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森の小さな郵便屋さん
森の小さな郵便屋さん
菊池まりな
文芸・その他童話
2025年05月04日
公開日
1,476字
完結済
森の奥深く、苔むした大きな樫の木のくぼみに「キノシタ郵便局」という小さな郵便局がありました。そこで働いていたのは、リスのキノシタさん。彼は森に住むすべての動物たちの手紙を届ける、とても忙しい郵便屋さんでした。

第1話

 森の奥深く、苔むした大きなかしの木のくぼみに「キノシタ郵便局」という小さな郵便局がありました。そこで働いていたのは、リスのキノシタさん。彼は森に住むすべての動物たちの手紙を届ける、とても忙しい郵便屋さんでした。


毎朝日の出とともに、キノシタさんは赤い郵便帽をかぶり、小さな茶色のかばんを肩にかけて出発します。かばんには森中の動物たちからの手紙や小包がぎっしりと詰まっています。


「おはようございます、キノシタさん!」

と鳥たちが空から挨拶すると、キノシタさんは帽子を取って丁寧にお辞儀をします。


「今日もよろしくお願いしますね!」


キノシタさんの一日は長く忙しいものでした。まずは地上の配達から始まります。ウサギのホシノ家には人参の種の小包を、モグラのツチヤさんには地下深くまで潜って新しい眼鏡を届けます。


午後になると、木の上に住む動物たちへの配達です。リスである彼にとって、これは得意な仕事でした。素早く木から木へと飛び移りながら、フクロウのヨルさんには夜間用の特製ランタンを、カササギのヒカル夫妻には新居祝いのカードを届けます。


 しかし、森には川や池もあり、水辺に住む動物たちへの配達は少し難しいものでした。キノシタさんは自分で作った小さな葉っぱのボートに乗り、カエルのガワさんやカモのミナモ家族に手紙を届けます。時には波に揺られて郵便物が濡れそうになることもありましたが、彼は決して失敗しませんでした。


このように、キノシタさんは森のどんな場所にも手紙を届けられるよう、工夫を凝らしていました。でも、彼にとって最も届けるのが難しかったのは、クマのクボタさんへの配達でした。


クボタさんは森で一番の大きな洞窟どうくつに住んでいて、とても怖がりな性格でした。誰かが近づくと、すぐに奥に隠れてしまいます。そのため、キノシタさんがどんなに呼びかけても、クボタさんは姿を見せようとしませんでした。


ある日、クボタさんへ特別な小包が届きました。差出人は「森の仲間たち」とだけ書かれています。


「今日こそクボタさんに会えますように」と祈りながら、キノシタさんはクボタさんの洞窟へ向かいました。いつものように声をかけても返事はありません。


キノシタさんは悩みました。そして、ひらめいたように洞窟の入り口に小さな手紙を置きました。


「クボタさん、みんなからの大切な贈り物です。しばらくここに置いておきますね。」


そっと距離を置いて待っていると、少しずつ洞窟から大きな鼻が出てきました。クボタさんは恐る恐る小包を手に取ると、中を開けました。


中には、森の動物たちみんなから集められた、美しい石や貝殻、きれいな羽、木の実などで作られた「友達の証」が入っていました。そして一枚のカードには「いつもありがとう、クボタさん」と書かれていました。クボタさんが森の動物たちのために、こっそり川をせき止めて洪水から守ってくれていたことを、みんなが知っていたのです。


クボタさんの目から大粒の涙がこぼれました。そして初めて、キノシタさんに向かって微笑みました。


「ありがとう、キノシタさん。いつも遠くから見ていたよ。君が毎日どんなに一生懸命働いているか知っているんだ。」


その日から、クボタさんはキノシタさんが来ると洞窟から出て挨拶するようになりました。キノシタさんは森で一番の大きな友達を得て、さらに元気に郵便配達を続けました。


 森の動物たちは言います。

「手紙は言葉を運ぶだけじゃない。キノシタさんは心も一緒に届けてくれるんだよ。」


今日も森のどこかで、リスのキノシタさんは赤い帽子をかぶって、誰かの大切な気持ちを届けています。


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