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2-6

「決着を付けてやる……!」


 言い出したのは流山。


(シンプルにやるしかない。ぶっ飛ばしてやる!)


 流山は水を足に纏うと、瞬時に彼の右側に飛び出して右手に持った木製の杖より水流を起こす。


「勝たせるわけにはっ!」


「黙れ」


 陸島は水流に十手を突き付け、その流れを両側に流す。


「そんなもんで――」


「うるせぇつってんだよ!!」


 一瞬だった。水流に突っ込み、流山の右後ろにいたかと思えば、勢いよく振り向いて後頭部に十手を振るい――


「ぎゃっ」


 その一撃は命中した。

 ばたりと倒れる流山。起きる気配は見えない。


――え?


 会場の誰もが、一瞬の出来事を理解することなくただ茫然とした。

 何が起きたのか理解できなかったのだ。


「……あ!」


 相原が気づく。陸島の体には蔦が絡まっている。

 彼は水流をはじく最中に体に蔦を巻きつかせ、それが一定の方向に伸びるように事前に仕込んでいたのだ。

 そして瞬時に流山の横に飛び、そのまま十手による振り下ろしをかけたのだ。


「こっちももうカツカツなんだよ」


 倒れる彼女をよそに彼は近くに刺さっていた刀に手を伸ばし、引き抜く。


(え?)


 相原は彼の行動に寒気を覚えた。

 彼はそれを両手で持って倒れる流山に近づく。


「じゃあな」


 気絶する彼女へ、勢いよく振りかざさんとした。


「それまで!!」


 先刻の陸島の猿叫に近い痺れをもたらす声が響く。


「勝者、陸島鉄明!」


 審判役の一人の女性が闘技場にその声を轟かせる。

 観客席からその結末にどよめきが走った。


――うそでしょ!流山さんが負けた!?


――信じられない……これがウォーロックの力なの?


――いや、魔法のぶつかり合いというか半ば喧嘩みたいなもんじゃない?


「なんだよ。もう終わりでいいのか?」


 観客席の声をよそに、審判の女性に不満そうな声を漏らす。


「ええ。これはあくまで『決闘』ですので」


 そういって審判の女性は流山を両手で抱えるとその場を去っていった。


「……これで終わりか」


 一人残されて、空を見上げる。

 彼の視界に入った昼間の空はまだ明るく、澄み切った青空が瞳に映る。


(帰るか。疲れたし)


 全身に流れる疲労の気配を感じ取り、陸島はその場を後にした。

 同時に勝利という喜びが口元の笑みから溢れさせて。


「……ねえ、今の。ツバキちゃんを手に掛けようとしたんじゃ」


 怯える目で相原は彼の行動を見ていた。


「そうかもしれない。戦いは終わっていたわけじゃなかったから。でもあれは――」


――間違いなく殺す気だった


 萩野もレイピアという刀剣を振るっているからある程度覚えはある。

 陸島が最後に見せたのは間違いなく命を刈り取ろうとする振る舞い。


(陸島君……君はずっとそのままでいる気なのかい?どうしてそこまで力に固執する。何があった?君は一体何者なんだ?)


「わたしのせいだ」


 思案する萩野の横でぽつりと相原が呟く。


「相原さん?どうしたの?」


 肩を落とす彼女に干木は慌てだす。


「あ……えっと……何でもないんです。違うんです」


「そ……そう?」


 干木は流山にどう対応していいのかわからなかった。


(もしかしてあの日の夜に何かあったのか?相原さんは校長先生が駆けつけてくれて事なきを得たと言っていたけれど。本当はその間に何かあったんじゃないか?逆奈義家との間に何があった?彼に何が起きたんだ?)


 萩野の深くなる思案は留まるところを知らなかったがそれでも彼女が真相を知るのはまだ先の事である。






(あれ?さっきの声なんだったんだ?)


 夜。男子寮の大浴場にて。

 六、七人は同時に入れる風呂があるそのスペースにポツリと入って彼は今日の出来事を振り返っていた。


(あの時確かに聞こえた。力を貸すって。あれは誰だったんだ?)


 流山との決闘の途中で聞こえた声。自分に力を貸すと言ったもの。

 陸島はしばらく考え込むが、結局正体には何一つ思い当たる節はない。


(決闘中に力を貸してくれる奴がいたとは思えない。俺は一人だったはずだ。気のせいだったか?)


 十分な入浴時間を経て彼は風呂から上がり、脱衣所に出て着替える。


(……ああそうだ。俺は一人だ。ずっと。あの日から――)


 鏡を見る。そこに映っていたのは瞳に憎悪を滾らせ、心臓に手を当てる一人の男の姿。

 別にそこに何か傷があるわけではなかった。


「牙谷、爪島、羽田。もう少し時間をくれ。お前たちを殺した犯人は必ず俺が殺してみせる」


 その瞳に燃え上がる憎悪を滾らせて。

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