真夜中、静かに車が住宅街に止まる。
助手席から降りるとマユミは運転席のタカヤに軽く会釈した。
『先生、ありがとうございます。』
『いや、こんなに遅くまでごめんね。おやすみ。』
『おやすみなさい。』
軽く手を上げて去ってゆく車を見送ると、マユミは家に入る。
足音を響かせないように静かに移動すると部屋に入った。
とんでもない一日だった。
まさかタカヤに会えるなんて思いもしなかったし、また気持ちが通じるなんて・・・。
ベットに横たわり息を吐く。
目を閉じるとまだ感覚を思い出せる気がしたが、ぷるぷると頭を振った。
『だめ、ほんとだめ。』
体を起こして指で唇に触れた。
・・・すごく・・・気持ちよかった。
やっぱり相性が良いのだと思う。
女の子とキスをしても確かに柔らかいし気持ちは良い。
でも胸に火をつけるものはなかった。
どうしたってタカヤと比べてしまっていた。
マユミは長い溜息をつく。
今まで付き合ってきた女の子たちが悪いわけじゃない。
どう考えたってマユミが悪い。
ベットから足を下ろすと疲れた足取りで風呂へ向かった。
学校が終わり、クラスメイトのシバタとファストフードに入る。
注文し終えて席に着くと、やっぱり当たり前のように女の子の視線は飛んでくる。
シバタはにやりと笑うとポテトを
『やっぱり女どもは俺の魅力に気付いてる。』
『バカ。』
額に手を当ててマユミが笑うとシバタは残念そうにした。シバタという男は初めからそうで、マユミがモデルだと知ってからも何も変わらない。
こうして笑わせてくれる友人だ。
傍にいて安心できる一人でもある。
『そういやさ、カナエって知ってる?』
バーガーの包みを開けてシバタは齧り付く。
『カナエ?』
聞いたことのある名前だがとマユミは首を横に振る。
『なんかさ、くっそ難しい数式を解いたとかなんとかで・・・海外のほうで人気が出て、スカウトが来てるとかなんとか。』
『なに?そのなんとかなんとか・・・情報しっかりしてないじゃん。』
シバタはストローを口に含むと真面目な顔をした。
『いや、それがさ。もう情報が多すぎんの。なんかその子すごいんだよ、色々と。んですっげえ綺麗な顔してんの。俺びっくりしたよ。』
『へえ・・・シバタ好みの女の子?いいじゃん。』
『よかねえよ、男の子。』
『男の子?』
シバタは電子パットを取り出すと、モニターに映して見せた。
SNSの記事で写真は見覚えのある金髪の青年が映っている。
『え?』
見出しの派手さにも驚いたが、あの告白をしてきたカナエで間違いなかった。
『なんか孤児らしくて、海外のセレブがスポンサーに名乗りを上げてるうんぬん書いてある。本人はなんか断ってるらしいとかなんとか。』
『だから、そのなんとかはなんとかならんわけ?』
シバタは笑うと両手を挙げた。
『なんねえよ。』