この世界じゃあいつと結ばれない運命なら、新世界を作って運命を上書きするしかないわよね。
容姿も、環境も、運さえも恵まれていたあたしは産まれた時から欲しいものはなんでも手に入ってきた。
あたしは世界に選ばれた少女なんだ、世界はあたしを誰より愛してくれているんだと心の底から信じていたわ。
だけど、どんなに欲しても、努力しても、あたしの一番欲しいものはくれなかった……手に入れることが出来なかった。そしてある時思ったのよ。
「こんな世界いらない。あたしを贔屓してくれない神様なんていらない。あたしの神様は一人だけでいい。
あたし達の新世界を作りましょう…あたしの愛する新悟とともに」
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僕の長い知り合いに東雲由良江と言う女がいます。彼女は産まれた時から人並み外れた美貌を持っており、今までこの世界に存在してきたこの世の美は全て彼女が誕生する前触れだったのではないかと言われているほどでした。
そんな彼女は今現在。
「新悟ぉぉ。ああ、この感触よ…この感触を待っていたんだわあたしは!!
至福!!天国!!!新悟!!」
全身に鉄製の拘束具をつけた僕の身体のいたるところに柔らかい女体を押し付けたりしています、頬ずりしてきます……って言うか、あつっ!!摩擦熱があつっ!!
熱さを自己の胸に封印しながら僕は口を動かします。
「ちょっと由良江、僕はいつの間にこんなところに連行されたんですか?」
「ああ、この声も久しぶりだわ。天使の鐘なんかよりずっと心地がいい」
「人の話を聞きなさいこのアマ。僕はさっきまで滝行をしていたはずなのにどうしてこんな目に」
「キスしてくれたら教えてあ♡げ♡る♡」
「ふざけたことを言わないでください」
「あたしはいたって本気よ。マイダーリン」
僕は過去由良江の傲慢さと美の極致にいる外見ゆえに起きてしまった事件で偶然由良江の命を救った経験があります。それがきっかけとなったのか由良江は僕のことを異性として意識をしだし、いつの間に好きになっていたらしいのです……
まぁそれが普通の好きならまだいいんですが。
周りを見渡すと広がっているのは僕の写真、アクリルスタンド、ストラップ、ぬいぐるみ、抱き枕…等々僕のグッズが溢れているではないですか。由良江は世に言うヤンデレ女なのです。
「由良江、僕の質問に答えてください。それに貴方昨日だって僕の風呂場に突撃したりして随分過激なアプローチを続けていたじゃないですか。なのに何が久しぶりだって言うんですか?」
由良江は形の良い胸を僕に押し付けながら少し動かせば口と口が当たってしまいそうなほど近くまで顔を近づけます。
「あたしね、つい最近まで時間軸がこの世界とは違う異世界に行っていたのよ」
「は?」
急に何を…ヤンデレ妄想のし過ぎでついに頭がおかしくなってしまったんですか?おいたわしや…
「ま、そうよね。愛しいあたしの言葉とは言え、そんなこと急に言われても信じられるわけないわよね。百聞は一見に如かずよ」
由良江は不敵に微笑み、指パッチンをしました。すると僕の身体がぐるりと回り、拘束していた道具がパチンパチンと外れていき、服が脱げていきます。いえ、脱げているではなく、剝かれている、そう言ったほうが正しい猟奇的な感触がします。
「なっ!!?」
「ふふっ、これで信じてもらえたかしら…あたしがスキルを手に入れたってことをね」
たった今脱がした僕の体温が多分に残っている服を抱きしめながらどや顔をかましてきます。
「何故?」
「何故?言ったでしょう、あたしは異世界に行ってきたのよ。そこで聖女の力を手に入れその世界を救ってきた。で、力を手にしたままこの世界に戻ってきたのよ。
あんたがいるこの世界にね」
ゴクリと喉がなり、身が震えてきました。この女の異常とも言える執着と狂気についに神経がやられてしまったのか、それともパンツまで奪われたせいで寒いせいなのか……きっと後者でしょう。そうに決まっています。
「何が目的なんですか?」
「そんなの決まってるじゃない。あたしは異世界にいる時もずっとあんたのことを想っていた…魔王倒さなかったら帰れないって言うから仕方なく倒したに過ぎないし、見ず知らずの異世界の命運なんてどうでもよかったの」
由良江の声が鼓膜を、全身を揺らします。このヤンデレ女に鍛えられた危機察知を司るセンサーが警鐘を鳴らしているのを感じます。
「でも新悟、あんたはあたしが全てじゃない……悔しいことにね。
だからあたしは決めたの、新悟の全てがあたしになるようなことをしようって」
「つまり、どういうことなんですか?」
その言葉を待っていましたと言わんばかりに微笑みます。
「新悟、あんたはあたしとあんたのイチャラブ新世界の神になりなさい!あたしは女神になるから!!」
「はぁ??」
神になる?理解が追いつかない……しかし、そんな僕を嘲笑うかのように由良江はパチンと指を鳴らしました。すると、目の前にあった空間が裂け、窓の向こうに広がったのは、漫画のページから飛び出したような荒野。ドラゴンが咆哮し、黄金の塔がそびえ、一反木綿が空を舞うようななんともカオスな外観です…ですが
「すっごい」
この光景は僕の心を重戦車で引っ張っているかのように強く重く、そして何より心地よくひいたのです。なにせ僕が愛読している漫画の世界を闇鍋したような世界なのですから。
そして同時に僕は悟りました。
このヤンデレ女、僕の了承の一つも得ずに勝手に異世界に誘拐してきたのだ……と。
そんな僕に向けて由良江は純粋な子供のようににぱっと笑いました。
「どう?あたし達が神様になる新世界よ。新悟の好きなものを詰め込んでみたんだけど、お気に召してくれたかしら?
どうやってって言われるだろうから、先に見せとくわ。こうやってよ」
由良江の右手に緑色の光が灯ったかと思ったら突然ダイヤモンドの指輪が現れました。
「あたしが異世界で手に入れたスキルで創造したのよ」
「はぁぁ????」
さらに由良江はこれでもかって程のしたり顔で続きを語ります。
「スキル名は『創造』(新悟との愛の結晶)よ」
「名前可笑しいでしょうがぁぁ!!!!」
この時僕は知りませんでした、この狂愛が僕の身体を喰いつくすことになるなんて……
この新世界への誘拐は、僕が僕でなくなる第一歩だったのです。