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ルナティックティアーズ _アスタリスク
ルナティックティアーズ _アスタリスク
綾瀬真優
ミステリーサスペンス
2025年05月04日
公開日
16.3万字
完結済
銃社会と化した2025年の日本。故郷フランスから帰国した高校生の流雫(ルナ)は、迎えに来た恋人の澪(ミオ)と空港で再会するが、同時にとある少女が何者かに襲撃されるのを目撃し、犯人を仕留める。 その夜、流雫の通話相手であるフランス人のアルスは、その少女が太陽騎士団の聖女アリスだと伝える。しかしそれは、一人しかいないハズの聖女が二人いることを意味していた。 来日したアルスと、澪を慕う詩応(シノ)も絡み、聖女の謎を追う流雫。そして辿り着いたのは、アリスが18年前に死産していた事実だった。

第0話 恋人たちの願い

 人間は誰もが、何かの傀儡。だとするなら、僕は悪魔の傀儡か。

 人は生きている限り、迷い続けるもの。だから澪標となる存在を求める。僕にとってのそれは、最愛の少女だった。

 彼女は正義の傀儡、その手を掴んだのは悪魔の傀儡。禁断の邂逅、その果てに何が有るのか。

 ただ一つ言えること。2人でなら、その果てに何を見ても、決して怖れない。そう、想像を絶する地獄でさえも。


 取り戻した意識と開いた目が捉えたのは、小さな窓の奥に広がるユーラシア大陸と空の境界線だった。

 シャルル・ド・ゴール国際空港を発って10時間が経った。あと2時間半で、トリコロールを尾翼に躍らせる飛行機は東京に着く。その日本は、既に朝を迎えている。

 国籍は日本、しかしルーツはフランス。高校生の僕が、今1人で飛行機に乗っているのも、大雑把に言えばそれが理由だ。

 祖国での楽しい3週間を過ごした僕を日本で出迎えるのは、1人の少女。自分が死ぬことより、彼女を失うことが怖い……そう思えるだけの存在だった。

 あの日を思い出させるような碧のスクリーンに目を向けていると、クロックムッシュの機内食が運ばれてきた。それは、着陸まで2時間を意味していた。


 モノレールから眺める東京の景色は、普段空港に行くことが無いあたしにとっては新鮮に映る。少し物足りなさを感じるが、それも1時間後には消える。

 この3週間、メッセンジャーアプリで話していたが、1万キロの距離以上にもどかしさを感じていた。尤も、それはあたしより最愛の少年の方が、或る意味強く感じているが。

 ……空港で彼と再会する、しかしその後は何も決めていない。ただ、2人なら何処だって楽しい。

 そう思っていると、車窓の奥に滑走路や飛行機が見える。あと数分で、駅に着く。


 望んだのは、呆れるぐらいに平穏な日々。何度も望んでは裏切られてきた、しかし何時かは叶う……そう思いたかった。

 全ては、僕とあたしが生きてきた証と生きる希望を、失わないために。

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