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第13話 破滅への業火

 神々しさすら感じる雄大な姿、にじみ出る圧倒的強者の風格。

 ひたすらに生き抜く為の力を求めて世界中を旅していた昔、偶然出会ったいにしえの龍。


 強さという概念を具現化したかのようなその姿に、数百年前のシンは強烈に惹かれた。

 そしてその強さを追い求め、何度も、何度も戦いを挑んでは敗れ、数十年の時を経てようやくその頂に到達した。

 だがそれは古龍討伐という結果ではなく、古龍がシンの力を認め同格として認めたという平和な結末だった。

 シンは百年以上会っていない懐かしの友人を、突如目の前に現れたドラゴンを見て思い出して懐かしんでいた。


 ――あいつに比べたらまだまだ子供だな。


 シンが最凶のドラゴンへ持った感想は、友人の子供に向けるものと同じようなものだった。




 若き龍が封印から解かれて最初に目にしたものは、かつてたわむれに滅ぼしていた人間の国。そして、食料の一種と認識していたそこに暮らす人間たち。

 長年抑え込まれていた様々な欲求。

 それらを見て喜びの感情が爆発し、若き龍は歓喜の雄叫びを上げた。


 ――まずは城ごと見えている人間を灰も残さず焼き殺す。


 ――それから、恐怖に逃げ惑う町の人間を喰らい尽くす。


 ――誰一人として逃がしはしない。


 ――生まれながらにして絶対的な強者である自分は、昔と同じように欲望の赴くままに好きに行動すればいい。


 ――そして力を蓄えた後、自分を封印した忌々しい老人たちを食い殺してやるのだ。


 一気に上空へと舞い上がり地上を見下ろす巨大なその身体は、久しぶりに感じる自由への喜びと興奮に震えていた。




「王よ、お逃げください!!」


 ドラゴンから感じる魔力が増していくのを感じたランバートが叫ぶ。


「無駄だ……あれからは逃げられぬ……」


 魔力に乏しい王であっても感じることの出来る絶望的な力の差。

 禍々しさの種類は異なれど、伝わってくる恐怖は、先ほど魔王を見た時と遜色のないものだった。


 古龍の膨れ上がった魔力が一転し、今度は逆に一点に凝縮された次の瞬間、それは巨大な炎の塊へと姿を変えた。


 ドラゴンの姿が隠れるほどの巨大な火球。

 辺りを照らす眩さと、離れていても感じる灼熱。

 まるでもう一つの太陽がそこに現れたかのような錯覚すら覚える。


 魔導士たちが王の下へと駆け寄り、全力で障壁を作り出す。

 騎士たちは王とランバートを囲むように集まり、弓兵は火球へと抵抗を試みるべく再び矢をつがえる。


 自分たちが護るべきはずの王に、逆に命を賭して救われかけたその命。

 王の親衛隊たるその覚悟、今度こそ違えることはない。

 絶望の淵にいた彼らだったが、今は誰一人として王を見棄てて逃げるなど考えてもいなかった。


 しかし――それは最初から一欠けらの希望も無い抵抗だった。


 天空より高速で迫りくる火球。

 近づくにつれ大きく見えてくる炎の塊が、やがて視界のほとんどをあけに染める。


 愚かな人間に対して神の下した天罰のようなその圧倒的な力の前に、人の身である彼らの抵抗はあまりにも無力だった。




 千年ぶりに全力で放った炎のブレス。

 久々のために、加減を間違えた全力のブレス。

 解放された魔力を過剰なほど存分に詰め込まれたその威力は城を焼き尽くすに止まらず、王都全体を灰塵かいじんと化すに余りある一撃だった。


 興奮しているドラゴンはその事に気付いておらず、どのように美しく城が燃え上がるのかとわくわくしていた。


 そして、けたたましい爆発音と共に――


「ゴアワァァァーー!!」


 ――自らの火球の炎に包まれたドラゴンの身体を更なる天空へと吹き飛ばした。



 敵は遥か上空、目前に迫ってくるのは不可避の攻撃。

 抗うことも逃げ出すことも出来ない。

 その場の誰もが死を覚悟した瞬間、ランバートが目にしたのは――


 ――眩い光の中に浮かぶ人影。


 そして、巨大な火球を足で蹴り返した魔王の姿だった。




 感傷にふけっていたシンは突然のドラゴンの行動に驚いた。


 ――あれはマズイ!!


 自分はまだしも、ここら一帯が焼け野原になる。

 シンは咄嗟に判断し、火球の正面へと飛ぶ。

 文字通り――飛んだ。


「しゅーと」


 そして――火球を蹴った。



 蹴られたボールはキーパーに直撃して破裂。

 判定はノーゴールだったが、一名の負傷者を出した。




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