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第53話 寄り添いあう気持ち

行きはタクシーで来たので、帰りはタカヤの車に乗っていた。

マユミは運転するタカヤを横目に、窓の外を眺める。

車はゆっくりと都心へと向かっていた。

『三年か・・・長いな。』

タカヤはぽつりとぼやく。

『長い・・・ですかね。』

三年はマユミがタカヤを待っていた年月だ。長いといえば長いし、短いかといわれれば苦しかった。


『・・・なあ、マユミ君。』

『はい。』

『カナエが君と付き合えと言ってた・・・。』

タカヤは片手で煙草を出すと口に銜える。

『・・・そう、ですね。』

別れ際、カナエは小さな声で言った。

『タカヤ先生と幸せになってね。』と。その言葉にうんともすんと言えずに、

ただ別れを告げるしかなかったのはマユミだ。

『マユミ君はどう思う?』

『どうって・・・。』

そう考えてタカヤを見た。優しい瞳にマユミは唇を噛む。

・・・ずるい人だな。

マユミはそっとタカヤに手を伸ばすと、タカヤはマユミの手を繋いだ。

『前もこうした。覚えてる?』

『・・・はい。』

指が絡んで、その暖かさに泣き出しそうになった。今はこうしていたい。



車はゆっくりとタカヤの家へ止まった。

それからは時間が加速するように動き、マユミはタカヤの腕に抱かれた。

カナエとの別れと、今まで繋がれなかったタカヤへの思い。

どうしようもなく揺れて、マユミは自分の中の失望と向き合っていた。


自分が誰を好きなのか。

今こうして抱き合っている人を愛しているのか。

快楽だけに溺れていないのか。

本当に心の底から愛している?

降り注ぐキスの熱さに想いが溶けていく。


『ずっとこうしたかった。』

タカヤの声が耳に響いて、何度も手を伸ばす。

汗がぽたりと落ちて、タカヤの甘い香りが広がった。

『いつからだろ・・・。』

マユミは吐く息と共に言葉を漏らす。

『うん?』


『あなたが好きだって思ってた。ずっと今も好きだって。』

『マユミ君。』

唇を塞がれて、思考が停止する。

『だめだよ、こっちを向いて。こっちを見て。カナエを思わないで。』

懇願こんがんするような言葉に涙が溢れた。

『先生・・・タカヤさん。』

愛しい人は目の前にいる。

『タカヤさんを愛しています。』

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