もう夜の10時近くで、そろそろ深夜に入るかという頃合いだが、恵那からヘルプが来たので恵那の家に向かっている。
恵那はそそっかしいところがあるが、不思議と問題に遭遇しない性質だったので非常に珍しく感じる。
届いたSNSの文面からは具体的な内容は書いておらず、一応のところ内容を確認しようとSNSを送ったが、案の定対応に追われているのか既読もつかない。
並々ならぬ予感がするが、もはや現地に行くまでは何が起こっているのかはわからない。
ーーー
「大丈夫? 恵那」
色々な大小さまざまなカメラや、マイク、ヘッドギアが転がる部屋に入ると、布団にくるまって頭のツインテールが見える状態で恵那が転がっているのが見えた。
大丈夫ではなさそうだ。
これは彼女が炎上した時によくしている防御体制だ。
情報が入ってきて傷つくのを避けるために、物理的に世界から自分を遮断している。
おおよそ彼女の趣味である配信活動で何かしらの問題が起きたのだろう。
Vtuberとして活動を行い、物理的に何かしらの迷惑をかけることがないので大丈夫だと思っていたが、そうでもないらしい。
「また何か際どい発言をしたことによる炎上?」
「違う。バビ肉してた光輝が自分が男だってバラしたのよ」
女性アバターを使ってた光輝君、そのことをバラしたのか。
でもそれでなんで恵那に類が及ぶんだ。
「光輝君がカミングアウトしたことと恵那が炎上したことってそんなに関係あるの?」
「あるわよ……」
消え入りそうな声で恵那は答えるとついに、布団から体を出した。
猫背になって脱力した姿だが、細かいところを説明してくれるようだ。
今現在炎上している彼女にとっては苦しいことかもしれないが、もしかしたら早めに対応すればなんとかなるかもしれないのでこちらとしては助かる。
「今まで最上ヒカリ、光輝とは頻繁にオフコラボ配信とかして、しかもあたしから好き好きアピールしてきてのよ。それが男でしたてなったらどんなことになると思う」
オフコラボっていうのは確か、コラボ相手と休日にお泊まりとかどこかに行って何がしかの企画をしながらするものだったはずだ。
言ってしまえば、デートと言っても過言ではないくらいのものだと言ってもいいだろう。
オフコラボをしていた相手が同性ならば仲のいい友達みたいな感じだが、それが異性となると意味合いが男女関係とか生々しいものを連想させるものに変わってくる。
しかも常日頃から恵那が光輝君への好意を示してきたことを考えれば、恵那が下心を見せて、光輝君に接近していたと見えることだろう。
Vtuberはアイドル的な側面があり、異性と付き合ってることは見ている視聴者ーーリスナーによく思われないことが往々にしてあり、その最先鋒となるガチ恋勢から炎上させられることが往々にしてある。
今回はまさにそれということだろう。
「なるほど、ガチ恋勢からの嫉妬による炎上ってことね。カミングアウトなんて言う必要のないことを婚約破棄した今言うのは悪意があるね」
「その通りよ。光輝のやつ、自分からてえてえアピールしてよなんて言っといて最低よ」
「現状どれくらい炎上してるのかな。ちょっと確認してもいいかな」
「しばらくあっち向いてるから見てもいいわよ。罷り間違っても見せないでね。振りじゃないわよ」
「わかってるよ、俺は恵那のリスナーじゃないんだから……。じゃあ確認し終わったら言うから」
毎度やるなと言われたら、リスナーに逆にやられているので恵那が警戒を滲ませた声で注意してきたので、断りを入れてからスマホを操作して、恵那のアバター名である月木ニャンのSNSの呟きを確認する。
ーーー
まさ@tukinyandaisuki
俺たちを裏切ってニャンニャンしてたのかよ!
月木ニャン(偽)@usonyan
ニャン、発情期やったんかわれぇwwww
月木ニャン@tukiginyan
もうやめてよ! ココロ壊れちゃう!
ポン村@pompon-on
お前炎上中に振りをすな!
この世の王JIN@smmmmm
毎回オフ配信のたびにヒカリたそに……。トイレ行ってきます
ーーー
「酷いなこれは」
見る限り怒りの呟きか、煽るような呟きばかりだ。
しかも恵那がなんとかしようとしても、まともに取り合ってもらえず燃料投下みたいな感じになっている。
これは何かしても逆に燃え上がるのが目に見えている。
「これは一先ず鎮火するまで配信を控えるべきなんじゃないかな。もう見終わったから振り返っていいよ」
「鎮火ていつよ。光輝が配信するたびにイジられるにきまってるんだから、鎮火するとしても半年後とかそこらへんなのよ。光輝に裏切られてただでさえショックなのに、趣味まで奪われたら鬱になるわよ」
光輝に裏切られてか、そう言われると痛い。
元はと言えば摩耶が暴走してるのは俺も一枚噛んでて、恵那は被害者なのだから
炎上は技能があればなんとかなるものではないので、厳しい面があるが、とりあえず解決できそうな案を提案してみるか。
「じゃあ、本当に女の子のVtuberとオフコラボし続けて、同性が恋愛対象であることを鼻につかない程度にアピールしていくとかは」
「女の子Vtuberって言ったてそんな都合のいい子いないわよ。ただでさえ友達が少ないのにそんなの無理よ」
「じゃあ光輝君とのコラボが受けを狙った冷めたものだとかそういう面で切り込むのはどうかな」
「そ、それならギリギリいけるかも」
恵那はそういうとスマホを操作して、ピースサインをしてウィンクをしているゴスロリ姿をした緑髪の女の子を俺に見せてきた。
あざといな、この子。
「この女の子は?」
「光輝よ」
「これが光輝君……」
「そう。光輝、変に意識が高いから人目を警戒してて、女装してオフコラボしていたのよ。このルックスが目的でコラボしていたといえばいけるんじゃ。 は! この見た目だし、女の子と思ってたって言う言い訳ができるじゃない!」
「それって晒すってこと。肖像権とか大丈夫なの?」
「うちの叔父さんは無罪弁護士だから大丈夫よ。秋也、ありがとう。善は急げよね! 晒すわ!」
この日、光輝君の女装写真が全世界に拡散された。