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第46話 すれ違い

『だから、昨日も話しただろ!』


席に着いていたカナエがテーブルを叩くと、目の前に座っているタカヤは彼を

睨みつける。昨日からカナエはこの調子だ。

聞き分けができないほどバカじゃない。けどタカヤには我侭を許してもらえる

といつも思っている子供だ。


『カナエ、座りなさい。』

『なんで!もういいでしょ?』


顔を見ていても喧嘩をしたいわけじゃないだろう。

『・・・頼むから。』

タカヤは煙草に火をつけると煙を吐き出した。


『・・・。』

今にも飛び出して行きそうな勢いだったが、カナエは拳を握ってもう一度腰を

下ろす。体を横に向けてテーブルに頬杖をつく。


『何?』


留学についてはもうタカヤも認めてしまっていた。やりたいことがあるならや

らせてやりたい。元々タカヤの家はそういう方針だったし、カナエにもそうし

てやりたい。

ただ、険悪なままで離れるのは絶対に嫌だった。


最近気持ちがすれ違うことが多い、どうしてかは二人とも分かってはいる。で

もそれを認めてしまったら、大切なものに嫌悪を向けてしまう。・・・いや、き

っと二人ともそれが出来ないから、目を逸らしている。


『カナエ・・・俺は喧嘩したいわけじゃない。』

『そんなのわかってる。』


近頃カナエは本当に雰囲気が変わった。以前のような我侭放題する感じでなく

、少し大人びて見える。それとマユミの影も見える。彼の影響は大きい。以前

は選ばなかった服や、髪、アクセサリーが素敵で腹立たしい。


マユミに嫉妬している自分がいる。でもその嫉妬の裏にはどうしてカナエと?

俺じゃ駄目なのか?という疑問がついてまわる。


そんな気持ちを察したのかカナエは息を吐いた。

『俺が留学したら・・・マユと付き合えばいいじゃんか。』


『え?』


『マユは俺を大切にしてくれる、友達だって言ってくれてる。俺が不安になれ

ばギュッて抱きしめてくれるし・・・でも友達・・・。先生は俺とは違うじゃん。先

生はちゃんとマユが見てる。マユは先生が好きじゃんか・・・。』


カナエの大きな瞳から涙が零れる。


『俺はさ、悔しいんだ。マユがこっち見てくれなくて・・・でも一緒にいたく

て・・・友達ならマユは傍にいてくれる。』

頬を伝う涙が綺麗でたまらない。


『バカだよな・・・俺。会うたびに好きになる・・・あんな風に・・・。』と言いかけ

てカナエは言葉を止めた。目を閉じて息を吐く。


『カナエ?』

『俺はマユを好きだし、大切に思ってる。先生もそうだろ?』


カナエはテーブルに手をつくと、まっすぐな瞳でタカヤを見た。


『好きなんだろ?』

涙で濡れた瞳がキラキラして、睫毛が濡れている。


『・・・好きだ。』

分かっていた顔をしてカナエは体を起こす。立ち上がりタカヤを見下ろすと微

笑んだ。


『・・・聞いていい?』


『ああ・・・。』

『俺の事、愛してる?』


煙草を持つ手が震えていた。即座に愛してると言いたいのに言葉に詰まったの

か声が出ない。タカヤは口を開くとすぐに閉じた。


カナエの肩がゆっくりと上下する。長い溜息のあと、小さく呟いた。


『俺は愛してるよ。』

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