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鉄ウォーロック
鉄ウォーロック
峰川康人
現代ファンタジー都市ファンタジー
2025年05月05日
公開日
4.8万字
連載中
――汝は鉄(くろがね)の意志を持って全てを討ち滅ぼすものなり 精霊は黒く燃ゆる意志に告げる。憎き全てを殺し尽くせと。 舞台は現代の日本にある秘匿されたとある島。 物語はその島に主人公である陸島 鉄明(りくじま てつあき)がやってくる所から始まる。 その島は魔女の島と呼ばれており、政府によって秘匿された場所で超常的な力を振るう魔女達とその眷属達が住んでいた。 陸島は魔女の世界においても数少ない男性の魔法使いである資質を持っていた。 彼はその資質があると知ったとき、大いに笑った。 ――これで仇を取れという事なんだな そして島にはさらに新たなるウォーロック達が来訪しようとしていた。 陸島の目的は?魔女とは何か?なぜ彼は魔女の資質を持っていたのか? くろがねの意志を持つウォーロックの物語、ここに開幕。 ※この作品はフィクションです。作中で描写される人物、出来事、土地と、その名前は架空のものであり、土地、名前、人物、または過去の人物、商品、法人とのいかなる類似あるいは一致も、全くの偶然であり意図しないものです。 ※気軽にブックマークしていただけると嬉しいです。文章がおかしな部分、誤字脱字、気になる点などありましたら感想などに書いていただけると幸いです。

オープニングアクト

「そっち行ったぞ!鼠川!!」


「わかった!」


 何処かの森の中。二人の黒の学ランを着た男子が何かを追いかけていた。鼠川と呼ばれた背丈の低い男子は黒い空飛ぶ機体に視線を向けた。機体の周りには四つの輪にいずれにも回る羽が付き、その中心には四角い機械を挟んで小さなノズルが組み込まれていた。いわゆるドローンである。


「そこっ!!」


 鼠川は手に持った木製の杖を飛んでいるドローンに向けて振るう。すると彼の周囲に渦巻く水が二つ三つ現れ出でる。それは海上の渦のように縦ではなく真横に飛んで逃げるドローンに向けられ、銃弾のように勢いをつけてまっすぐ放たれた。


「いっけぇぇぇー!!」


 渦巻く水の群れはドローンにやがて追いつきその羽を削らんとしていた。しかしドローンはそこで真上に飛び上がる。


「あっ!?」


 バッタのように勢いよく飛び上がり、鼠川の攻撃は回避された。


「ちっ、ここでか!だが!」


 一方で彼の近くにいたもう一人の男子。髪型が尖ってヒトデのように見える彼の名前は鴉田純一(からすだじゅんいち)。彼は両手のひらに力を込めて輪を作る。


「真上に飛ぶんだったらぁっ!!」


 するとバチバチと紫の火花が彼の両手の輪の中で引きおこり、一つのエネルギー体となったそれを彼は飛んでいるドローンに向けて発射する。エネルギー体は水の群れよりも速い速度でドローンの上を取ると、真下に向かって紫色の電撃を叩き込んだ。ドローンはなすすべもなく焦げた機体を晒しながら地面に落ちた。


「よっしゃあ!!」


「これであと二つ……あ!」


 鼠川は視界にひょいと飛び込んでくるドローンを捉える。そしてそれの最後も。


「うぁっ!?」


 鼠川は突然の衝撃に襲われる。目を閉じ、両腕で遮りつつ水の魔法でバリアを張る。爆風がドローンを襲った時の余波だ。


「な、なんだ!?」


「ああ、すまない鼠川君。ちょっと強すぎたようだ」


 爆風の中から出てきたのは黒縁の眼鏡を掛けたマッシュヘアーの男子。両手に持ったトンファーを腰のホルダーにしまいながら彼は鼠川に近づいてくる。彼の名前は蛇島。「あ」と言って彼は爆風によって巻き上がった砂埃が学ランに所々付いているのに気づくと、一旦そこで止まってやれやれと言いながらはたいていた。そんな彼に鼠川はきらきらとした視線を送る。


「いや……でもすごいよ今の!!燦央院(さんおういん)さんと一緒に修業した結果でしょ!?」


「あ……ああ……そうだ、な」


 真っすぐな反応にぎこちない声で蛇島は返す。


「どうしたの?どこか痛む?手当てする?」


「いやいや大丈夫だ何でもないそれより最後のドローンを早く――」


「早口ってことはあれか。ラッキースケベでもかましたか?」


「違う!!そうじゃないっ!!」


 駆け付けた鴉田の冷ややかな視線と突っ込みに蛇島の声は荒くなる。同時に頬も赤い。


「いやいや、これは何かあったよ。そうだろ鼠川?」


「ああ、うん。でも人のアレコレというか……そういうデリケートなのはちょっと」


「ああもう!それより最後の一つ――」


 蛇島の声を遮るように何かが爆発する音が響いた。


「……これ、爆発音だね」


 鼠川は二人を見た。


「ああ。でも俺らがここにいるってことはさ……」


「彼だな」


 三人は爆発のあった方角に視線を向けた。すると足音と共に森の中から一人が三人の前に出る。


「相変わらずというかすごいよね」


 鼠川は近づいてきた彼にどこか引きつりながらも彼の強さに感心していた。


「ああ。なんやかんやドローン破壊三つ目だろ?陸島(りくじま)」


 続いて蛇島が彼のドローン撃破数について確認する。


「そうだな」


 陸島は見向きもせず短く返答し、三人のを歩いて過ぎていく。

 陸島と呼ばれた男もやはり学ランを着た男で黒い髪をオールバックの形に整えており、その右手には抜き身の刀が握られていた。


「かーっ。またあの技で切り落としたんか?ほんと魔法使うの上手いよなあいつ。俺の電撃と風以上だよホント」


「うむ。上手いというか応用してるというか……」


 去っていく陸島の背中を三人はじっと見ていた。


「でも二人ともすごいと思うよ?僕は水を操ってどうこうするので限界でさ。鴉田君は電撃とか風使えてて。蛇島君もいつの間にかあんな派手な攻撃技覚えてるし」


「ああ、あれはしっかりと炎の魔法を学んだからね。君の水の魔法もいつかは世話になるよ。でも治療はできれば受けずにいたいけどね」


「そりゃあ言えてるな」


 鴉田はうんうんと蛇島の意見に首を縦に振る。


「俺の電撃も確かに強いがあいつには実力でまだ届きそうになあ……」


「うーん……どうしたら陸島君に届くかな?」


 三人はそれぞれの持つ魔法について話を始める。


「つかあいつノリ悪くね?」


 切り出したのは鴉田。苦味のある顔で二人を見る。


「ああ……うん。そうだね。なんというか、いつも壁があるというか……」


「同感だ。僕の炎の魔法でいっそのこと焦がしてやればいいかと思うくらいキレそうになるんだが」


「何言われたんだよ?スケベったらしいこと突かれたとか?」


「違うそうじゃない!!それは君のほうが大概というか……いや違う。こないだの彼女に対する態度だ」


「葛咲さんのこと?」


「そうだ。彼女がお弁当一生懸命作ったというのに……あいつは」


「まあ食いたいものは人それぞれだ。で、お前が胸倉掴もうとして投げ飛ばされたんだっけ?」


「……そうだ」


 自分の蛇島はうつむいた。


「一瞬だった。鍛えているつもりだった。まさか陸島君、武道の心得まであるとはね」


「多才って言うのかな?まいっちゃうよね」


 鼠川はうつむく蛇島に同意した。一方で鴉田は苦い顔を浮かぶ。


「……俺があの時の決闘で勝っていればアイツにもうちょっと態度ってのを改めさせれてやれたんだがな」


「それなら次の決闘で僕が勝つ。それで彼を悔い改めさせてやる」


 ぎゅっと拳を握り、蛇島は前を見る。陸島の通って行った道を。


「勝てそうなの?蛇島君。決闘しない僕が言うのもなんだけど……」


「勝って見せるさ。燦央院さんの下でもっと修行を積んで……それで一発あの面殴ってやる。このトンファーで」


「おうやったれやったれ。あのいけすかないクールフェイスをオーク顔に変形させたれ!!」


「な、なにそのやじ……」


 鴉田のよくわからないヤジに鼠川は困惑した。


「ところで、何故僕らは魔女でもないのに魔法が使えるんだろう?」


 言い出したのは蛇島だった。


「さあな。一つ言えるのは何かここ数年のうちに大きなうねりがあるってことだ」


「それ校長先生が言っていたことだよね鴉田君?」


「ばれたか」


 獺田の突っ込みに鴉田は笑った。

 夏の暑い日、その最も暑い時間の出来事。四人の男は本州から少し離れたとある島にいた。






「ここにいましたか。陸島君」


「ん?」


 一方、陸島と呼ばれた男は三人よりも先に森を抜けた先の道で一人の女性と出会っていた。


「なんですか校長先生」


 校長先生と呼ばれた短い銀髪に顔にしわの見える女性は老婆というには背をまっすぐに伸ばし、いずれも黒い長いつば付き帽子に半袖のビジネスシャツとロングスカートを着ていた。名前は佐倉京香。陸島たちが通う高校の校長。


「ええ。実はですね――」


 校長は手に持ったカバンからスマートフォンを取り出して操作をする。しばらくして陸島のポケットが震える。


「あの……いったい何を――」


 スマートフォンが写した画面を見たとき、陸島は驚いた。


「……これは?」


「ええ。次の決闘の相手です。無論、受けるも受けないもあなた次第ですが」


「どういうことですか……校長先生?」


「どういうことも何も……それが彼女の決断ということですよ」


 画面内の文字をじっと見る陸島。そこに間違いがないかを探るように目をじっと凝らす。


(何考えてんだアイツ?俺と決闘をするだと?どういうつもりだ……?)


 妙なざわつきが陸島の胸中を駆け巡る。

 夏の暑い日。一つの分岐点が確かに差し迫っていた。

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