行きはタクシーで来たので、帰りはタカヤの車に乗っていた。
マユミは運転するタカヤを横目に、窓の外を眺める。
車はゆっくりと都心へと向かっていた。
『三年か・・・長いな。』
タカヤはぽつりとぼやく。
『長い・・・ですかね。』
三年はマユミがタカヤを待っていた年月だ。長いといえば長いし、短いかといわれれば苦しかった。
『・・・なあ、マユミ君。』
『はい。』
『カナエが君と付き合えと言ってた・・・。』
タカヤは片手で煙草を出すと口に銜える。
『・・・そう、ですね。』
別れ際、カナエは小さな声で言った。
『タカヤ先生と幸せになってね。』と。その言葉にうんともすんと言えずに、
ただ別れを告げるしかなかったのはマユミだ。
『マユミ君はどう思う?』
『どうって・・・。』
そう考えてタカヤを見た。優しい瞳にマユミは唇を噛む。
・・・ずるい人だな。
マユミはそっとタカヤに手を伸ばすと、タカヤはマユミの手を繋いだ。
『前もこうした。覚えてる?』
『・・・はい。』
指が絡んで、その暖かさに泣き出しそうになった。今はこうしていたい。
車はゆっくりとタカヤの家へ止まった。
それからは時間が加速するように動き、マユミはタカヤの腕に抱かれた。
カナエとの別れと、今まで繋がれなかったタカヤへの思い。
どうしようもなく揺れて、マユミは自分の中の失望と向き合っていた。
自分が誰を好きなのか。
今こうして抱き合っている人を愛しているのか。
快楽だけに溺れていないのか。
本当に心の底から愛している?
降り注ぐキスの熱さに想いが溶けていく。
『ずっとこうしたかった。』
タカヤの声が耳に響いて、何度も手を伸ばす。
汗がぽたりと落ちて、タカヤの甘い香りが広がった。
『いつからだろ・・・。』
マユミは吐く息と共に言葉を漏らす。
『うん?』
『あなたが好きだって思ってた。ずっと今も好きだって。』
『マユミ君。』
唇を塞がれて、思考が停止する。
『だめだよ、こっちを向いて。こっちを見て。カナエを思わないで。』
『先生・・・タカヤさん。』
愛しい人は目の前にいる。
『タカヤさんを愛しています。』