べるモンスターを作ってくれませんか?」

 霧島は改めて言った。

「課題も出されているし、練習の為にいっぱい作らせてもらいますよ」

「課題は無視しても良いですよ」

 そう言うと、霧島は苦笑する。

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