少し離れた場所でタカヤが電話をしている。
マユミは目の前にいるカナエを見ると頷いた。
『あっという間だったね。』
『うん、あっという間。』
別れるまでの期間を二人で少しずつ埋めていたけど、簡単に今日を迎えてしまった。
カナエがマユミの袖を掴む。
『ねえ・・・マユ。』
『うん?』
『実はさ・・・すっごい緊張してるんだ、俺。』
そう言ったカナエの指先は確かに震えていた。
マユミはカナエの指を包んで微笑む。
『うん、大丈夫だよ。カナエ君なら。』
『だったら・・・いいんだけどね。』
『何か、心配ごと?』
カナエはチラッと空港のガラス窓のほうへ視線を向けた。
滑走路には飛行機が止まっている。
『・・・あれ、乗るの怖いんだよね。』
ああ、と笑ってマユミは指先を下へゆっくりと動かした。
『・・・みたいな?』
『・・・うん、分かってはいるんだけど。』
マユミは笑うと大きく頷いた。
『大丈夫だよ、・・・うん。』
そっと視線を降ろして自分の
『お守り。無事に到着できるように。』
カナエは驚いた顔をして指先を見つめている。
『・・・ぶかぶかだ。』
指輪はカナエの指でくるくる回っていた。
『本当だ。ごめん。』
『・・・ううん、嬉しい、ありがとう。』
ふと館内アナウンスが聞こえて、カナエが顔を上げた。
『そろそろ行く。』
『そっか・・・タカヤさんはいいの?』
『うん、昨日お別れしたからね。』
『そっか。あのね・・・マユ。』
そっと近づいてカナエはマユミに耳打ちする。
その言葉にマユミは小さく声を漏らす、するとカナエはとびっきりの微笑を浮かべると大きな声で言った。
『行ってきます。』
『いってらっしゃい、カナエ君。』
手を振って歩いていく。その背中にマユミは手を振っていた。
『行ってしまいました。』
マユミは隣で飛行機を見つめているタカヤを見る。彼は
『うん・・・行ってしまった。』
空港はまた次の別れと出会いの場となり、騒々しい。
『・・・帰ろうか。』
タカヤの言葉にマユミは頷いた。