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1-5

 食事を終えて休憩をはさみ、ゆったりとしてしばらくの時が流れる。

 その日、島の街は月明かりに照らされていた。


「さて、お茶でも飲みながら話をさせてください」


「いいですよ」


 待ちに待った時が来たとにやけた陸島の顔は物語っていた。

 校長はリビングのキッチンにて紅茶の準備をしていた。


――ついに事件に近づける。あいつらを殺した連中の情報が


 テーブルの対面に座った校長の前で陸島はわなわなと震えていた。

 辺りには紅茶、アールグレイの香りが立ち込めだす。


「どうですか?到着して二日目じゃこの島には流石にまだ慣れませんよね?」


「ええ。魔女の島というか……そもそも自分がウォーロックという事実ということを呑み込めてなくて」


「でしょうね。貴方のご家庭に関しても、過去の事件についても聞いてはいます」


「本当に何か知っているのですか?」


 陸島の校長に向ける視線が深くなる。その瞳には強い力が籠っていた。


「はい。その前にいくつか質問させてください」


「質問?」


 カップを手に取り、揺らしながら香りを広げてそれを感じ取る校長は少し飲んで彼の瞳をじっと見る。


「そうです。多いと疲れちゃうから短く三つにしましょう。では一つ目に。貴方は魔女として……魔術師というべきですかね?自らを鍛えるために辛い修行に耐える覚悟はありますか?」


「はい。あります」


「そうよね。貴方は強くありたいのだから。では二つ目に。事件の真相に近づくためにいろんな手続きや書類を書くことや審査に時間がかかるという事態になっても面倒になったりしませんか?」


「……はい」


 うんうんと頷いたのは校長。


「もしかしたらの話ですが、何らかの手続きに時間を要するかもしれません。ああそうそう。この島を出て本州に向かう際にも書類を書く必要がありますよ?まあ今はペーパーレスの時代ですからさほど時間はかかりませんが。でも例えばですが、明日に島の外に行きたいのなら日付が変わるまでに申請をお願いしますね」


(なんだ……?修行はともかく手続き?書類を書く?審査?どうなってるんだ?俺の何を測る気だ?)


「最後に三つ目」


 校長の彼を見る視線が強まる。


「貴方は目的のために他の魔女の手を取れますか?」


「他の……魔女?」


「ええ。恐らくあなたが追おうとしているのは『組織』の関係者かもしれないのです」


「『組織』……?」


「ええ。彼らは何らかの一派、あるいはまとまった集団とでもいうべきでしょうか?自らの私欲や邪悪な理想のために動く者たち。それらがあるものを中心にしてまとまったのが『組織』。明確な紋章や呼び名がないので我々魔女機関は便宜上彼をそう呼んでいます。組織立っている……という言葉からも取っているのですがね」


「なるほど。それで『組織』……」


「さて話を戻しましょう。その組織と戦うために他の魔女や仲間たちと手を組めますか?」


「……多分可能かと」


「多分というのは?」


「その魔女や仲間、強いんですか?」


 陸島の疑問に校長はにやりと笑う。


「ええ。少なくともあなたがここで魔法の勉強を積んだとしてもその実力は結構なものもいます。何より同じように『組織』に仲間や家族を殺された者もいるのですから」


「なるほど。なら強そうだ」


 陸島はふんと鼻息をならした。その様を校長は微笑んでみていた。


「さて、陸島鉄明君」


「はい」


「まず貴方が探しているのはある事件の情報。我々、魔女機関もその事件の情報を持ってはいます。それで――」


 その時、リビングに甲高い音色が響く。ベルを高速で連打で鳴らすようなそんな音。


「なんだ?」


「ごめんなさい。私の電話ですね。黒電話って今の子供たち知らないでしょ?」


「どうぞ」


 陸島は校長に電話に出たほうが良いと促す。スマートフォンを手に彼女は電話に出た。


「もしもし……えっ!?今、なんて……そう――」


 驚きの声を上げ、校長はしばらく話し込むと電話を切った。


「何かトラブルですか?」


「そうみたい。……ごめんなさい。資料は後日データか紙媒体で渡してもいいかしら?」


「いいですよ。約束してくれるのなら、急ぎはしませんので」


「ありがとう。それじゃあごめんなさい」


 校長は申し訳なさそうにその場を去っていった。

 一人残った陸島は校長が用意した紅茶を飲んで溜息を吐く。


(お預け……か。まあいい。急ぎ手に入れたとしても、この島にいる以上は何かができるとは思えない。七年近く経過するにもかかわらず、未解決のままの事件がそう簡単に解決できるとは思ってない)


 空っぽになったティーカップの底を見つめ、思案を続ける。

 近くを通る車の音が聞こえ、陸島は窓から道路の方を見た。


「魔女と警察が手を組んで捜査して……未解決となっているというのなら尚更だよな」


 窓の外の暗闇に目をやる。既に時刻は夜の九時を過ぎ、日は完全に落ちていた。


(門限まで時間はあるし……アレでもやるか)


 すっと立ち上がると彼は自室に向かい、二つを手に取った。

 一つは日本刀。もう一つは十手。


(この十手は……まあいいか。お守りにはちょっと大きいが持ってると落ち着くというか……)


 十手をカバンに入れて、日本刀は紺の竹刀ケースにしまうと彼は外に出て山の方に向かって歩き出した。


「部屋で振るうには狭いし……道を覚える意味でも今日は裏山に行ってみるか」

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