「ハロ」
ブランシュが空中で放った魔法は、聖属性の中でも最も下位の魔法ハロ。ブランシュの体から放たれた優しい光が、魔物も黒子天使も分け隔てなく全てを包み込む。
「ブランシュさんって、凄いっすね~」
「そりゃそうだろ、正真正銘の熾天使が放つ魔法だぞ」
勇者チクリーンが連発していた上位魔法ライトニング・ハロは、黒子天使達によって行使されていた魔法。同じ天使であっても、黒子天使と熾天使では適正が大きく違う。
正真正銘の聖属性の適正を持つブランシュの放つ魔法は、暴走していた黒子天使達の冷静さを取り戻し、肉塊となっていた魔物達は浄化されてゆく。
「ワシらにも優しい光じゃて」
「少し優しすぎるな。その甘さが命取りにもなる」
「最近まで根暗の引きこもりだった奴にも配慮したのじゃろ」
力のある地竜ミショウや、亡者のローゼだからハロの光に耐えているのではなく、逃げている魔物達には全く影響が出ていない。
「皆、落ち着け! ここは地上にあっても、第13ダンジョンの一部。熾天使ブランシュが古代のダンジョンを復活させたのだ。全ては、熾天使ブランシュまさの加護ぞ」
「えっ、それって本当なん……」
その場の俺のハッタリに、素直過ぎる程に反応したマリク。そして、ローゼが気を利かせて意識を刈り取ってくれる。
「コヤツにも、もう少し教育が必要だな」
黙って頷くと、空中でハロの光を放つブランシュを見上げる。
「我が名は、ブランシュ。13番目の熾天使にして、この地を守護する者。この地に争乱を起こし、血で穢そうとする者は去れ!」
そして、ブランシュが厳かに宣言すると、黒子天使達が次々と、膝を突き服従の意を示し始める。
新しくダンジョンが作られる時は、熾天使筆頭ラーミウの名のもとに、全ての黒子天使が召集される。そこでは神の名のものとに、熾天使と黒子天使の関係性が明確に示される。
しかし、急造された再利用ダンジョンでは、儀礼的なものは一切行われなかった。ブランシュに与えられたのは、ダンジョンに司令官の任命権のみで、自らの力を示し黒子天使達を従える必要がある。
「レヴィン、貴方を第13ダンジョンの司令官を任じます。第6ダンジョンを崩壊から救った力を、存分に発揮なさい」
第6ダンジョン下層の黒子天使は、レヴィンに従っている。それは地位によるものよりも、これまでのダンジョン運営の実績にある。
しかし、全ての黒子天使が納得してはいない。第6ダンジョン上層や、第7ダンジョンの黒子天使は敵対意識が強い。野良黒子にいたっても、少しでも良い条件を引き出そうとしてくる。
最も大きな問題は、第6ダンジョン下層の黒子天使が3千人に対して、それ以上の数の黒子天使が集まってきている。膝を突き服従の意を示したのは、まだ半数程度でしかない。
「従えぬ者は、ここより去りなさい。今なら罪には問わない」
「ブランシュ、大丈夫だ。後は黒子天使のやり方で解決する。ミショウ、約束だったな。全力で相手してやる」
「おうっ、イイのか?」
疑問形で聞き返してきたくせに、ミショウは人型から地竜の姿へと形を変え始める。体が膨らみ、徐々に姿が変化するにつれて、黒子天使達の間からどよめきが起こる。
黒子天使の中でも、竜種を見たことのある者は少ない。ましてや竜種と気軽に会話するのは、何らかの契約関係にあることを示唆している。
「一発当てれたら、また相手をしてやる」
「おうっ、その言葉を忘れるなよ!」
地竜の長い尾を軽く振るうと、それだけで風が巻き起こる。そして狙いすました攻撃は、確実に俺の頭を狙ってくる。
「マジック・シールド」
俺が右手を翳せば、手の先に透明なシールドが現れる。守るのは最小限で、自身の身体のみ。
地鳴りのような大きな音が、ヒケンの森中に響き渡り、遅れて暴風が巻き起こる。服従の意を示さずに立っていた者達が、何人か暴風に拐われて姿を消すが、そこまでは責任は持てない。
「一撃を入れたぞ!」
俺のマジックシールドは砕け散り、ミショウの尾は俺の右手に触れて止まっている。
「次やる時は、ダンジョンの中でだ。外じゃ、被害が大きす過ぎる」
「ああ、約束を忘れるなよ」
そして、全ての黒子天使達が膝を突き服従の意を示している。