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第51話 大切なもの

リュックを背負うカナエの後を静かに追っている。

なんとか和解はしたものの、どうにも言葉にならずにタカヤは少し視線をおと

していた。

空港はタカヤと同じように送る人々が別れを告げている。

目前でぴたりと足が止まって、タカヤは視線を上げた。

『先生・・・あれ。』

カナエは向こうを指差す。その先にはマユミがいた。

息を切らして走ってくると二人を見てにっこりと笑う。

『すいません、遅れてしまって。』

マユミの言葉にカナエは首を横に振る。

『大丈夫、間に合ったよ。会えてよかった。』


『うん・・・。』

二人の会話にタカヤはくるりと背を向ける。

どうしても聞いていたくなくて、ポケットから携帯を取り出すと、まるでかかってきたフリをした。

振り返り片手を上げて目配せをする。

無様ぶざまだな・・・とタカヤは思った。


昨日の晩、部屋を片付けているカナエがいた。

そのままでもいい、と言ったのに、ちゃんとしとかないとと笑う。

タカヤはカナエの部屋の前に座っていた。

『・・・部屋、綺麗になったな。』

『うん・・・?どうしたの?』

ほがらかに返答してくれたおかげでタカヤも二の次が打てた。

『カナエは・・・掃除が上手だな。昔から。』

『まあね、いつでもそこから消えてしまえるように癖がついたのかな。』

本棚に触れる手が少し止まって、カナエの横顔が寂しげに笑う。

『けど・・・行くって言っても、三年くらいだし。』

『うん。』

そう返事したけれど、本当に言いたい言葉ではない。

帰ってこいよ、ここに。

タカヤはそれを喉でつかえさせている。小さく溜息をついてカナエを見た。

出逢った頃よりも成長している。背も伸びて以前のような不安定な雰囲気もない。

マユミのおかげだろうか・・・それとも。


タカヤが黙っているとカナエはすぐ傍に座った。

『先生。』

『ん?』

『フェアじゃないから・・・言っとく。俺、マユが好きだよ。』

まっすぐな目にタカヤは唾を飲み込んだ。

『・・・ああ。知ってる。』

『きっとマユの口から聞くかも知れない、だから言っておく。俺、マユと寝た。・・・ごめん。』

『なんで謝る?』

『・・・わかんない。でも、そうするべきだって思ったから。』


カナエの瞼が落ちて俯いた。

『ごめんね。』

そっと手を伸ばしてカナエを抱きしめる。柔らかい髪を指を絡ませた。

『・・・仕方ない。好きなんだろ?』

『うん、でも先生も好きだ。』

なんだ・・・本当に。俺達は同じ思いを抱えているのか?

『ああ、知ってる。』


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