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幕間2 全ての始まりの始まり

 人の近づくことすらない未開の領域。

 魔物の蔓延る深い森を抜けた先にある地平に連なる遥かな剣が峰。

 ここは神々が住まうと噂されるその頂。

 そこに集うは三頭の巨大な古龍。


「これ以上は見過ごせぬな」


 その声は地の底から響き出たかのように、どこまでも低く、重々しかった。

 しかし、その抑揚のない口調には一切の感情が感じられず、どこか空々しく感じる。


「彼の者には我らの後継として期待していたのだがな」

 雄大な漆黒の体を横たえたまま、その黒き古龍は呟く。


「だが、我らは神々によって生み出された存在。決して同族を殺すことは許されぬ」

「だが、我らは神々によって生み出された存在。決して世界に干渉することは許されぬ」


 白銀の古龍と琥珀色の古龍がやはり抑揚のない声で返す。


 彼らはこの世界の生態系の頂点にある四体の古龍が三柱。

 世界の創造時より全てを見続けている観測者。


「ならば、どこかに封じ、改心の時を待つのが良策か。幸いにも我らの残された時にはまだ猶予がある。何か意見はあるか」

「封じるならばエトラの地が良い」

「封じるならばアイブランの地が良い」


 お互いを見るでもなく、それぞれが独り言を呟くような会話。


「どちらも龍脈集まる魔力豊かな地。彼の者の力を封ずるのに問題なかろう。間違いは許されぬゆえ、その両方に罠を仕掛けるとする。では――我は彼の者を封じる異空を作ろう」

「我はエトラの地に門を」

「我はアイブランの地に門を」

「「「全ては世界の為に」」」



 かくして、世界を恐怖に陥れた暴虐の紅き龍はエトラの地の門より異空間へと幽閉されることになったのだが、その封印は当初考えられていた数十分の一という短い時間で破られることになる。


 様々な偶然が重なり、その残虐性を備えたままに再び世に放たれた恐怖は、その力を暴走さえることもなく、その場にいた偶然の産物である魔王の手により滅せられることになる。


 そのことに残された古龍たちはどのような思いを抱いていたのか。


 そして、未来を託されるはずの古龍が消えたことで、遠い未来のこの世界にどのような影響を与えることになるのかは、まさに神のみぞ知ることであった。




 その地に集まった魔力を用いて封印を続けていたエトラとアイブランに施されていた異空間への門。

 エトラの門が突然破られた以上、アイブランの門に影響が及ばないはずがなかった。


 アイブラン平原の砦に陣取っているファーディナント軍。

 それを攻め落とし、更には国を落とさんと対峙するロバリーハート軍。

 少なくない犠牲を出しつつも、どちらも決して引くことの出来ない中で泥沼化した戦いは、エトラの封印が解かれたことで、予想外の展開を迎えることになる。




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