目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第27話 猫と狼

談笑しながらトレイの上をジャンクフードをつまんでいる。

最後のポテトを取ったシバタはマユミの後ろを見て、小さく唸った。

『なんだ?』

『なに?』

くるっと振り向くと勢い良く飛び込んできた金髪の青年が、店内をきょろきょろ見回している。

そして奥の席にいたマユミに気がつくと花が咲いたように笑顔になった。

『マユ!』

声は聞こえなかったが、彼の口が確かにそう動いてマユミの元へ突進してくる。

マユミは走って胸に飛び込んできたカナエを抱きとめる以外の方法をもてなかった。


『マユ会いたかった。』

カナエはぼそぼそとマユミに言った。

『カナエ君?』

キラキラした瞳を向けられて驚いたが、マユミは入り口付近を見た。

『カナエ君、今日は先生は一緒じゃないんですか?』

『今日はいない。一人で帰ってたらマユが外から見えたんだ。』

『ああ・・・。』

丁度窓際の席で外からも中は確認できる。

若干窓の外と店内がざわつき始めてマユミは落ち着かなかった。

『とりあえず離れてくれる?』

カナエを隣に座らせるとマユミはシバタに視線を向けた。シバタは頷いて席を立つと店を出て行く。

少しすると急いで戻ってきた。


『タクシー捕まえてきた。行こう、君も行こう。』

荷物を纏めてシバタはマユミの背を押し、カナエの手を引っ張った。

おとなしくついてくるとタクシーに乗り込む。

行き先を告げて車は走り出した。

『ええと、それでマユミはこの子と知り合いなわけ?』

『あー、うん。知ってるのは知ってるけど、あんまり知らなくて。』

『なるほど。』

マユミにしがみ付いたままのカナエは、シバタを見て頬を膨らした。

『マユの友達?俺のこと知ってる人?』


シバタは優しく笑うとカナエの顔を覗きこむ。

『そうですよー。とりあえずこの先で俺は降りるから。あとはよろしくな。』

『うん、ありがとうシバタ。』

タクシーが途中で止まりシバタが降りるとそのままマユミの家へ。

部屋に入るとカナエは嬉しそうに笑った。

『ここマユの部屋?綺麗だね。』

『ありがとう。それよりカナエ君、先生の連絡先とかわかるかな?』

『わかるけど・・・自分でする。だめ?』


仕方なくマユミは部屋に座るとカナエも傍に座った。

その距離は恋人の距離だ。

タカヤからカナエのことは聞いていた。

スキンシップが好きで男女関係なくパーソナルスペースに飛び込んでくる。

猫みたいな子だと。

背が高いため年齢を間違われやすいが彼はまだ17歳。

子供なのだ。

すりっと体を寄せられてマユミは後ずさる。

さすがに恋人でもない人と触れ合うのは違和感がある。


『マユ・・・嫌?』

そう聞かれて素直に答えたら癇癪かんしゃくを起こしそうな雰囲気がある。

マユミはやんわり笑うと壁に背をつけた。

それに気を悪くしたのかカナエは息を吐く。

『なんだ・・・嫌いなら嫌いって言えばいいじゃん。』

さっきとはうって変わってカナエの顔つきが変わる。

『マユって優柔不断?それとも色仕掛けはだめな人?』

『え?』

カナエは両手で髪をかきあげると、マユミを見下ろした。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?