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第12話  この道がどこに続くかなんて、知らないけど

 予想出現ポイントに円状に人が配置されてる。

 その人というのは、クジョウ先輩とかの何人かの機知室の人と、警察の人‥‥その中に私は含まれていない。

 私は機知室の中でお留守番。最初の二日ぐらいは先輩と一緒に現場で待機してたけど、全く動きがなくて私だけ帰されたって感じ。

 処理施設から脱走したリオナさんには、政府から破壊命令が出てる。

 もし私が張ってた場所にリオナさんが現れたら、私は彼女を撃たなければならなかったわけで‥‥だからホっとしてる。ホッとしてるんだけど‥‥もやもやしてる。それは何でかと言うと、自分でもちゃんと分かってる。

 彼女が破壊‥‥射殺される所を直接見なければ、それで良いと思ってる私自身に、腹が立ってる。

「‥‥‥‥」

 でも現場にいたとして何が出来るだろうか。

 結局ただ見てるだけ。何も出来ない。

“ツキシロ“

 室長に呼ばれたんで、書類が表示された画面をそのままにして、奥の机まで歩いていく。

「はい」

「‥‥‥‥」

 室長は相変わらずモニターを見つめてる。硬そうなオールバックの髪が光を反射して黒光りしている。相当な量の整髪料で固めてると思う。

私が間に立つと、珍しく私の顔を見た。

「アイザワは優れたプログラマーであり、システムのハッキング技術は、超一流だ」

「‥‥‥‥」

 前置きが全くなくて、話しだすのは室長のいつもの事で、もう慣れた。

「アイザワは中央AIを出し抜いて認証を誤認させる方法はない‥‥そう結論を出した。彼以上の腕を持つ者は、そうはいない。私は彼の言葉を信じる事にした」

「でも‥‥実際に‥‥」

「そうだ、正規の給電量からはズレている、その証拠は残っている」

「‥‥‥‥」

「だから誰もが設備に不正アクセスして給電したと思い込んだ。だが、実際は給電などしていないのかもしれない」

「?」

 何の事を言ってるのか分からなかったので、私はそのまま室長の顔を見つめた。

「君はアイザワにこう言ったそうだな。不可能なら、最初からやってないのではないかと‥‥」

「‥‥‥‥」

 そう言えば、そんな事を言ったような気もするけど。

「そうだ、君が指摘した通り、不正認証はなかった」

「‥‥は?」

 私は目が一瞬、見開いた。

 そうだったの? えええ‥‥?

「給電設備から非指向性の放電をした場合、対象に給電する事は出来ないが、電力使用のログは残る。アイザワに聞いたら、それに関してはメンテナンスのコマンドを利用する事で、遠隔操作で比較的簡単に実行できるそうだ」

「‥‥‥はあ」

「だが、それなら別の問題がある。ドール59873Dの335は処理施設を脱走してから、全く給電していない事になる。それはおかしな事だ」

「‥‥‥‥」

「君の目のつけ所は良い。だが、全ては仮説の上での事であって、現段階ではテロリストによる工作とみなす方が信憑性がある」

「‥‥‥‥」

 アゴの上で手を組んでいた室長は、私を睨んだ‥‥多分。

「中央AIの判断のまま進めれば、何事もなく終わるだろう。それが例え、真実とは違った理由だったとしてもだ」

「‥‥‥‥」

 そんな事をわざわざ私に言ってきた室長の意図が全く分からないんだけど。

 まさか、決定事項におかしな事を言うな‥‥とか?

「ツキシロ‥‥もし、推測が正しいと思うなら‥‥自分で証明してみせろ」

 室長はちょっとだけ笑った。瞬間だけど。

 そんな事より‥‥。

「‥‥え?」

 いや‥‥そんな事は全く、何も‥‥。

「この部署は自分の考え、正しいと思った事を信じて行動していく‥‥そんな人間しかいない」

「‥‥‥‥」

 いつもの癖で、はあ‥‥と、返事を返す所だったけど、とてもそんな空気じゃない。

 こういう場合、何て言うのが正解なんだろうか。

「分かりました。証拠を集めてきます」

「そうか」

 室長はそれ以上、何も言わずにモニターに顔を戻した。どうやら話はこれで終わりらしい。

 ‥‥ので、自分の席に戻る。

 隣にミナセさんはいない。

 さて、どうしたものか‥‥このまま書類整理で今日という日を終えても、何も悪い事はしてないはず。

 もちろん私は‥‥。

「ちょっと出てきます」

 ことわってから、壁にかけてある黒いコートを羽織って、MITの身分証を首から下げた。

室長はちょっとだけ首を縦に振っただけで、モニターを見つめたまま、私の方を見もしない。

 地下の駐車場に行って、並んでる車の一つのドアに認識章を当てる。ハザードランプが光ってドアの鍵が開いた。

「よし!」

 私は運転席に座る。

 思った通り、全てのロックが外れて運転が可能になった。

 普通なら十八歳になって成人してからでないと運転は出来ないけど、私はなぜか十六で、就職させられてる。つまり、成人とみなされてる。つまり運転して良いという事になるわけで‥‥。

「‥‥‥‥」

 ハンドルの周囲にびっしりとある操作パネルを見つめる。だからと言って、運転方法が分かるはずもなく。探してるのはたった一つのスイッチ。

「これだ」

それはAIまかせの全自動運転モードへの切り替えスイッチ。親指でそれを押すと、途端にエンジンがかかって、フワ‥‥っと、少しだけ浮かびあがった(クジョウ先輩みたいに車輪じゃない)。

=目的地を入力してください=

「‥‥‥‥」

 車に言われて、はじめて気が付く。

 今日、二度目のどうしたものかと‥‥。

「‥‥‥‥」

つまり、私の推理?‥‥によると、リオナさんは、十日間、全く、給電していない。テロリストが接触してたら、それはそれで別だけど、警戒中の区域でそんな危険を冒してまでドール一体の為に接触してくるとは思えない。

 つまりエネルギーが枯渇していて、停止状態にいる(私の推理?‥‥なら)。

「‥‥‥‥」

 こういう時は整理しよう。

私の推理が正しいなら、彼女は動けなくなってる。つまりは最初の場所から動いていないんじゃないかな?

「‥‥‥‥目的地‥‥ドール処理施設」

私が口でそれを言うだけで、車は静かに動きはじめる。多少の段差があっても、そもそも地面に接してないので、少しの振動もない。

「‥‥‥‥」

 地下駐車場から外に出た時、陽射しの眩しさに手を翳す。上開きのドアは天井部分がほぼ透明で、光がダイレクトに射し込んでくる。

 曇ってると真っ暗なのに、天気が良いとギラギラした日光が目に突き刺さる。

 表通りの六車線の道に乗って、先に走ってる車の中に合流する。

 この車道の下には、歩行者専用の歩道が平行して走ってる。なので事故にあう確率は少ない。

渋滞などという前時代的なものもなく、AI運転の灰色の車は真っ直ぐに目的地を目指していく。

ここは何度も通った道。景色がデジャブ‥‥まさか一人で運転して(?)走るとは思ってもいなかった。

「‥‥‥‥」

 もし、本当にリオナさんを見つけたら‥‥その時はもちろん、テロリストとは関係がないという事で、破壊はされないけど‥‥。

 処理施設に戻されて、結局は解体されてしまう。

 その運命は変わらない。

 なら、私は何の為に解き明かそうそしてるのだろうか‥‥。

 彼女の名誉‥‥リオナさんは、そんな事を望んではいないと思う。

「‥‥そうか」

 テロリストが関与していないなら、脱走したのは彼女の意志だと思う。

 解体されたくないから逃げ出したとしたら‥‥私はどうしたらいいんだろう‥‥。

 そんな事を考えているうちに、自動運転の車は処理施設に到着。駐車場の範囲にピタッと止まる。

「機知特別対策室です」

 下げてるMITの身分証を職員の人に見せる。

「また調査ですか?」

「いえ、ちょっと車を置かせてください」

「え‥‥はい、どうぞ」

 何だか少し変な顔をされたけど、私はすぐに近くの歩道に歩いていった。

「‥‥‥‥」

 右を見ても左を見ても綺麗な道路が伸びてる。どこまでも真っ直ぐで果ては霞んで見えるぐあい。綺麗なのは、歩道に車は走らないので、なかなか傷まないのが理由だとか。この道はどこに続いてるんだろう。

そして点々と続いてるのは、申し訳程度の街路樹。ここも枝に葉がほとんどついてない。真上に車道があるので、ここは影になってるからなんだろうか。

 歩いてる人は誰もいない。この辺にあるのはドールの処理施設ぐらいで、わざわざ徒歩で来る理由もないわけで。

「‥‥‥そりゃ‥‥そうか‥」

 施設付近に行けば、何とかなる‥‥そう思っていたんだぇど、やっぱり考えは甘かったみたい。

 そのまま回れ右で帰ろうとしたその時‥‥。

「‥‥‥‥?」

 少し離れた場所に、植え込みから何かが飛び出してる箇所があるのを見つけた。

 道路の植え込みは移動式の自動造園機が完璧に四角の形状に整えるので、おかしな形状になってると目立つ。

「まさか‥‥」

 近くは警察が調べたはずなのでさすがに‥‥と、思いながら近づいたけど、結果、想像以上に警察の捜査はダメな事を思い知ってしまった。

 植え込みの中に倒れてる人がいた。

 小さな子供‥‥スカートをはいてるから女の子だ。

「‥‥‥‥」

 私はびっくりして口を両手で覆った。

 それは間違う事なく、リオナさん。こんなに近くにいたなんて、近在盲点とはこの事か‥‥。

「リ‥‥」

 声をかけようとして私は途中でやめた。

 彼女は施設から脱走した‥‥起こした事でどんな反応をするのか分からない。

 それに、起こして連れていけたとしても‥‥。


 私はどうしたらいいんだろうか。


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