恋と言うのは時に悪戯をする。
本当に恋をしているはずの人には手が届かずに、突然現れた天使に手を伸ばしてしまうのだから。
勿論、カナエが好きだとマユミは思う。
それでも罪悪感を覚えてしまうのは、多分・・・。
腕の中にいたカナエがぱちりと目を開けた。
『マユ。起きたの?』
『うん、正確には起きてた・・・かな。』
カナエはフフと笑うとマユミの胸に顔をうずめる。
『俺、今・・・凄く幸せなんだけど・・・ね。』
『ん?』
『ちょっと思っちゃう。』
『何を?』
柔らかい金髪をそっと撫でるとカナエは顔をあげた。
『俺・・・欲張りなんだ。マユのこと、凄い好きでこうしてるの凄い嬉しくて。
けど・・・先生のことも好きなんだ。』
『うん。』
『二人を天秤にかけるつもりなんてないのに、何で欲しいと思っちゃうのかな。俺は・・・本当にダメだなあ。』
伏せた睫毛が揺れている。
そうだ、同じ思いを抱えている。
どうして好きだと感じてしまうのか。
今こうしてカナエを抱いているのに、タカヤを思っている。
それはカナエも同じで。
そしてきっと・・・タカヤも同じ。
カナエが体を動かすと、唇を触れさせた。
『・・・だからね、俺・・・一回この場所を離れてみようと思ってるんだ。あ、マユが嫌とかじゃないよ?今だって、ずっとこうしてたい。』
『うん。』
『気の迷いとかじゃない。本当に・・・けど、マユも先生も、俺も・・・考える時間は必要なのかなって思ってる。』
確かにそうだと思う。
マユミはカナエの額にキスをすると微笑んで頷いた。
『そうだね。・・・カナエ君、聞いてもいい?』
『何?』
『カナエ君は僕のどういうところが好きなの?』
なんとなく質問してみたけど、カナエの顔が赤くなった。
『・・・んんと。』
視線を泳がせて瞼を閉じる。
唇がきゅっと結ばれると、んんっと声が漏れた。
『・・・あの・・・ね。前も言ったけど、先生が雑誌を見せてくれたんだ。マユの特集だったと思う。ひ、ひとめ・・・ぼれだったんだ。あんなに綺麗で格好良い人
見たことなかったし。初めはそうだったんだよ。』
『今は・・・違うの?』
『ち、違わない。あ・・・じゃなくて。今のほうがもっと・・・。俺はさ、目の前でマユを見た時、混乱しちゃって夢中で話しかけちゃって。声が聞きたい、こっちを見て欲しい、抱きしめたい、抱きしめられたいって。』
そういえばそうだった。
マユミが笑うとカナエが眉をしかめる。
『思い出す・・・よね?でも、一所懸命にマユに話しかけてよかった。だって・・・今こうやってして・・・俺はマユの傍にいる。・・・好きだって、言ってくれたんだよね?』
瞳が揺れて、胸の中に愛しさが増してゆく。
『うん。』
『もう一回言ってくれる?』
カナエの指がマユミの唇に触れた。
『・・・好きだよ。』