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第10話 南国修学旅行・前編


第三者side


ハロウィンの一件以降、瑞稀達にオムニバスのことがバレてしまった。

ダークエイドヴァルキリーに狙われないようにするために、このことは極秘にすることと決定された。

それから1週間後。


「さぁ、そろそろ修学旅行だな!」


ホームルームの時間に担任がそう言う。


「修学旅行……初めてです……!!」

「やっぱり、そうなのか」

「ええ。意識を取り戻してからは勉強三昧だったので」

「修学旅行の行き先は南国、沖縄だ!!」

「「「うおおおおおおっ!!」」」


クラスが一気に湧き立つ。


「沖縄ですか……いいですね」

「だな」


莉乃達がそんな会話をする中、クラスの男子は一丸となってあることを考えていた。


「「「(女子の水着姿が見られる!!)」」」


水泳の授業がないため、男子にとって女子の水着というものはレア中のレアである。


「おい男子〜!浮かれすぎるなよ〜!」


そんな心情を察している担任は釘を刺しておく。


「とりあえず、今から自由行動の班を決めるんだが……」

「「「はい!!」」」

「「「七瀬さんと一緒がいいです!!」」」

「「「宮田と一緒がいいです!!」」」


露骨な割れ方をした。


「何故そんなに私がいいんでしょうか?」

「自覚のないのか……」


颯斗は“可愛いからに決まっているだろ”と言いかけ、その言葉を飲み込む。


「どうしたんですか?顔が赤いですよ」

「なんでもない」


そんな様子を見て瑞稀が頬杖を突きながら。


「男子ってホント単純よね〜……」


ぼやくように言った。


「ねぇ、莉乃!」

「な、なんですか?」


瑞稀は莉乃の席に行き、声を掛ける。


「同じ班で回らない?」

「いいですよ」

「マジで!?」

「はい。マジです」

「やった〜!ってことで、先生そういうことで!」

「勝手に決めるんじゃないよ……」


瑞稀の行動には担任も頭を抱えていた。


「なら、俺も一緒に回る」


颯斗が対抗してくる。


「なんで?別に私と2人でいいじゃん」

「お前に莉乃は任せられん」

「え?」


挟まれる莉乃は困惑する。


「莉乃ガチ勢の取り合いだ!」

「旦那が勝つか、愛人が勝つか!」

「「旦那(愛人)じゃないわ!」」


クラスメイトの野次に2人が言い返す。

そんな時だった。


「全く……2人とも何をしているの?」


美香が現れた。


「み、美香?なんでここに?」

「私のクラスの担任、学年主任だから。変更点を伝えにきたのよ」

「そ、そうなんだ」

「変更点を伝えます。自由行動の班はクラスが違っても構いません」

「「「っしゃあああ!!」」」

「俺、彼女と回れる!!」

「あっ、ずりぃ!!」

「これだから彼女持ちは!!」


クラスが喧喧囂囂とし始めた。

そんな中、美香は教壇を降り、莉乃達の元に向かう。


「ということで、あなた達を私が監視するわ」

「「えっ」」

「公人。あなたも一緒よ」

「へいへい」

「これで班は決まりね」


美香はそう言って去っていった。


「美香ちゃんすごいですね。一瞬で班を決められるなんて……!」


莉乃は目を輝かせて感心していた。

そんな中、公人以外の2人は心中穏やかではなかった。


「「(2人がよかったのに……!!)」」

「ありゃりゃ……」


公人は呆れていた。


「(ま、美香と回れるならそれでいっか)」


ある程度班も決まり、クラスの喧騒も落ち着いた頃。


「じゃあ、修学旅行のしおりを配るぞ〜!」


担任は全員に旅の日程が書かれたしおりを配る。

莉乃は日程に目を通す。

日程としては3泊4日で、1日目には海で遊ぶ時間がほとんどを占めている。

ここでシュノーケリング体験やら色々と出来る。

2日目にはおきなわワールドに、3日目は美ら海水族館に、そして4日目に国際通りに向かう。

これらがその日の目玉である。


「海、ですか……」

「どうかしたの?」

「別に大したことではないのですが……」

「なになに?言っちゃいなよ!」

「私、水着を持ってないんですよね」

「えっ」

「「「ええええええええっ!?」」」


莉乃の呟きはクラス中に聞こえていたらしく、クラスメイトが全員を驚いていた。


「それもそうか……」


颯斗は驚かず、納得していた。


「待って?水着がないのが大したことじゃないの?」

「ええ。だって、下着で十分じゃないですか」

「全然十分じゃないよ!?」

「「「…………………」」」

「男子!!妄想するんじゃないよ!!」


瑞稀はひたすらに声を荒げてツッコんでいた。


「はぁはぁ……なんで私がこんなにツッコミしないといけないの……!?」

「お疲れ様」


颯斗は瑞稀の肩に手を置いてそう言った。


「そう思うな会長もツッコんでよ!?」

「悪い。今日はお前に譲りたくなった」

「要らない譲歩っ!!」

「颯斗君と瑞稀ちゃん、夫婦みたいですね」

「「はっ?」」


2人ともマジトーンで返す。


「いやいや!なんで俺がこんな変態と夫婦なんだよ!」

「そうだよ!私、こんな男嫌なんだけど!?」

「颯斗君、瑞稀ちゃんは変態なんかじゃありません。優しくてすごくいい人です」

「えっ」

「瑞稀ちゃん、颯斗君はすごく頼りになるかっこいい人です」

「えっ」


2人の顔はみるみるうちに赤くなる。

その時、クラス中の意見が一致した。


「「「(いや、俺(私)(僕)達、何を見せられてるの……?)」」」


─────────────────────────────────────


放課後。

莉乃は瑞稀と美香に連れられ、水着を買いに来ていた。

瑞稀が美香に事情を話したところ、美香も“それは大事だ”と一緒に水着を選びに来てくれたのである。


「わざわざすみません。生徒会のお仕事があったのに……」

「いいの。気にしないで。それよりも莉乃の水着問題の方が遥かに大事よ。仕事はあのバカ2人に押し付け…ゲフンゲフン。任せておけば大丈夫よ」

「今、押し付けておけばって言おうとしました?」

「してない」

「しましたよね?」

「してない」

「しましt」

「してない」

「そ、そうですか」


莉乃は美香の圧力に負けた。


「2人共、早く行くよ!」


瑞稀に続いて2人も水着売り場へと向かった。


─────────────────────────────────────


「なんでそんなに熱心なんですか?」


莉乃は困惑していた。

水着売り場に到着した途端、瑞稀と美香が血眼になって水着を選び始めたのだ。


「そんなの決まってるじゃない!」

「そうよ!」

「えっ?」

「「莉乃(っち)の魅力を最大限に引き出すため(だ)よ!!」」

「さ、さいですか……」


莉乃は若干引き気味にそう言った。


「(別に水着を着たからと言って特段面白くもないでしょうに……)」


2人が血眼になっている理由を聞かされてもなお、莉乃はよくわかっていなかった。


「「これ着てみて!!」」


2人から数着の水着を押し付けられ、莉乃は困惑しつつも試着室へと入った。


「ハァハァ……」


莉乃が着替えている間、瑞稀はハァハァ言っていた。


「(こ、この布一枚先で莉乃っちが全裸になってる……!!興奮してきたぁぁぁ!!)」


通常運転である。

一方の美香は自信満々だった。


「(私が選んだ水着は完璧!どっかの変態とは違って真面目に莉乃に合う水着を選んだわ!最高に決まってる!)」


こちらも通常運転である。

そんな2人の心中など知らずに莉乃はマイペースに着替えた。


「ど、どうでしょうか?」

「「………………」」


2人は沈黙した。

その視線は足元に注がれている。


「ねぇ、莉乃っち?」

「なんでしょうか」

「なんで靴下履いてるの?」

「へ?」

「だから、なんで靴下履いてるのって聞いてるの!」

「合わせるのは水着なので脱ぐ必要はないじゃないですか」

「わかってないな〜!」

「試着ってのはサイズの確認だけじゃなくて完成系を見るためのものなの!」

「そ、そうなんですか」

「わかったらさっさと脱ぐ!」

「は、はい」


莉乃は言われた通り、靴下を脱いで裸足になる。

完全体となった莉乃を見て、2人は満足そうな表情を浮かべ、サムズアップした。


「じゃあ、次行ってみようか!!」

「えぇ〜……」


莉乃の着せ替え人形化はしばらく止まることはなかった。


─────────────────────────────────────


「た、ただいま帰りました……」

「おかえり〜!お友達との放課後のお出かけどうだった?」


莉乃が帰ってくると満が嬉々として聞いてくる。


「楽しかったですけど、すごく疲れました……」

「現役女子高生は流石ね〜!」

「普段鍛えていなければ倒れていたことでしょう……」

「楽しめたみたいで良かったわ〜!お小遣いは大丈夫?」

「はい。問題ありません。これまで貯めてきた分があるので」


意識が戻り、薫達に引き取られてからというもの、お小遣いは貰っていた。

しかし、特に使い道が無かったのでそのほとんどを貯金していた。

そのため、莉乃はちょっとしかお金持ちである。


「じゃあ、修学旅行のお金を……」

「必要ありませんよ。それくらい自分で出しますから」


莉乃は飄々とそう言って自室に向かった。


「随分と、大人な対応をされたな」


満と莉乃の様子を見て、薫が声を掛ける。


「そうねぇ〜……精神は子供のまま、そこまで育ってないと思うんだけどねぇ……」

「案外そうじゃないのかもな」

「えっ?」

「オムニバスとして戦ってるんだ。精神的に一歩先にいてもおかしくはない」

「それはそうだけど……」

「でも、まだ未熟だ。莉乃が本当に困った時に俺たちが助けてやればいい」


薫は満の肩に手を置いてそう言った。


「それもそうね」


─────────────────────────────────────


そして。


「「「修学旅行だぁ〜!!」」」


修学旅行当日を迎えた。


「ちょっと男子!?」

「「「うるさいよ!」」」

「「「す、すみません……」」」


女子達に凄まれ、男子達は小さくなっていた。


「よし!今から点呼するぞ〜!出席番号呼ぶから返事しろよ〜!」


担任は点呼を取った。


「よし!全員いるな!」


その言葉に颯斗が感心したように呟く。


「珍しいな」

「そうなんですか?」

「いや、莉乃も知ってるだろ?定期的に遅刻してくる奴ら」

「ああ。確かに居ますね」

「全員居るってことはソイツらが遅刻してないってことだよ」

「それは…確かにすごいかもしれませんね」


莉乃は真面目な顔をしてそう言う。


「じゃあ、空港までバス移動だから乗り込めよ〜!キャリーケースは収納スペースに入れてから乗れよ〜!」


担任の指示に従い、順調に荷物を入れ、バスに乗り込んだ。


「さ、もうすぐで出発の時間だ!」

「「「うおおおおおっ!!」」」

「沖縄だ〜!!」

「マジで楽しみだぜ!!」


口々にそんな会話をする。


「隣、よろしくお願いしますね」

「あ、ああ」


莉乃と颯斗は隣の席だった。


「(や、やばい……!!いつもより莉乃が近い……!!心臓のバクバクが止まらない!!)」

「?どうかしましたか?」


莉乃は颯斗を覗き込みように聞く。


「な、なんでもないよ!?」


上擦った声でそう答える。


「そうですか?何かあったら言ってくださいね?酔い止めもありますし、頭痛薬もあります。それにエチケット袋も」

「か、完璧すぎる……っ!!」


莉乃はあらゆる状況を想定して様々な物を持ってきていた。


「何かあったら言ってくださいね」

「う、うん……」


颯斗は少し頬を赤らめながら返事した。


「(修学旅行最高〜っ!!!)」


─────────────────────────────────────


バスに揺られて少しした頃。


「さて、そろそろ高速道路だ!景色も飽き飽きしてきたと思う!ということで、バスの中で何をしたいか教えてくれ〜!」

「「「おおおおおおっ!!」」」


バスの中での娯楽が始まろうとしていた。


「まずはカラオケでしょ!」

「じゃあ私、『カブトムシ』歌いま〜す!」


クラスメイトのその言葉に莉乃はビクッと反応する。


「どうした?」

「べ、別になんでもないです」

「そうか?」


そこからはもうほぼパーティだった。

カラオケは大盛り上がりし、マジカルバナナも大盛り上がり。


「よし!そろそろ空港だからな!」

「「「は〜い!!」」」


─────────────────────────────────────


空港に着いた頃。

莉乃の携帯が鳴った。


「はい」

『莉乃ちゃん!空港にオミナスが現れたわ!』

「えぇ!?」


思わず声を上げる。


「どうかしたの?」


瑞稀がすかさず話しかけてくる。


「オミナスが現れました」

「えぇ!?」

「こんなところにまで来るのかよ!どうするんだよ!もう飛行機出るぞ!?」


颯斗は焦りながら言ってくる。


「問題ありません。颯斗君、マジシャンのカードを使います」

「え?」

「マジシャンカードの能力で一時的に人形のような分身を作り出します」

「それじゃ、俺たちが……」

「大丈夫です。マジシャンのカードの効果が切れると強制的に入れ替わることができます」

「なら安心だな。それで?効果時間は?」

「10分です」

「マジかよ……」

「短いですがやるしかありません」

「だな!」


颯斗はオムニバスチェンジャーにマジシャンカードスキャンし、外枠を回転させる。


『マジシャン!』

『マジシャン!アビリティ!』


すると2人にそっくりな自動人形が現れる。


「瑞稀ちゃん。あとはお願いします」

「任せてよ!」


2人は現場へと急いだ。


─────────────────────────────────────


『ジェットスパイダー!』

『マグネットライオン!』


「「はあああああっ!!」」


2人は走りながら変身し、オミナスを確認すると一気に殴り飛ばす。


「グオオッ!!」

「あの見た目……星か?」

「惜しいですね。プラネットです」

「惑星か!」


オミナスは太陽系の惑星が周囲に浮いていた。


「来たか」

「ダークエイドヴァルキリー……!!」

「申し訳ないですが、あなたの相手をしている暇はないんですよ」


2人はダークエイドヴァルキリーに目も暮れず、オミナスに攻撃を仕掛ける。


「はあああああっ!!」


颯斗が磁力で引き付け、莉乃が蜘蛛の糸でオミナスの行動を封じる。


「颯斗君、オミナスをお願いします」

「ああ!」


莉乃はダークエイドヴァルキリーが邪魔をしないように彼女の元へと飛んでいく。


『灼熱の騎士!リアクターナイト!』


ぶつかる直前でリアクターナイトへと姿を変え、ダークエイドヴァルキリーとブレードで鍔迫り合いする。


「くっ……!!」


その隙に颯斗はチェンジャーの外側を回転させていた。


『マグネットライオン!フィニッシュ!』


「はああああっ!!」


ライオンの顔のエフェクトを纏った蹴りでオミナスを貫いた。


「よし!」


そしてプラネットの力をカードに回収した。


「なに!?」


ダークエイドヴァルキリーはオミナスが一瞬で倒されたことに驚いていた。


『リアクター!』

『リアクター!ブースター!』


「はああああっ!!」


莉乃はその隙を突き、技を叩き込む。


「ぐあっ!!」


ダークエイドヴァルキリーは大きく後退し、膝を着く。

そして、10分が経過し、2人は姿を消した。


「クソがっ!!」


ダークエイドヴァルキリーは地面を殴りつけた。

すると彼女の脳内に声が響く。


『そう焦るな。ダークエイドヴァルキリー』

「ゲイル様……!」

『奴らは沖縄だ』

「なぜそれを?」

『私が知らないことはない。沖縄へ向かえ』

「はっ!」


─────────────────────────────────────


「危なかった〜……」


2人が戻れば、飛行機の中で、すでに離陸していた。


「なんとかなりましたね」


隣同士だった2人はそんな会話をする。


「マジシャン便利すぎないか?」

「アビリティカード達はそれぞれ固有能力を持ってますから」

「そうなのか?」

「ええ。時間を操ったり、それの応用で制限時間のない上に入れ替わりがない分身を使用可能なカードもあると聞きます」

「そうなんだ……」

「まぁ、今は修学旅行を楽しみましょう」

「だな!」


飛行機は沖縄に向けて飛んでいた。


           To be continue……


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