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第50話 決断

恋と言うのは時に悪戯をする。

本当に恋をしているはずの人には手が届かずに、突然現れた天使に手を伸ばしてしまうのだから。

勿論、カナエが好きだとマユミは思う。

それでも罪悪感を覚えてしまうのは、多分・・・。

腕の中にいたカナエがぱちりと目を開けた。

『マユ。起きたの?』

『うん、正確には起きてた・・・かな。』

カナエはフフと笑うとマユミの胸に顔をうずめる。

『俺、今・・・凄く幸せなんだけど・・・ね。』

『ん?』

『ちょっと思っちゃう。』

『何を?』

柔らかい金髪をそっと撫でるとカナエは顔をあげた。

『俺・・・欲張りなんだ。マユのこと、凄い好きでこうしてるの凄い嬉しくて。

けど・・・先生のことも好きなんだ。』

『うん。』


『二人を天秤にかけるつもりなんてないのに、何で欲しいと思っちゃうのかな。俺は・・・本当にダメだなあ。』

伏せた睫毛が揺れている。

そうだ、同じ思いを抱えている。

どうして好きだと感じてしまうのか。

今こうしてカナエを抱いているのに、タカヤを思っている。

それはカナエも同じで。

そしてきっと・・・タカヤも同じ。

カナエが体を動かすと、唇を触れさせた。

『・・・だからね、俺・・・一回この場所を離れてみようと思ってるんだ。あ、マユが嫌とかじゃないよ?今だって、ずっとこうしてたい。』

『うん。』

『気の迷いとかじゃない。本当に・・・けど、マユも先生も、俺も・・・考える時間は必要なのかなって思ってる。』

確かにそうだと思う。


マユミはカナエの額にキスをすると微笑んで頷いた。

『そうだね。・・・カナエ君、聞いてもいい?』

『何?』

『カナエ君は僕のどういうところが好きなの?』

なんとなく質問してみたけど、カナエの顔が赤くなった。

『・・・んんと。』

視線を泳がせて瞼を閉じる。

唇がきゅっと結ばれると、んんっと声が漏れた。

『・・・あの・・・ね。前も言ったけど、先生が雑誌を見せてくれたんだ。マユの特集だったと思う。ひ、ひとめ・・・ぼれだったんだ。あんなに綺麗で格好良い人

見たことなかったし。初めはそうだったんだよ。』

『今は・・・違うの?』

『ち、違わない。あ・・・じゃなくて。今のほうがもっと・・・。俺はさ、目の前でマユを見た時、混乱しちゃって夢中で話しかけちゃって。声が聞きたい、こっちを見て欲しい、抱きしめたい、抱きしめられたいって。』


そういえばそうだった。

マユミが笑うとカナエが眉をしかめる。

『思い出す・・・よね?でも、一所懸命にマユに話しかけてよかった。だって・・・今こうやってして・・・俺はマユの傍にいる。・・・好きだって、言ってくれたんだよね?』

瞳が揺れて、胸の中に愛しさが増してゆく。

『うん。』

『もう一回言ってくれる?』

カナエの指がマユミの唇に触れた。

『・・・好きだよ。』

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