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勇者PTを追放された荷物持ちの俺、家に帰って元大賢者のお母さんに事情を話したら「お母さんが話つけたるわ」とキレました
勇者PTを追放された荷物持ちの俺、家に帰って元大賢者のお母さんに事情を話したら「お母さんが話つけたるわ」とキレました
岡崎 剛柔
異世界ファンタジー内政・領地経営
2025年05月08日
公開日
9,309字
完結済
「グレン、お前はクビだ! この勇者パーティーから出て行け!」  ある日、荷物持ちのグレンは勇者であるアレスにクビを言い渡される。  理由は荷物持ちのくせに、満足な働きができなかったからだった。  くそっ、俺は頑張って荷物持ちをしてきたんだぞ。  などと思っても遅かった。  余計なことを言ったことで殺されそうになったグレンは、家に帰るなり元大賢者の母親に事情を話す。 「はあ? いきなりクビでパーティーから追放ってどういうことやねん!」  事情を知った元大賢者の母親は怒り狂い、グレンを連れて冒険者ギルドへと向かう。  その後、元大賢者の母親による冒険者ギルドでのカチコミが行われることとなる。  当然ながら単なる荷物持ちだったグレンは、事の成り行きを盛大に心の中でツッコみ続けた。  やがてすべてが終わったとき、なぜかグレンは冒険者たちの神と呼ばれる存在になってしまう。  これは後世において、魔王を倒した荷物持ちの物語?

第一話     荷物持ち、勇者パーティーから追放される

「グレン、お前はクビだ! この勇者パーティーから出て行け!」


 冒険者ギルドの中に勇者――アレスさんの声が響き渡る。


 一方、俺はアレスさんからの追放宣言に驚いてしまった。


 どうして俺がいきなり勇者パーティーをクビになるんだ?


 と思った俺は慌ててアレスさんにたずねた。


「待ってください。いきなりクビなんてひどすぎます。それに今すぐ出て行けって……」


 そうだ、いくら勇者とはいえひどすぎる。


 俺は今までパーティーの荷物持ちとして頑張ってきたんだ。


 それなのに突然のクビから追放なんてダブル・コンボは鬼の所業しょぎょうだ。


 ああ、考えたら腹が立ってきた。


 とりあえず、顔だけは必死な弱者を演じて心の中で勇者を罵倒ばとうしよう。


「くそっ、ウゼえな。たまたま上級モンスターを狩れてSランクの冒険者になったくせに。そんで、たまたま功績が認められて国王から勇者に指名されたくせに。前から思ってたけど、お前ら全員クズだぞ。勇者パーティーに認定されたからって毎日毎日ハメを外しやがって。特に勇者、てめえだよ。毎晩毎晩、気が狂ったように娼館しょうかんに行くってどれだけ股間の息子の節操せっそうがねえんだよ。バーカ、バーカ……ふう、ちょっとは落ち着いたな」


 次の瞬間、アレスさんは腰の剣を抜きながら立ち上がった。


「な、何だと! てめえ、もういっぺん言ってみろ!」


 そして両目を血走らせながら、剣の切っ先を俺に向けてくる。


 あ……まずい、これって心の声が口から出ていたパターン?


「この無能の荷物持ち! あなた、誰に向かって言っているのか分かってんの!」


 次に俺を怒鳴り散らしたのは僧侶のコレットさんだ。


 金髪碧眼きんぱつへきがんの17歳でちまたでは聖女とも呼ばれている。


 ちなみに勇者のアレスさんと寝んごろな関係なのは俺も知っていた。


「コレットの言う通りだ! 俺たち勇者パーティーに何の恩恵も与えなかったクズのくせに、あろうことかリーダーであるアレスの悪口を言うとは……無能とはまさに貴様のためにある言葉だ!」


 なんて怒声を浴びせてきたのは、全身鎧を着た重剣士のバトーさんだ。


 確か年齢はアレスさんと同じ20歳だったかな?


 そんで中肉中背のアレスさんと違って、正直なところバトーさんはくまが鎧を着ているようにしか見えない。


 そんなバトーさんは剣士とタンクの役割を兼ねたパーティーのかなめであり、文字通り勇者のアレスさんを身体を張って守ることを生きがいとしていた。


 ちなみにバトーさんもアレスさんと夜の関係を持っている。


 こればかりはマジで知りたくはなかったけどね。


 どっちが攻めでどっちが受けなんだよ……ってたまに考えてしまう。


 まあ、それはさておき。


 俺の不注意で場の雰囲気ふんいきは一気にヤバイ感じになってしまった。


 周囲にいた冒険者たちも、ハラハラしながら俺たちの様子をチラ見している。


「もう我慢ならねえ! おい、グレン! さっさとこの場から出て行け! それとも俺に叩き斬られたいか!」


 いや、まずはクビの理由を説明しろよ。


 いきなりクビです、はい追放です、はさすがに通らないだろうが。


「アレスさん、俺をクビにする理由を教えて下さい。でないと納得できません」


 仕方なしに俺は下手に出てくと、アレスさんは聞く耳を持たないとばかりに大声を上げた。


「そんなもん、決まってるだろ。てめえが荷物持ちとしての働きが出来なかったからだよ。それに俺たちは晴れて国から認められた勇者パーティーになったんだ。もうてめえみたいな無能をパーティーに入れておくにはいかねえんだよ」


 そんな前口上まえこうじょうをキッカケに、アレスさんは俺がいかに荷物持ちとして無能だったのかを口に出していく。


「――とにかく、グレン・スコフィールド。てめえは今日限り、俺たち勇者パーティーの【封魔ふうま滅却めっきゃく煉獄れんごく百花繚乱ひゃっかりょうらんかい】から追放する!」


 俺はやれやれと嘆息たんそくした。


「相変わらずクソ長いパーティー名だな。それにかいって何だよかいって。お前ら勇者パーティーになる前からかいって付けてただろ? 普通は勇者パーティーに晴れてなったときに付けるんじゃないのか? そういうところが頭が悪いんだよ……おっと、またさっきと同じ過ちを繰り返すところだったぜ。今度こそ、こいつらに聞かれないように心の中でとどめないとな」


「だから、ずっと心の声がだだれてんだよ!」


 アレスさんはいきなり剣を水平にぎ払ってきた。


「うわっッ!」


 俺は後方にけ反りながら、何とかアレスさんの斬撃をかわした。


 しかし、咄嗟とっさのことだったので俺は体勢を崩して尻もちをついてしまう。


「失せろ、この無能が! 二度と俺たちの前に姿を現すな!」


 何て理不尽りふじんな奴らだ。


 パーティーの荷物持ち兼雑用として今まで頑張ってきた俺を、寄ってたかってこんな無下むげに扱うなんて。


 いよいよ堪忍袋かんにんぶくろの俺が切れかけてきた俺は立ち上がり、周囲の冒険者が注目する中で堂々とアレスさんたちに言い放った。


「退職金は出るんですよね!」


「失せろ!」


 そして荷物持ちの俺――グレン・スコフィールドは勇者パーティーを追放され、お母さんが待つ家路いえじについたのだった。


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