コアは機動生物にとっての心臓部。当然簡単には壊れないように外装とは異なる材質で作られていることが多い。外殻が宇宙衛星機などに使われるチタンに対し、コアは炭化タングステンと金属の中でも最も硬いとされている素材。
そこまで強硬ならばチタンの皮を被せ隠す必要などないに思えるが、タングステン自体衝撃に弱いという
ただ弱点を補ったとはいえ、克服した訳では無い。草木には火を、火には水をといったように適材適所で外皮、
今回はその外皮の部分が内側、つまり体内には存在せず、口を大きく開けたことで露出。
しかし満身創痍な身体は震えて、正確な狙いをつけることはできない。ならばと足を止めて刃を突き出し自分の体全体を弾丸のように見立て、体を強張らせる。
大地に全てを乗せたまま固まる運動エネルギーがゼロの彼女の身体は鉄筋のようなもの。その
大きな口が彼女を捉え噛み砕くべく閉じようとした刹那、軽く高い音が静かに、しかし離れた牧虎の耳にも届くほどハッキリと鳴った。すると稼働中にコンセントが抜かれた機械の如く、突然の動力消失により蛇型の機動生物は機能停止。力無く蛇はその場に倒れた。
「タンゴダウン……作戦終了です……はぁぁぁぁぁぁ……疲れました……でもとりあえず先に傷の手当ですね……めちゃくちゃ痛いですこれ……」
大きく息を吐いた事で、全身に激しい痛みが走る。切られた場所が筋肉の運動で痛覚を刺激しているのだ。
見るに堪えない傷から、一般人が耐えうるものでは無いと物語る。しかし苦虫を噛み潰したような顔を浮かべるだけで、悶える様子はない。
「お疲れ様。そして暴走した機動生物を破壊という形だけど停止してくれてありがとう。一度朴井さんの所へ戻って治療を受けてちょうだい。目が覚めてからここまでの道を戻れば大丈夫よ」
ボロボロな雫を前に、心配と不安、恐怖など色んな感情が渦巻く牧虎。それでも司令官の威厳は保つべく動揺を浮かべずに、しかし傷の手当のことを優先に考え、朴井がいる保健室へ向かうように指示を出す。
しかし雫は初めてこの学園に来た編入生。行き来するのが目の前ならばともかく、膨大な土地で保健室から司令官室、そして地下のこの場所と歩かされている。
故に当然保健室の場所など素で覚えているはずもなく、唖然とした雫はその旨を話す。
「え……さ、流石にそこまで道は覚えてないんですけど」
「なら生徒手帳に挟まってる地図を頼りに」
「まだ貰ってないんですけど……」
「……機動生物と契約させてから渡す予定だったの忘れてたわ……今手元には無いし、そうね、とりあえず司令官室で待っていてちょうだい。朴井さんを向かわせるわ。司令官室は……そこの階段を上がったらエレベーターで3階に行って、ホールから左に真っ直ぐ行けばあるわ」
動揺から来たのか、元よりポンコツ気味だからか、ことごとく裏目に出る牧虎の言葉。恥ずかしさが勝り穴があったら入りたいと思いながらも誤魔化すように目を泳がせる。そうして少しの間を置いた後、最終的には最初からそうしたら良かったのではと思いたくなる解決策を発した。
「最初からそうしたら良かったような気がしますけど……」
「みなまで言わないで。恥ずかしい。さっさと行ってちょうだい」
顔を両手で隠す牧虎。言葉こそクールで大人びた雰囲気を出すが、行動一つ一つがどこか抜けていたり可愛らしかったりと、司令官という上の立場の威厳はもはや感じとれない。
「は、はぁ……」
このままだと荘厳な司令官の印象がさらに崩れかねない。
雫は軽く会釈して牧虎の指示通りに司令官室へと向かっていった。
そしてその後ろ姿が見えなくなってから、改めて機能停止した2機の機動生物の切断面を見る。
チタン合金の分厚い外郭は通常の刃、弾丸は当然通さない。傷が多少付くくらいで牙を剥いた者が返り討ちに合うはずだった。
しかし雫が作り出した切断面は高水圧レーザーで切断したような滑らかな切断面。唯一機動生物を壊せるものである、機動生物が備える特殊な武器よりも遥かに高性能であることを物語る。
「武藤さん……貴女は一体……何者なの……」
ゆっくりと振り向いて晴天が曇天へと変わったような不安感とともに呟く。
巨大な機動生物との戦闘に慣れた戦い方、痛みを諸共しない様子。極めつけの機動生物を討伐してしまう謎の巨大な武器。彼女を怪しむ要素はその三つでこと足りていた。
しかし事細かく考えればいくつかの違和感は最初からあった。
編入生ならばせめても校門前で待つところ、校内で彷徨っていた事。迎えに行くことを忘れていた牧虎にも非はあるが、だとしても簡単には敷地に入れないように柵で覆われているはずの外側から来ていたのは彷徨っていたということで説明をつけていいものなのか。
そして書類と実際の相違。顔写真、名前、性別は間違いなさそうだが、それ以外の情報の信ぴょう性が皆無。普通は履歴書のように正しく記入されるものだが、機動生物の適性が誤っていたこと、武器を操ることで、事前に貰った資料はほぼ無意味となった。
また暴走した機動生物に対して臆することなく、真っ先に破壊を提案してきた。戦っている間もどことなく悲しそうな怒りを見せていたように見えている。
考えれば考えるほど、彼女に対する疑問は増えるばかり。ただでさえ最近は