フレイヤは、聖女代行として王国に仕えている。しかし、彼女自身は「仕えている」と感じたことは一度もなかった。王国の巫女や神官たちからは聖女として崇められ、信仰の対象となっているが、フレイヤにとってそれはどうでもいいことだった。彼女はあくまで「代行」としての立場を持っているに過ぎず、本物の聖女が見つかるまでの暫定的な役割を担っているだけだと思っていた。だから、何も積極的にやる必要はないというのが、フレイヤの基本的な考えだった。
王国の聖女として任命されたのは数年前のことだ。それは、王国の高官たちが彼女の持つ強大な力に気づき、その力を利用するために、彼女を聖女として代行させることに決めたからだった。フレイヤ自身も、そのことについて特に異論を挟むわけではなかった。代行とはいえ、日々の生活において特に不自由がないうえ、贅沢な暮らしが約束されているのであれば、むしろ彼女にとっては好都合だった。
フレイヤは、その役割に全く責任感を持っていなかった。毎日、城の庭園に設けられた特別な座敷に腰を下ろし、お茶を飲みながら青空を見上げる。それが彼女の「仕事」の全てだった。彼女に祈りを捧げるように促す神官や巫女が現れるたび、彼女は決まって「あとでやるわ」と口にする。しかし、実際に祈りを捧げたことなどほとんどない。彼女にとって、祈りとは単なる形式的なものであり、自分が何かをする必要はないと感じていたのだ。
この日も、フレイヤは庭園でゆったりとした時間を過ごしていた。心地よい風が彼女の髪を撫で、柔らかい日差しが彼女の肌を温める。手元には、美しい茶器が置かれており、その中には王国で最も上等な茶葉が使われた香り高いお茶が注がれている。フレイヤは、茶器を手に取り、ゆっくりとお茶を口に運んだ。
「はあ…今日もいい天気ね。こんな日がずっと続けばいいのに」
彼女はそんなことをつぶやきながら、空を眺めていた。王国の騒がしさや政治的な駆け引きとは無縁の、静かな日常が何よりも心地よかった。彼女にとって、聖女代行の役割は特に重要なものではなかった。むしろ、ただ贅沢な暮らしを楽しむための名目に過ぎないと思っていた。
そんな彼女の前に、一人の神官が近づいてきた。彼はフレイヤに対して深々と頭を下げ、恭しく口を開いた。
「フレイヤ様、どうか祈りを捧げていただけますでしょうか。本日も国の平和のために…」
フレイヤは、神官の言葉に耳を傾けることなく、ぼんやりと空を見上げたまま答えた。
「うん、わかった。あとでやっておくわ」
神官はその言葉を聞くと、困ったような表情を浮かべたが、それ以上何も言うことはできなかった。フレイヤの「あとでやる」という言葉は、彼女が本当にやることを意味しないということを、神官たちは皆知っていた。しかし、フレイヤの持つ力の大きさを知っている彼らには、彼女に強く物申すことはできなかった。
フレイヤの力は、表向きには聖女代行としての役割を担うためのものとされていたが、実際にはその力は王国を護るものとして不可欠なものであった。彼女が何もしていないように見えても、彼女の存在そのものが王国に平和をもたらしていた。フレイヤがただそこにいるだけで、外敵や災厄は遠ざけられ、王国は繁栄を続けていた。
だが、フレイヤ自身はそのことに気づいていなかった。彼女はただ「代行」としてそこにいるだけであり、自分が王国を守っているなどという意識は全くなかった。彼女にとって、毎日お茶を飲んでリラックスすることこそが最も重要なことだったのだ。
「聖女代行とは名ばかりで、私はただの居候みたいなものよね。ま、別にそれでもいいけど」
フレイヤはそうつぶやくと、再びお茶を一口飲んだ。彼女の無頓着な態度が、王国の人々にどれほどの影響を与えているかなど、彼女には全く関心がなかった。彼女はただ、穏やかで贅沢な日々が続くことを望んでいた。
その一方で、王国の高官たちや神官たちは、フレイヤの怠惰な態度に少なからず不満を抱いていた。彼女が聖女代行としての役割を果たしていないことは明白だったが、彼女の力の強さゆえに、それを公に指摘することはできなかった。彼らはいつか本物の聖女が現れることを願っていたが、その日がいつ訪れるのかは誰にもわからなかった。
フレイヤは、そんな周囲の状況を全く気にせず、ただ自分の快適な日常を楽しんでいた。彼女にとって、王国の未来や本物の聖女の出現など、どうでもいいことだった。自分が追放されるかもしれないなどという考えも、彼女の頭には微塵もなかった。
しかし、王国の裏では、フレイヤに対する不満が少しずつ積み重なっていった。そして、ついにその不満が爆発する日が訪れようとしていた。
フレイヤが代行の聖女として、王国で怠惰な日々を過ごしている一方、王国の高官たちは次第に彼女の存在に対する不安を募らせていた。彼女が聖女代行として任命された当初は、王国にとって頼もしい存在であると思われていたが、その実態はまるで違っていた。聖女代行としての責任を果たすことはおろか、彼女が何か積極的に行動を起こすことは一切なかった。祈りを捧げるように頼んでも、いつも返ってくるのは「あとでやるわ」という言葉だけで、それ以上の期待はできなかった。
「このままで良いのだろうか…?」
ある日、王国の会議室で、何人かの高官がフレイヤについての話し合いを行っていた。会議室は厳かな雰囲気に包まれており、王国の重要な問題がここで議論されることは多い。フレイヤについての問題は、すでに王国の中で解決が急がれるべき課題となっていた。
「フレイヤ様は、あまりにも無関心すぎます。聖女代行としての立場にふさわしくないのでは?」
「そうだ。しかし、彼女の力があまりにも強力だ。下手に扱えば、我々が痛手を負うことになるだろう」
フレイヤの怠惰な態度に対して不満を抱く高官たちは少なくなかった。彼女が力を持っていることは確かだが、その力を使おうとする意思が全くない。もともと彼女は、本物の聖女が見つかるまでの代行として王国に任されていただけだった。しかし、その期間が予想以上に長引いてしまい、高官たちはどう対処すべきかを悩んでいた。
「このまま彼女に聖女代行の座を与え続けるわけにはいかない。我々にはもっと積極的に国を導いてくれる存在が必要だ」
「それにしても、彼女を追放することなどできるのか?彼女の力を恐れて、反逆される可能性だってある」
高官たちはその議論の中で、フレイヤをどう扱うべきかについて深い悩みを抱えていた。表向きは「聖女代行」としての役割を果たしているように見えるものの、実際には何もしない彼女に対して、国民の間でも不満が少しずつ広がっていた。しかし、彼女を追放するという選択肢に踏み切るのは、あまりにもリスクが高いように思われた。
そこで彼らは、本物の聖女を見つけることが最優先課題であると考え始めた。フレイヤの力があまりにも強力であるため、彼女が王国に留まり続ける限り、本物の聖女が見つかっても、その存在が霞んでしまう可能性が高い。代行であるはずのフレイヤが聖女よりも目立ってしまうことで、王国の秩序が乱れることを危惧していた。
「本物の聖女を見つけなければならない。フレイヤの代行としての役割が終わる日は近い」
高官たちはその日の会議で、改めて本物の聖女を見つけるために、各地に探しの手を広げることを決定した。既に王国の隅々まで捜索を行っていたが、それでもまだ見つかっていないという状況だった。だが、フレイヤが代行を務め続ける限り、彼らの不安は消えることはなかった。
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一方、フレイヤは相変わらず庭園で日向ぼっこをしながらお茶を楽しんでいた。彼女は王国の高官たちが自分について何を話しているのかには全く関心を持っていなかった。代行の聖女としての役割は自分に与えられた一時的なものだと理解していたが、特にそれが何を意味するのかを深く考えたことはなかった。
「本物の聖女が見つかるまでの代行なんだから、私はそれまでここでのんびりしていればいいのよね」
フレイヤにとって、「代行」という立場は、何か特別な責任を伴うものではなく、ただ座っているだけで役割が果たせるものだった。彼女が何もしなくても、王国には平和が訪れており、彼女自身もその理由を深く考えることはなかった。
それもそのはず、彼女が何もしていないにもかかわらず、王国の平和が保たれているのは、フレイヤ自身の力によるものだった。彼女の存在そのものが、外敵や災厄を自然に遠ざけていたのだ。しかし、フレイヤ自身がその力を意識的に制御しているわけではなく、ただ自然と発揮されているだけであった。
「何もしなくても、王国は平和だし、別にそれでいいんじゃない?」
フレイヤはそんなことを考えながら、今日も何もせずに過ごしていた。彼女にとって、王国の未来や国民のことなど二の次であり、自分が快適に過ごすことが最優先だった。高官たちがどれだけ彼女について議論を重ねようと、彼女にはそれが全く伝わることはなかった。
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一方で、高官たちはフレイヤの追放についても密かに議論を始めていた。彼女が強力な力を持つということは、王国にとって大きな脅威になる可能性があったが、逆にその力が原因で王国の中で不協和音が生じることを恐れていた。もし本物の聖女が見つかったとしても、フレイヤが王国に留まり続ければ、その存在感が本物の聖女を霞ませるだけでなく、国民の信仰心にも影響を与えるかもしれない。
「いっそのこと、フレイヤを追放すればいいのではないか?」
ある高官がそう提案したとき、部屋の中に一瞬の静寂が訪れた。誰もがその提案の重みを感じていた。追放という決定を下すことは容易ではなかった。しかし、それが王国にとって最善の策である可能性もまた否定できなかった。
「だが、追放すれば彼女の力が我々に向くかもしれない。それに、彼女自身が何かしらの反発を示せば、我々の手に負えない事態になるだろう」
「しかし、このまま放っておけば、彼女が持つ力が王国に混乱を招くのも時間の問題だ。いずれにせよ、何かしらの対応を取らねばならない」
高官たちはフレイヤの追放について、慎重に議論を進めていた。追放を決定することは簡単なことではなかったが、彼らにとってフレイヤの存在が王国にとって不安要素になっていることは明らかだった。本物の聖女が見つかる日が近づいている今、フレイヤを王国から遠ざけることが、後々の混乱を避けるための最善の策だと考える者もいた。
「本物の聖女が現れれば、フレイヤの存在は過去のものになる。我々は、未来のために決断を下さねばならない」
こうして、高官たちはついにフレイヤを追放することを前向きに検討し始めた。それは、彼らにとって本物の聖女を迎えるための一つの準備であり、フレイヤの強力な力がもたらす混乱を未然に防ぐための手段だった。
フレイヤが王国の庭園で怠惰な日々を過ごしている間、王国全土ではついに「本物の聖女」が見つかったとの報告が舞い込んできた。長い間、王国の神官たちはフレイヤが聖女代行を務める一方で、各地で本物の聖女を探していたが、その捜索は実を結んでいなかった。しかし、ついにとある地方で奇跡的な力を持つ少女が発見され、彼女こそが待ち望まれた「真の聖女」、セレスティアであると断定されたのだ。
この知らせが王城に届いた瞬間、王国の高官たちは歓喜に沸いた。彼らはフレイヤの力が強大すぎるが故に、常に彼女の存在に対して不安を抱えていた。しかし、ようやく真の聖女セレスティアが見つかったことで、フレイヤに依存し続ける必要がなくなったと考えたのだ。
「ついに、我々は本物の聖女を手に入れた!これで国も安定するだろう」
高官たちは、すぐさま対策を講じるべく会議を開いた。彼らの頭の中には、次のステップとして「フレイヤの処遇」が浮かんでいた。フレイヤはあくまでも「代行」であり、本物が見つかるまでの一時的な存在であることは最初から明らかだった。だが、彼女の力はあまりにも強力で、真の聖女が現れたとしても、その力が本物の存在をかすませる可能性があった。
「我々には今、真の聖女がいる。フレイヤ様には退いていただくしかないだろう」
「しかし、彼女の力は尋常ではない。追放するにしても、慎重に進めなければならない」
高官たちはフレイヤの追放について真剣に話し合いを始めた。彼女がただの代行ではなく、強大な力を持つ存在であることを彼らは理解していた。下手に扱えば、その力が王国に牙をむく可能性があったからだ。しかも、フレイヤは怠惰な性格で、基本的に何も問題を起こしていなかったため、彼女に対して何かしらの罰を与える理由もなかった。
「フレイヤ様を粗雑に扱えば、我々の手に負えない事態になるかもしれない。しかし、放っておけば真の聖女セレスティアが彼女の影に隠れてしまう。これは大きな問題だ」
彼らは、フレイヤをどう追放するかに頭を悩ませていた。彼女が王国にとってこれ以上の脅威にならないよう、慎重に対応しなければならない。それでも、真の聖女セレスティアが王国に迎えられる以上、フレイヤを何らかの形で遠ざけなければ、王国の秩序が崩れる恐れがあった。
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フレイヤは、そんな議論が行われていることなど露知らず、今日もいつものように庭園でお茶を楽しんでいた。彼女にとって、聖女代行としての役割は単なる「居座るための名目」であり、特にそれ以上の意味はなかった。彼女がこの場にいるのはあくまで「代行」だからであり、特に責任感を持ってその役割を果たしているわけではない。
だが、ついに王城から彼女に対して正式な使者が送られてきた。使者は神妙な顔つきでフレイヤの前に立ち、深々と頭を下げる。
「フレイヤ様、突然のお知らせで申し訳ございません。実は、ついに真の聖女セレスティア様が見つかりました」
フレイヤは、使者の言葉を聞いても特に動揺することなく、むしろどこか面倒くさそうな表情を浮かべた。そして、いつもの調子で軽く返答する。
「ふうん、そうなの。良かったじゃない。本物が見つかったなら、もう私がここにいる必要もないわね」
使者は、フレイヤの予想外に冷静な態度に戸惑った。彼女が何らかの抵抗を示すのではないかと内心で警戒していたのだが、彼女はまるでその事実に無関心であるかのように見えた。フレイヤは、真の聖女が見つかったことに対しても特に感情を表さず、ただそれを「良いこと」として受け入れていた。
「その…フレイヤ様。王国の高官たちが、フレイヤ様にはしばらくの間、ご静養いただくようお願いしたいと…」
使者は言葉を選びながら伝える。実際には「追放」だが、それを直接言うのはあまりに危険だと判断し、遠回しに「静養」として伝えたのだ。フレイヤはその言葉を聞いて、一瞬だけ目を細めたが、すぐに肩をすくめてため息をついた。
「まあ、別にいいわ。私が退けば問題が解決するなら、それでいいのよ。追放ってことでしょ?面倒だから遠回しに言わなくていいわよ」
フレイヤの直球すぎる言葉に、使者は息を呑んだ。だが、彼女はあくまで淡々とした態度で、それ以上何も言うことはなかった。彼女が追放されることに対して、何の抵抗も示さないどころか、むしろ面倒事から解放されることに喜んでいるようにも見えた。
「そもそも私は代行なんだから、本物が出てきたなら、そちらに任せるのが自然でしょ。私は私で、自由に過ごさせてもらうわ」
フレイヤの言葉に、使者は深々と頭を下げた。彼女が抵抗しないことに安堵しつつ、これで大きな混乱は避けられるだろうと考えた。しかし、フレイヤが持つ強大な力については、彼も王国の高官たちもまだ十分に理解していなかった。
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その後、フレイヤが王国を去る日がやってきた。彼女の追放は静かに、そして目立たない形で行われた。王国中の人々は真の聖女セレスティアの登場に沸き立っており、フレイヤが代行としての役割を終え、姿を消すことに気を留める者は少なかった。
フレイヤ自身は、追放されることに何の感慨も抱いていなかった。むしろ「面倒な役割から解放された」と内心でほっとしていた。彼女は、最低限の荷物をまとめ、静かに城を後にした。これから始まるのは、彼女にとって自由な旅であり、その目的は美味しいスイーツを探すことだった。
「やっと自由になれたわね。次はどこのお菓子屋さんに行こうかしら」
フレイヤはそうつぶやきながら、王国の門をくぐり抜けた。王国はこれから新たな聖女セレスティアを迎えることで新しい時代を迎えようとしていたが、フレイヤにとってそれはどうでも良いことでしかなかった。彼女の心は、すでに旅の先にあるスイーツに向かっていた。
彼女の追放は、静かに、そして平穏に完了した。だが、フレイヤの存在がどれほど大きな影響を及ぼしていたのかを、王国の人々はまだ知る由もなかった。
フレイヤが王国の庭園で怠惰な日々を過ごしている間、王国全土ではついに「本物の聖女」が見つかったとの報告が舞い込んできた。長い間、王国の神官たちはフレイヤが聖女代行を務める一方で、各地で本物の聖女を探していたが、その捜索は実を結んでいなかった。しかし、ついにとある地方で奇跡的な力を持つ少女が発見され、彼女こそが待ち望まれた「真の聖女」、セレスティアであると断定されたのだ。
この知らせが王城に届いた瞬間、王国の高官たちは歓喜に沸いた。彼らはフレイヤの力が強大すぎるが故に、常に彼女の存在に対して不安を抱えていた。しかし、ようやく真の聖女セレスティアが見つかったことで、フレイヤに依存し続ける必要がなくなったと考えたのだ。
「ついに、我々は本物の聖女を手に入れた!これで国も安定するだろう」
高官たちは、すぐさま対策を講じるべく会議を開いた。彼らの頭の中には、次のステップとして「フレイヤの処遇」が浮かんでいた。フレイヤはあくまでも「代行」であり、本物が見つかるまでの一時的な存在であることは最初から明らかだった。だが、彼女の力はあまりにも強力で、真の聖女が現れたとしても、その力が本物の存在をかすませる可能性があった。
「我々には今、真の聖女がいる。フレイヤ様には退いていただくしかないだろう」
「しかし、彼女の力は尋常ではない。追放するにしても、慎重に進めなければならない」
高官たちはフレイヤの追放について真剣に話し合いを始めた。彼女がただの代行ではなく、強大な力を持つ存在であることを彼らは理解していた。下手に扱えば、その力が王国に牙をむく可能性があったからだ。しかも、フレイヤは怠惰な性格で、基本的に何も問題を起こしていなかったため、彼女に対して何かしらの罰を与える理由もなかった。
「フレイヤ様を粗雑に扱えば、我々の手に負えない事態になるかもしれない。しかし、放っておけば真の聖女セレスティアが彼女の影に隠れてしまう。これは大きな問題だ」
彼らは、フレイヤをどう追放するかに頭を悩ませていた。彼女が王国にとってこれ以上の脅威にならないよう、慎重に対応しなければならない。それでも、真の聖女セレスティアが王国に迎えられる以上、フレイヤを何らかの形で遠ざけなければ、王国の秩序が崩れる恐れがあった。
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フレイヤは、そんな議論が行われていることなど露知らず、今日もいつものように庭園でお茶を楽しんでいた。彼女にとって、聖女代行としての役割は単なる「居座るための名目」であり、特にそれ以上の意味はなかった。彼女がこの場にいるのはあくまで「代行」だからであり、特に責任感を持ってその役割を果たしているわけではない。
だが、ついに王城から彼女に対して正式な使者が送られてきた。使者は神妙な顔つきでフレイヤの前に立ち、深々と頭を下げる。
「フレイヤ様、突然のお知らせで申し訳ございません。実は、ついに真の聖女セレスティア様が見つかりました」
フレイヤは、使者の言葉を聞いても特に動揺することなく、むしろどこか面倒くさそうな表情を浮かべた。そして、いつもの調子で軽く返答する。
「ふうん、そうなの。良かったじゃない。本物が見つかったなら、もう私がここにいる必要もないわね」
使者は、フレイヤの予想外に冷静な態度に戸惑った。彼女が何らかの抵抗を示すのではないかと内心で警戒していたのだが、彼女はまるでその事実に無関心であるかのように見えた。フレイヤは、真の聖女が見つかったことに対しても特に感情を表さず、ただそれを「良いこと」として受け入れていた。
「その…フレイヤ様。王国の高官たちが、フレイヤ様にはしばらくの間、ご静養いただくようお願いしたいと…」
使者は言葉を選びながら伝える。実際には「追放」だが、それを直接言うのはあまりに危険だと判断し、遠回しに「静養」として伝えたのだ。フレイヤはその言葉を聞いて、一瞬だけ目を細めたが、すぐに肩をすくめてため息をついた。
「まあ、別にいいわ。私が退けば問題が解決するなら、それでいいのよ。追放ってことでしょ?面倒だから遠回しに言わなくていいわよ」
フレイヤの直球すぎる言葉に、使者は息を呑んだ。だが、彼女はあくまで淡々とした態度で、それ以上何も言うことはなかった。彼女が追放されることに対して、何の抵抗も示さないどころか、むしろ面倒事から解放されることに喜んでいるようにも見えた。
「そもそも私は代行なんだから、本物が出てきたなら、そちらに任せるのが自然でしょ。私は私で、自由に過ごさせてもらうわ」
フレイヤの言葉に、使者は深々と頭を下げた。彼女が抵抗しないことに安堵しつつ、これで大きな混乱は避けられるだろうと考えた。しかし、フレイヤが持つ強大な力については、彼も王国の高官たちもまだ十分に理解していなかった。
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その後、フレイヤが王国を去る日がやってきた。彼女の追放は静かに、そして目立たない形で行われた。王国中の人々は真の聖女セレスティアの登場に沸き立っており、フレイヤが代行としての役割を終え、姿を消すことに気を留める者は少なかった。
フレイヤ自身は、追放されることに何の感慨も抱いていなかった。むしろ「面倒な役割から解放された」と内心でほっとしていた。彼女は、最低限の荷物をまとめ、静かに城を後にした。これから始まるのは、彼女にとって自由な旅であり、その目的は美味しいスイーツを探すことだった。
「やっと自由になれたわね。次はどこのお菓子屋さんに行こうかしら」
フレイヤはそうつぶやきながら、王国の門をくぐり抜けた。王国はこれから新たな聖女セレスティアを迎えることで新しい時代を迎えようとしていたが、フレイヤにとってそれはどうでも良いことでしかなかった。彼女の心は、すでに旅の先にあるスイーツに向かっていた。
彼女の追放は、静かに、そして平穏に完了した。だが、フレイヤの存在がどれほど大きな影響を及ぼしていたのかを、王国の人々はまだ知る由もなかった。
序章 - 新セクション4: フレイヤの追放と旅の始まり
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フレイヤが王国を去る日は、思いのほか静かにやってきた。彼女自身も特に大きな感情を抱かず、ただ淡々と荷物をまとめ、城を後にする準備をしていた。いつも通り、彼女の表情には無関心さが漂い、追放されたことに対する怒りや悲しみといったものは一切感じられない。ただ「面倒なことが一つ減った」という解放感だけが彼女の心にあった。
「さて、これでようやく自由ね」
城を出る直前、フレイヤは小さくつぶやいた。彼女が持っている荷物は必要最低限のものだけで、旅をするにはあまりにも軽装だった。しかし、彼女にとってそれは問題ではなかった。なにせ、目的は「美味しいスイーツを求めること」だけであり、特別な装備や準備など不要だったからだ。
門を出た瞬間、澄み切った青空と優しい風がフレイヤを迎えた。城の中の生活では感じられなかった開放感が、彼女の心を軽くし、自然と歩みが早くなる。長い間、王国に縛られた生活をしていたが、今はもうそんな束縛から解き放たれている。これからは自分の好きなことだけをし、気ままに旅を続けられるという考えが彼女の中でどんどん膨らんでいった。
「まずは、あの店ね」
フレイヤは「異世界スイーツ100選」と書かれたガイドブックを取り出し、次の目的地を確認した。彼女の目当ては隣国にある有名な菓子店。そこでは「天空のマカロン」という、フレイヤが一度は食べたいと思っていたスイーツが提供されていると評判だ。
「天空のマカロン……楽しみだわ。やっと自由になったんだもの、まずは美味しいお菓子を楽しんで何が悪いの?」
彼女は口元に笑みを浮かべ、軽快な足取りで城の門をくぐった。追放されたという事実を重く捉えることもなく、むしろ新しい冒険が始まることに胸を躍らせていた。
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その一方で、王国ではフレイヤの退去がひっそりと行われた。彼女の存在が王国に大きな影響を与えていたことは、実は多くの者が気づいていなかった。フレイヤが怠けていたように見えても、実際には彼女の存在が王国を災厄から守っていたということを、少数の神官や高官たちだけが知っていた。
「フレイヤ様がいなくなった後、何も起こらなければ良いのだが……」
高官の一人が不安そうにつぶやく。フレイヤが去った後に何かしらの災害や外敵の侵入が起こるのではないかという懸念が、少しずつ広がっていた。しかし、王国はすでに新たな聖女セレスティアを迎え入れる準備が整っており、民衆はフレイヤが去ったことにあまり関心を持っていなかった。
セレスティアは奇跡の力を持つ少女で、王国にとって希望の象徴だった。フレイヤに代わる存在として、王国中が彼女の登場を待ち望んでおり、フレイヤのことは過去のものとして忘れ去られつつあった。
「セレスティア様がいれば、王国は安泰だ。フレイヤ様のことはもう気にする必要はない」
そう言い聞かせるように、高官たちはフレイヤの不在を埋め合わせるかのように、セレスティアの力に全幅の信頼を寄せていた。
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フレイヤはそんな王国の事情にはまったく無関心で、ただ次の目的地に向かって歩いていた。彼女の頭の中は、美味しいスイーツでいっぱいだった。
「さて、次はどこのお菓子を食べようかしら」
彼女はガイドブックを広げ、ページをめくりながら目的地を探していた。彼女にとって重要なのは、いかにして美味しいものを楽しむかということだけであり、それ以外のことは二の次だった。王国や聖女の役割、あるいは追放されたことなど、彼女にとっては何の価値もない話だった。
途中、フレイヤは広大な草原に差しかかり、少し休むことにした。座り込んで再びガイドブックを眺めながら、これからの旅程を考える。
「ふむ、まずは隣国のマカロンを食べて、それからエルフの森にあるクッキーも試してみようかしら」
フレイヤは次々と目を引くスイーツに心を奪われながら、次なる冒険に思いを馳せた。彼女の旅は、美味しいスイーツを求める冒険であり、困難や試練を乗り越えるためのものではなかった。彼女が旅を続ける理由は、ただ「美味しいものを食べたい」という純粋な欲求に基づいていた。
しかし、そんな彼女の旅にも、時折小さな問題が訪れる。広がる青空に突然、暗い雲が現れ、雷鳴が響き始めた。風も徐々に強くなり、嵐の前兆がフレイヤの周囲に迫っていた。
「何よ……天気が急に悪くなってきたじゃないの。まあ、面倒だけど仕方ないわね」
フレイヤは不満げに空を見上げたが、特に焦る様子もなく、すぐに地図を取り出して近くに避難できる場所がないかを探し始めた。地図を見ると、近くに隣国の小さな村があることがわかり、そこで一晩休むことに決めた。
「ここからそんなに遠くないわね。嵐が来る前にさっさと向かいましょう」
彼女はそのまま歩みを進め、嵐に追われるようにして村へと向かっていった。
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隣国の村に到着したフレイヤは、すぐに宿を見つけて泊まることにした。村の宿は簡素な作りで、王国の城で過ごしていた豪華な生活とは比べ物にならないが、フレイヤはそれを特に気にする様子もなかった。
「まあ、これくらいの方が落ち着くわね」
宿の食堂で提供された食事も質素だったが、フレイヤは特に不満を漏らさず、それを平然と食べていた。彼女にとって、豪華な食事よりも大切なのは、美味しいスイーツがあるかどうかだった。
食後、彼女は再びガイドブックを広げ、次の目的地について考えた。嵐は外で鳴り続けていたが、フレイヤにとってそれは眠りを妨げるようなものではなく、ただの自然現象の一つに過ぎなかった。
「明日はもっと遠くまで行ってみようかしら。もしかしたら、もっと美味しいお菓子が待ってるかもしれないし」
そうつぶやきながら、フレイヤはガイドブックに描かれた美しいスイーツの写真を眺め、目を閉じた。これからの旅路に何が待ち受けているのか、彼女自身もまだ知らない。しかし、彼女にとって重要なのは「その瞬間を楽しむこと」だけであり、未来のことはあまり気にしていなかった。
こうしてフレイヤの新たな旅は、何事もなく穏やかに始まった。彼女はただ、美味しいスイーツを求めて、気ままに旅を続ける。
フレイヤが王国を去った後、彼女はいつも通り気ままな旅を続けていた。彼女にとって「追放された」という感覚はなく、むしろようやく自由な生活を手に入れたことへの解放感が勝っていた。城での生活は贅沢ではあったものの、どこか息苦しさを感じる部分があった。しかし今、目の前に広がる無限の可能性を感じながら、彼女は歩みを進めていた。
「さて、まずはどこのお菓子を食べようかしら?」
フレイヤは、ガイドブック「異世界スイーツ100選」を手に取りながら次の目的地を考えていた。彼女が一番楽しみにしているのは、隣国の首都にあるという有名な菓子店だ。その店では、フレイヤが以前から食べたがっていた「天空のマカロン」が人気商品として知られていた。
「よし、決めたわ。まずは隣国のあの店ね。そこのマカロンは、一度は食べてみたかったのよ」
彼女は早速隣国への旅程を考えながら、軽やかに歩き出した。急ぐ必要はない。フレイヤにとって、目的地に早く着くことよりも、旅そのものを楽しむことが大切だった。寄り道をしながら、周囲の風景や自然を楽しむ余裕が彼女にはあった。
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一方、王国ではフレイヤが去ったことに伴い、新たな聖女セレスティアを迎え入れる準備が進められていた。セレスティアは、王国の希望の光として崇められ、彼女の到着を心待ちにしていた民たちが多くいた。王国の民は、フレイヤが去った後に本物の聖女が現れたことを喜び、王国の未来が安泰であることを信じていた。
だが、その一方で、フレイヤの不在がもたらす影響について懸念する声も一部では聞かれていた。フレイヤが何もしていないように見えても、彼女が持つ力が王国を守っていたという事実が少しずつ浮かび上がってきたのだ。特に、王国の高官たちはフレイヤの退去後、外敵や災厄が再び現れるのではないかという不安を抱いていた。
「フレイヤ様が何もしていないように見えて、実際には王国に平穏をもたらしていたのではないか?」
そうした疑念が広がり始める中、王国はセレスティアの力に期待を寄せつつも、何か大きな変化が訪れるのではないかという不安も同時に抱えていた。しかし、それでもフレイヤが去った後の新たな時代を迎えるため、王国の人々はセレスティアに全幅の信頼を置くしかなかった。
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フレイヤは、王国の動向には全く関心を持たず、ただ自分の旅を楽しんでいた。彼女にとって、王国の未来やセレスティアのことはすでに過去の話であり、今後の生活には全く影響しないと思っていた。それよりも彼女が気にかけているのは、次にどのスイーツを食べるかということだった。
途中、フレイヤは広い草原に差しかかり、一休みすることにした。広大な草原の中に一人、フレイヤは腰を下ろし、手元に持っていたガイドブックを再び開く。
「異世界のスイーツも色々あるけど、まずは近場から攻めていくべきよね」
ガイドブックには、異世界の様々なスイーツが美しいイラストとともに紹介されていた。それらはどれも幻想的で魅力的なものばかりだったが、フレイヤはまず現実の世界での旅を楽しむことに決めていた。隣国の菓子店は彼女にとって最初の目的地だが、そこからさらに遠くの国々へも足を運んでみようと考えていた。
「ふむ、次はどこに行こうかしら……。マカロンの次は、このエルフの森にあるクッキーも捨てがたいわね」
彼女は楽しそうにページをめくりながら、次々と目を引くスイーツに思いを馳せた。彼女の旅は、美味しいスイーツを求める冒険であり、そこに困難や試練が待ち受けていることなど、彼女の頭には一切なかった。フレイヤにとって、困難や試練はただの面倒事に過ぎない。彼女が旅を続ける理由は、あくまで「美味しいスイーツを食べる」という単純な欲求からだった。
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その時、ふと遠くの空に黒い雲が現れた。雷鳴が遠くで響き、風が強くなり始める。フレイヤは顔をしかめながら、その方向をぼんやりと見つめた。
「何か嵐でも来るのかしら?めんどいわね……」
彼女はそう言いながらも特に動揺することなく、再びガイドブックに目を戻す。しかし、空模様が急変するのを見て、少しだけ立ち上がり、周囲を見回した。
「うーん……さすがにこのままここにいるのはやめたほうが良さそうね。近くに避難できる場所があるかしら?」
フレイヤは地図を広げ、近くの村を確認した。どうやら隣国の小さな村が近くにあるらしく、そこで一晩休むことに決めた。彼女は再び歩き出し、急な天候の変化にも特に気にすることなく、気楽に次の村へと向かっていった。
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その夜、フレイヤは隣国の小さな村の宿に泊まることにした。宿は簡素なもので、豪華な城での生活に慣れていた彼女にとっては不便な部分もあったが、フレイヤはそれを特に気にすることもなかった。彼女にとって、どんな環境でも「美味しいスイーツ」があれば十分だった。
宿の食堂で出された食事は質素だったが、村人たちの温かいもてなしにフレイヤは満足していた。食後、彼女は再びガイドブックを手に取り、次の目的地について考えながら静かに夜を過ごした。
「明日は、もう少し遠くの街に行ってみようかしら……。美味しいお菓子が待ってるかもしれないわね」
フレイヤはそうつぶやきながら、疲れた体をベッドに横たえた。彼女にとって、この気ままな旅は始まったばかりであり、これからどんなスイーツに出会えるのか、その期待で胸を躍らせていた。
外では嵐の音が鳴り響いていたが、フレイヤにとってそれはただの眠りを誘う心地よい音に過ぎなかった。彼女は目を閉じ、次の日の新たな旅に思いを馳せながら、静かに眠りについた。
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こうしてフレイヤの新たな旅は、何事もなく穏やかに始まった。彼女はただ、美味しいスイーツを求めて、気ままに旅を続けていく。フレイヤにとって、旅の目的は複雑なものではない。彼女が求めるのはただ「美味しいもの」を味わうことであり、そのために少しばかりの困難や不便さも受け入れることができる。
嵐の音が外で響く中、フレイヤは気持ちよく眠りについた。明日から始まる新たな冒険には、どんな出会いや驚きが待っているのだろうか。彼女はそんなことをほとんど気にすることもなく、ただ自由な日々に期待を寄せていた。
フレイヤが再び王国と関わる日はまだ先のことであり、その時まで彼女は好きなように、自由気ままな旅を続けていくことになる。彼女の怠惰な性格やスイーツに対する執着心が、どのように物語を動かしていくのかは、これからのお楽しみだ。