差し込んできた陽光に、思わず目を細める。
控室から長い廊下を通って、試合場に出た。
すでに、ユルゲン・コンラートは準備万端で待っている。
両手持ちの
高そうな武装だね。
ぼくとは比べ物にならないや。
こっちの武器は刃の欠けた剣だし、
ユルゲンは、ぼくの装備を見てげらげら笑っている。
不愉快なやつだな。
「アラナン・ドゥリスコル。こう見えて、おれは帝国最強の騎士に武技を教わっているんだ。かの
「ふーん。でも、ぼくに負けたじゃないか」
「ふざけるな! あんないんちきで、負けたと言えるか!」
おお、激昂していらっしゃる。
でもさ、馬を転ばせただけだって、勝ちは勝ちじゃんねえ。
防げなかった方が悪いと思いますよ!
試合の前に、
冒険者ギルドの構成員であるアラナン・ドゥリスコルへの試合の申し込みに対し、ギルドは当人に試合参加のクエストを発した。
試合において、相手に対する直接攻撃、妨害する呪文を禁止する。
試合の決着は、死亡か戦闘不能か本人の試合放棄によってのみ決まる。
決着が付いた場合、如何なる結果であろうと双方それを受け入れること。
受け入れぬ方の都市からは、冒険者ギルドの支部を撤退する。
おおう、アセナ・イリグ老人、なかなか思いきったことを仰る。
冒険者ギルドは、蔓延る魔物から街道を護り、通商を保障する大切な組織だ。
これに撤退されては、領地の経済が回らなくなる。
ユルゲンの親父さんが青い顔をしているのは、その重要性がわかっているからだ。
残念ながら息子の方はわかってないのか、きょとんとしているがな。
おい、何でこんなのにバードゼックを任せているんだ?
ぼくとユルゲンは十歩ほど離れて対峙し、開始の合図を待つ。
やつは、完全にぼくを殺す気だろう。
だが、
憎悪の視線なんかで、ぼくは殺せない。
唐突にユルゲンの体に魔力が満ちる。
ぼくの目でも丸見えということは、
ぼくもクリングヴァル先生から見ると、あんな感じで視えるんだろうな。
ちょっと恥ずかしいや。
「
同時にユルゲンが大剣を振りかざし、猛撃を加えんと接近してくる。
ああ、
ユルゲンの振り下ろしを横にかわす。
思った通り、
斬撃を受けた大地が抉れ、土が飛び散っている。
生身で直撃を食らえば、骨がぐしゃぐしゃに砕けるのは間違いない。
振り下ろしの隙を狙って飛び込もうとしたが、魔力の流れを見て逆に飛びすさる。
その飛び退いた後を、唸りを上げて刃が斬り上げられた。
うん、思ったより
そういや、初めにぼくの
恐らく、ぼくもまだ先生から見るとユルゲンと似たようなレベルなんだ。
「逃げ足だけは早いな、ええ!」
得意気にユルゲンが連続攻撃を放つ。
だが、鎧の重さのせいか、足が付いてきていない。
腕力で振り回しているだけだ。
あれを着て普通に動けているだけで、ユルゲンの
だが、金属の鎧で守られている以上、半端な攻撃では通用しない。
えーと、
何か制限がよくわからないな。
「ほらほら、どうした! 手も足も出ねえか、ええ!」
勢いに乗ってユルゲンが前進してくる。
斬り下げと斬り上げの連続技に遅滞がなく、隙も見えない。
初等科で言えば、ハンスよりも強いかもしれないぞ。
「まあ、こんなところか」
様子見はもういいかな。
こいつの力は大体わかった。
剣の
「口だけは威勢がいいな!」
叫びながら振り下ろしてきたユルゲンの大剣を、
クリングヴァル先生の見真似だが、これはぼくも得意技だ。
その瞬間、圧縮していた魔力を一気に解放した。
今までも、
だが、
ぼくの
ずっと体内で
この程度でも、鎧の上から痛打を与えられるはずだ。
だが、ぼくの斬撃がユルゲンの胴を薙いだとき、鈍い音を立てて剣の刃が折れ飛んだ。
え、どういうことだ?
魔力で強化した刃が、ただの鉄の鎧とぶつかって折られるはずがない。
とりあえず、そのまま前方に走り抜ける。
すれ違い様に見えたやつの口の端は、確かに吊り上がっていた。
それを見たとき、ぼくは評議会で剣を警備兵に預けていたことを思い出す。
そうか。ここまでやるか。
いや、事前に剣を点検する時間はあった。
それを怠った自分が悪い。
真剣勝負で甘えたことを言えないのは百も承知だ。
それでも、ベールの連中に
一応、立場上は味方じゃないのか、くそっ。
「そんな刃の欠けたなまくらで勝負するから悪いんだぜ、
ユルゲンの挑発にかっと頭に血が上りかけるが、
そうだ。先生たちが、この刃の状態に気付かぬはずがない。
これも含んだ上で、圧倒してみせろということなんだ。
「ふん……やってやろうじゃないか」
ぼくは折れた剣を投げ捨てると、素手で左半身の構えを取った。
これでも、